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 『ロードス島戦記』や『葬送のフリーレン』をイメージした実験的な作品です。


 1、3、4話目に、ざまぁを入れたので、最後まで読んでいただけると嬉しいです。

 悠久の大地に戦が起こった。


 人間、エルフ、ドワーフ、の同盟軍と、魔族軍の戦いは二年の歳月を経て、同盟軍の勝利に終わった。


 後にこの戦争は、黄昏戦争と呼ばれた──。




「──クリス、やっと戦争が終わったわね」


 戦場の野営地にて。私は、隣にたたずむクリスに話しかけた。


「ああ、つらく苦しい戦いだった。仲間も多勢死んだ」


「そうね。でもこれで平和が訪れる。死んだ者達に報いるためにも、私は明るく生きていくわ」


「ふ。君らしい。ルィン、あの時の約束を覚えているかい?」


 勿論、私は覚えている。けれど、私はとぼけてみせた。


「さあ、何だっけ?」


「ふ。意地悪な君に教えてあげる。最後の戦いの前にオレはこう言った。『この戦いが終わったら一緒になろう』と」


「そうね。『それを言ったら死んじゃうジンクスがあるから言わないで』て、私は応えたわ」


「そして、『オレは約束は守る』と応えた」


「そうね。あなたは約束を守ってくれたわ」


「ルィン、オレは君を愛してる」


「まあ、唐突ね」


「ルィン、オレと一緒になって欲しい」


「そうね。いいわ」


「なっ。えらく淡白な言い方だ。オレは今、君にプロポーズしたのに」


「うーん。場所がね。戦地だから」


「ルィン、どうか、真面目に答えてくれないか?」


 クリスは真顔で私を見た。


「……うん。ごめん。なんか恥ずかしくて気取ってた。私もクリスのこと好きだよ。私も一緒にいたいよ」


「ありがとう。一緒に幸せになろう」


 そう言うとクリスは私を抱き寄せた。私も彼を強く抱きしめる。


「うん。幸せな時間を過ごしたい。ねぇ、どんな困難があっても私を愛してくれる?」


「ああ、どんな困難があっても君を愛する。オレは約束は守る」


「嬉しい」


 すると、クリスは私を見つめて──。


 私達は、唇を重ねた。





「ルィンヘル! 私という許嫁がいながら、人間と結婚したいとは、どういうつもりだ!」


 エルフの王国、宮殿の広間にて。エルフの王族、サイロスが私に向かって叫んだ。


 それを聞いて、私の隣に立つクリスが心配そうに私を見た。"オレが言おうか?"、そんな顔だ。


 けれど私は、"大丈夫"と微笑んで口を開く。


「サイロス、前にも言ったわ。あなたと一緒になるつもりはないの。許嫁なんて、ただのしきたりに過ぎないし」


「ルィンヘル! 私はエルフの第二王子だぞ! そこにいる下等な人間とは比べ物にならないはずだ!」


 いつものようにサイロスは無神経で傲慢だ。


「サイロス。教えてあげる。私はあなたのそういうところが大嫌いなの。傲慢で不遜で差別主義者。はっきり言って、あなたと話すのも不快だわ」


「くっ。お前ー!」


「あと、お前って呼ばないでくれる? それも不快だから」


「くっ。ルィンヘル、考え直せ。お前、いや君は、エルフだ。人間とは寿命が違う。

 人間とつがいになっても人間はすぐ死ぬぞ」


「だから何よ。私がそれを知らないとでも? 知った上で私はクリスを選んだのよ」


「くそっ。くそっ」


「サイロス。そうやって、悪態をつくところも大嫌いなの」


「くそが! 分かった。私の説得を聞かないのなら力ずくで奪い取る。おい、そこの人間! 私と決闘しろ!」


 サイロスはクリスを指差して怒鳴った。


「え、決闘? 何で?」


 クリスはキョトンとして言った。


