表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/4

4


 十年経ち──。



 また、十年経ち──。



 そして、また、十年経った──。



 時が経つのは早いものだ。


 美しく成長したフィアとアリアは、今では私達と離れて王都で暮らしている。


 私の容姿はクリスと出会った頃とあまり変わらないけれど、クリスには老いが訪れていた。


 クリスは病におかされていた。


「……ルィン、話があるんだ」


「どうしたの? 改まって」


「オレが死んだら、オレのことは忘れて、新しい出会いを見つけて欲しい」


 私はちょっとムッとした。


「なぜそんなこと言うの? 私は今でもあなたのことが好きなのに」


「エルフの君の人生はまだまだ続く。オレは君の人生の邪魔になりたくないんだ」


 クリスは悲しげに微笑んだ。


「確かに、先のことは分からないわ。でも、だからといって、あなたを忘れる理由なんてない。

 知ってる? あなたと過ごした時間は、あなたと出会う前の二百年間よりもずっと幸せだったのよ」


「ふ。嬉しいな。でもオレは、君が心配だ。だって、オレはもうすぐ旅立つ。

 そしていずれはフィアとアリアも君より早く旅立つ。

 その時の君の気持ちを考えると胸が締め付けられるよ……」


「……そうね。その時、私がどうなるかは分からない。でも私達に出来ることは毎日を大切に過ごすことだわ。

 だからもう、"オレのことは忘れて"なんて言わないで」


「ああ、分かった」


「約束する?」


「ああ、約束する。オレは約束は守る」





「──神よ。この者の魂を天の住処へお導き下さい。そして、願わくば安らぎをお与え下さい──」


 神父さまが、祈りをささげる。


「お父さん……おやすみな……さい」


「お父さん……今までありが……とう」


 フィアとアリアは棺に入れられたクリスに別れの言葉をかけた。


 私も彼に話しかける。


「クリス。あなたの心配した通り、私、今、すごくつらいの……」


 私の頬を、涙が伝う。


「でもね。このつらさはあなたと出会えた結果だから受け入れる。

 いえ、今は無理だけど、受け入れられるようになりたい……。

 今までありがとう。愛しているわ」




 二十年経ち──。




「──クリス。聞いて欲しいことがあってまた来たわ」


 私はお墓に話しかける。


「……ついに、フィアとアリアもそちらに行ってしまったの……。

 まさか死ぬ時も一緒だなんて、双子って不思議よね。

 二人ともおばあちゃんになったって嘆いていたけれど、私から見れば可愛い子どもだったわ……」


 私は、涙が溢れて。


「つらくてつらくて仕方ないの。自分がエルフであることを呪いたくなる。

 ……それでも、私は生きていく。

 どうかフィアとアリアと一緒に私を見守っていて」







 百年後──。



 私は、とあるバーのカウンターにいた。


「ルィンヘル。返事は考えてくれた?」


「ええ、ブランドン。あなたの好意は嬉しいけれど、求婚には応えられないわ」


「なぜだ。オレ達は共に戦場を駆けた仲じゃないか。オレ達はお互いに信頼できていただろう?」


「そうね。いい同僚だったと思ってる。でもあなたを愛することは出来ないの」


「まだ過去に縛られているのか? 家族がいたのはもう百年も前のことなんだろ? 過去に囚われて未来を台無しにする気か?」


「ブランドン……」


「もう十分だろ? オレがお前の家族だったら、新しい相手と一緒になって、お前に幸せになって欲しいと願う。

 過去ではなく未来を見て欲しいと願う」


「……」


「オレならお前を、過去の思い出から解放してやれる。未来を見せてやれる。

 オレは、お前を幸せにすると約束する」


「約束……?」


「ああ、約束する。オレは約束は守る」


 その言葉は、私に深く刺さった。


「──ない」


「え?」


「あなたからその言葉は、聞きたくない」


「どうしたんだ、急に」


「あなたは何も分かっていない。

 あなたとは価値観が合わないから、私はあなたを好きになれないの。

 過去に囚われて未来を台無しにする?

 私が過去の思い出を大切にして何が悪いの?」


「だから、それは──」


「あなたは自分の価値観を私に押し付けようとする。

 あなたの言うことは正論なのかもしれない。

 けれど、あなたの正論は私にとっては正しくないの」


「ルィンヘル……」


「はっきり言って、あなたはわずらわしい。戦場では一緒にいたけれど、もうあなたと会うことはない」


「ま、待ってくれ。オレが悪かった。お前の価値観を理解するように努力するから──」


 私は立ち上がってブランドンを見下ろす。


「もう同僚じゃない。だから、お前って呼ばないで。不快だから」


「待ってくれ! 頼む! 好きなんだ!」


「さよなら」


 私は振り返らずにバーを後にした。





 ──桜が綺麗に咲いている。


「──クリス。久しぶり」


 私はお墓に話しかける。


「この百年で、社会はずいぶん変わったわ。もう、目まぐるしくてついていくのがやっとよ。

 時々、エルフの国に戻った方が、自分に合っているんじゃないかとさえ思う」


 風が吹いて来た。


 桜の木々が揺れる。


 「でも、やっぱり私は人間が好きなんだと思う。

 実は、あなたが言ってくれたように、もし、新しい出会いがあるなら、身をゆだねてもいいと思っているの。

 でも、好きになれる人は全然、現れないんだけどね。ふふ」


 私は、お墓の隣に座ると、クリスに話したいことをいろいろと話した。


 また戦争があったこと。


 何人かから好きと言われたが、断ったこと。


 たわいもないこと。


 そうやって、気の済むまで話した。


「──じゃあ、そろそろ行くね。

 もし、そっちでフィアとアリアに会えたら、愛しているって伝えて欲しいの。

 ふふ。勿論、あなたも愛しているわ。じゃあまたね、クリス」


 私が立ち去ろうとすると、突然、桜の花が一斉に舞った。


 私は桜の花に包まれる。


 私はそれを見て──。


 愛する人が「またな」と声をかけてくれた気がした。


読んでいただきありがとうございました!

2ptでもいいので、ポイントだけいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