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『ロードス島戦記』や『葬送のフリーレン』をイメージした実験的な作品です。
1、3、4話目に、ざまぁを入れたので、最後まで読んでいただけると嬉しいです。
悠久の大地に戦が起こった。
人間、エルフ、ドワーフ、の同盟軍と、魔族軍の戦いは二年の歳月を経て、同盟軍の勝利に終わった。
後にこの戦争は、黄昏戦争と呼ばれた──。
「──クリス、やっと戦争が終わったわね」
戦場の野営地にて。私は、隣に佇むクリスに話しかけた。
「ああ、つらく苦しい戦いだった。仲間も多勢死んだ」
「そうね。でもこれで平和が訪れる。死んだ者達に報いるためにも、私は明るく生きていくわ」
「ふ。君らしい。ルィン、あの時の約束を覚えているかい?」
勿論、私は覚えている。けれど、私はとぼけてみせた。
「さあ、何だっけ?」
「ふ。意地悪な君に教えてあげる。最後の戦いの前にオレはこう言った。『この戦いが終わったら一緒になろう』と」
「そうね。『それを言ったら死んじゃうジンクスがあるから言わないで』て、私は応えたわ」
「そして、『オレは約束は守る』と応えた」
「そうね。あなたは約束を守ってくれたわ」
「ルィン、オレは君を愛してる」
「まあ、唐突ね」
「ルィン、オレと一緒になって欲しい」
「そうね。いいわ」
「なっ。えらく淡白な言い方だ。オレは今、君にプロポーズしたのに」
「うーん。場所がね。戦地だから」
「ルィン、どうか、真面目に答えてくれないか?」
クリスは真顔で私を見た。
「……うん。ごめん。なんか恥ずかしくて気取ってた。私もクリスのこと好きだよ。私も一緒にいたいよ」
「ありがとう。一緒に幸せになろう」
そう言うとクリスは私を抱き寄せた。私も彼を強く抱きしめる。
「うん。幸せな時間を過ごしたい。ねぇ、どんな困難があっても私を愛してくれる?」
「ああ、どんな困難があっても君を愛する。オレは約束は守る」
「嬉しい」
すると、クリスは私を見つめて──。
私達は、唇を重ねた。
*
「ルィンヘル! 私という許嫁がいながら、人間と結婚したいとは、どういうつもりだ!」
エルフの王国、宮殿の広間にて。エルフの王族、サイロスが私に向かって叫んだ。
それを聞いて、私の隣に立つクリスが心配そうに私を見た。"オレが言おうか?"、そんな顔だ。
けれど私は、"大丈夫"と微笑んで口を開く。
「サイロス、前にも言ったわ。あなたと一緒になるつもりはないの。許嫁なんて、ただのしきたりに過ぎないし」
「ルィンヘル! 私はエルフの第二王子だぞ! そこにいる下等な人間とは比べ物にならないはずだ!」
いつものようにサイロスは無神経で傲慢だ。
「サイロス。教えてあげる。私はあなたのそういうところが大嫌いなの。傲慢で不遜で差別主義者。はっきり言って、あなたと話すのも不快だわ」
「くっ。お前ー!」
「あと、お前って呼ばないでくれる? それも不快だから」
「くっ。ルィンヘル、考え直せ。お前、いや君は、エルフだ。人間とは寿命が違う。
人間と番になっても人間はすぐ死ぬぞ」
「だから何よ。私がそれを知らないとでも? 知った上で私はクリスを選んだのよ」
「くそっ。くそっ」
「サイロス。そうやって、悪態をつくところも大嫌いなの」
「くそが! 分かった。私の説得を聞かないのなら力ずくで奪い取る。おい、そこの人間! 私と決闘しろ!」
サイロスはクリスを指差して怒鳴った。
「え、決闘? 何で?」
クリスはキョトンとして言った。
「エルフのしきたりだ。女を争うことになったら、決闘で勝負をつける」
「うーむ。あなたがオレに勝ったとしても、ルィンはあなたのことを好きにならないと思いますが……?」
「それは、貴様の知ったことではない!」
「うーむ。出来れば決闘は避けたいです」
クリスは冷静に言う。
「はっ! 怖気付いたか!」
「いや。オレは人間の国の騎士だし、あなたはエルフの国の王族だ。
折角、積年の確執が解けて同盟を結んだのに、オレがあなたを傷つけたら同盟関係にヒビが入る」
「貴様! 私に勝てる気でいるのか! 馬鹿にしよって! ちっ。だがいいだろう。
お前の言い分は気にするな。これは互いの国は関係ない。個人的な決闘だ」
「うーむ。でもなぁ。きっと恨まれそうだしなぁ……」
そこで私が口を挟んだ。
「クリス、あなたが相手する必要ないわ」
そして、私はサイロスを見る。
「サイロス、そんなに決闘がしたいなら、私が相手してあげる。あなたが勝ったら私を好きにしていいわ」
すると、クリスは驚いた様子で。
「ルィン! それはダメだ。それならオレがやる!」
私はクリスを諭す。
「クリス。私を信用してないの? 戦場ではずっとあなたに背を預けて来たのに」
それを聞くと、クリスは落ち着いたようだ。
「ふっ。そうだな。ごめん。君は強い。君を信じるよ」
「ありがとう。クリス」
私はクリスに微笑むと、再びサイロスに言った。
「さあ、サイロス、私が相手なら不服はないでしょう?」
サイロスは私の言葉を聞くと、にやついた。
「くくくっ。いいだろう。ルィンヘル。お前が自分で言い出したのだから、負けた場合は私に服従してもらうぞ」
「はぁ。束縛男。気持ち悪い。さあ、さっさと始めましょう」
私はそう告げると、腰の剣を抜いた。
それを見てサイロスは、広間にいた近侍に指示して剣を持って来させた。
サイロスも剣を構える。
「あなたのタイミングでいいわ。かかって来なさい。サイロス」
「ふん。行くぞ! キエェェーー!」
サイロスが剣を振るって来た。
キン、キン、と私は何合か剣を受ける。
けれど、剣戟はすぐに勝負がついた。
キンッと音を立てて、私はサイロスの剣を払うと、サイロスの喉元に私の剣を寸止めした。
「ぐっ!」
サイロスが鈍い声を上げると、私は口を開いた。
「はい。勝負あり。もういいでしょ」
「くそっ。昔のお前はもっと弱かったはずなのに!」
「馬鹿ね。戦場に行きもせず、安全な場所でぬくぬくとしてたあなたとは経験がちがうわ」
「ちっ」
私は馬鹿馬鹿しくなって剣を収めた。
「さ、行こ。クリス。無駄な時間を過ごしたわ」
私はクリスに声をかけた。
「ああ」
クリスが同意して私達は広間を去ろうとする。すると背後からサイロスが叫んだ。
「ルィンヘル! 人間! この恨みは必ず返すぞ! お前たちが何処に行こうともつけ狙ってやる! せいぜい背後に気をつけるんだな!」
その言葉には、穏和なクリスもイラッとしたようだ。クリスは振り返った。
「サイロスさん、オレの愛する人を狙うなら、オレは容赦しないぜ。
それからあんた、冷静に自分を省みてみな。今のあんた、ただの馬鹿王子だぜ?」
「くっ! 貴様ー!」
サイロスが激昂した。
「ふふ。クリス、さあ、行こ?」
「ああ」
そうして、私とクリスは広間を後にした──。
その時の私は、サイロスのことなど気にも留めていなかった。
けれど後に私は、サイロスの嫉妬を甘く見ていたことに気づくのだ。