「エルフのしきたりだ。女を争うことになったら、決闘で勝負をつける」


「うーむ。あなたがオレに勝ったとしても、ルィンはあなたのことを好きにならないと思いますが……?」


「それは、貴様の知ったことではない!」


「うーむ。出来れば決闘は避けたいです」


 クリスは冷静に言う。


「はっ! 怖気付いたか!」


「いや。オレは人間の国の騎士だし、あなたはエルフの国の王族だ。

 折角、積年の確執が解けて同盟を結んだのに、オレがあなたを傷つけたら同盟関係にヒビが入る」


「貴様! 私に勝てる気でいるのか! 馬鹿にしよって! ちっ。だがいいだろう。

 お前の言い分は気にするな。これは互いの国は関係ない。個人的な決闘だ」


「うーむ。でもなぁ。きっと恨まれそうだしなぁ……」


 そこで私が口を挟んだ。


「クリス、あなたが相手する必要ないわ」


 そして、私はサイロスを見る。


「サイロス、そんなに決闘がしたいなら、私が相手してあげる。あなたが勝ったら私を好きにしていいわ」


 すると、クリスは驚いた様子で。


「ルィン! それはダメだ。それならオレがやる!」


 私はクリスを諭す。


「クリス。私を信用してないの? 戦場ではずっとあなたに背を預けて来たのに」


 それを聞くと、クリスは落ち着いたようだ。


「ふっ。そうだな。ごめん。君は強い。君を信じるよ」


「ありがとう。クリス」


 私はクリスに微笑むと、再びサイロスに言った。


「さあ、サイロス、私が相手なら不服はないでしょう?」


 サイロスは私の言葉を聞くと、にやついた。


「くくくっ。いいだろう。ルィンヘル。お前が自分で言い出したのだから、負けた場合は私に服従してもらうぞ」


「はぁ。束縛男。気持ち悪い。さあ、さっさと始めましょう」


 私はそう告げると、腰の剣を抜いた。


 それを見てサイロスは、広間にいた近侍に指示して剣を持って来させた。


 サイロスも剣を構える。


「あなたのタイミングでいいわ。かかって来なさい。サイロス」


「ふん。行くぞ! キエェェーー!」


 サイロスが剣を振るって来た。


 キン、キン、と私は何合か剣を受ける。


 けれど、剣戟けんげきはすぐに勝負がついた。


 キンッと音を立てて、私はサイロスの剣を払うと、サイロスの喉元に私の剣を寸止めした。


「ぐっ!」


 サイロスが鈍い声を上げると、私は口を開いた。


「はい。勝負あり。もういいでしょ」


「くそっ。昔のお前はもっと弱かったはずなのに!」


「馬鹿ね。戦場に行きもせず、安全な場所でぬくぬくとしてたあなたとは経験がちがうわ」


「ちっ」


 私は馬鹿馬鹿しくなって剣を収めた。


「さ、行こ。クリス。無駄な時間を過ごしたわ」


 私はクリスに声をかけた。


「ああ」


 クリスが同意して私達は広間を去ろうとする。すると背後からサイロスが叫んだ。


「ルィンヘル! 人間! この恨みは必ず返すぞ! お前たちが何処に行こうともつけ狙ってやる! せいぜい背後に気をつけるんだな!」


 その言葉には、穏和なクリスもイラッとしたようだ。クリスは振り返った。


「サイロスさん、オレの愛する人を狙うなら、オレは容赦しないぜ。

 それからあんた、冷静に自分をかえりみてみな。今のあんた、ただの馬鹿王子だぜ?」


「くっ! 貴様ー!」


 サイロスが激昂した。


「ふふ。クリス、さあ、行こ?」


「ああ」


 そうして、私とクリスは広間を後にした──。


 その時の私は、サイロスのことなど気にも留めていなかった。


 けれど後に私は、サイロスの嫉妬を甘く見ていたことに気づくのだ。

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