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獣以上、人間以下  作者: 盆ジョリオ
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不変の足音 6

 四人の男達と喧嘩した場所に戻ると、黒いラセツは許可もなく優の鞄の中に入る。


「おい、お前何してんだ」

「お前じゃない。私には水瀬紅葉(みなせもみじ)っていう名前があるの」


 鞄から頭だけだしこの紅葉というラセツは自分の名前を言う。


「ラセツにも名前があるのか」


 というよりこいつ以外にも喋るラセツとかいるのだろうか。喋るラセツなんて聞いたことがなかった。


「そのへんの話もここから出たら話しますよー」


 紅葉というラセツは軽口で話す。

 

 そんな人間らしい態度に困惑しながらも話を進める。


「とは言ってももうこんな時間だし高校生が一人で外にいたら流石に怪しまれるだろ」

「あなたの家でいいじゃない」

「え」


 確かに家ならゆっくり話をすることが出来るがよく知らない人を家に入れたくない。

 ましてやこいつはラセツだ。


「どうせ家には誰もいないんでしょ」

「なんでおまえがそれを知っている」

「それも後で話してあげる」


 色々と隠してそうなやつであるが仕方がない、俺もゆっくり話を詳しく聞くことが出来ると前向きに考えよう。

 それに何かあったらすぐにARSFに通報してやる。


「分かった。けど暴れるなよ」

「暴れないわよ。心外ね」


 そう言うと紅葉は鞄の中に隠れた。


 助けてもらったのは間違いないが色々と隠してそうなやつだ。信用はできない。

 まったくこれから先どうなるのだろう。


 優はこの後の自分の行く先を憂いながら返り血が付いた制服から体操着に着替えを始める。







「何とか逃げ切れることが出来たか」


 さっき御縁優によって与えられた痛みはアドレナリンのおかげかそれとも死の恐怖の前にかき消されたのかは分からないが、痛みはあまり感じない。

 だが、足を折られた二人は今でも辛そうだ。


「もう少ししたら人通りの多い場所に出る。頑張れ!」


 眼鏡の男は後ろからついてくる二人を鼓舞するように声を掛ける。


「わ、わかってる」


 チャラ男は強がりながらもその足取りは遅くなっている。

加えて、後輩の体力は限界に達し、その場で座り込んでしまう。


「おい、休んでる暇はないぞ。いつあの化け物が来るか分からない」

「そんなことはわかってますよ。けど、少しだけ休ませてください。」


 そんな悠長なことが出来るか。


 眼鏡が背負っていた翔馬を下ろし、無理やり後輩を立ち上がらせようとする。


「ほら立て。行くぞ」

「そんなに逃げたいなら一人で逃げればいいじゃないっすか」

「そんなことできるわけないだろ。ほら、いつラセツが来るか分からない」


 後輩が眼鏡の男に対し、辛辣な言葉を掛けるがそんなことは気にせず、眼鏡が諦めかけている後輩を無理やり立たせる。

 

 そんな時、気を失っていた翔馬の意識が戻る。


「お、おい何があった」

「翔馬!意識が戻ったか」


 眼鏡は立ち上がらせた後輩の手を離し、翔馬のもとに駆け寄る。


「無理をするな。お前は一番ひどくやられたから」

「あの野郎ぶっ殺してやる。調子に乗りやがって」


 なんともあそこまでコテンパンにされておいてよくそんな強気な言葉が出せるな

 しかし、動かなくなったときは死んだと思っていたので元気そうでよかった。


 眼鏡の心配をよそに翔馬はすぐに立ち上がる。口では強気な言葉を発しているがその足はふらついており、今にも倒れそうだ。


「今は怒っている場合じゃない。ラセツがそこまで来ている。俺は足を折られている二人に肩を貸す。お前はふらついているが歩けなくはないだろ」

「あ?ラセツが何だよ。今すぐあいつをぶち殺しに行く。俺は負けてねぇ」


 翔馬は眼鏡の肩を押し、眼鏡は地面に尻餅をつく。

 疲れ切っているからかそんな様子にチャラ男と後輩は何も言わない。


「あー今日は女抱いていい気分になりたかったのによぉ。親父に頼んであいつの周りにいる人間は全員不幸にしてやる」


 そんな時、道の途中で二人組の女子高生が座っているのに気が付く。


 一人は特徴的な長い金髪でいかにもギャル風な姿だった。

 両耳に二つピアスを着け、体は出るところは出ており、モデルのような体をしている。

 そのうえ、制服の第三ボタンを開けているためそのモデルのような体系の胸元が見えている。


 もう一人は対照的で茶髪のボブでかわいらしい少女。

 ポロシャツのボタンは第一ボタンまで閉めているが、隠しきれないほどの胸が大きい。

 しかし、太っているわけではなく、柔らかそうな肉付きをしている。


 そんな二人のかわいらしく、妖艶な雰囲気を持つ少女達は性欲があふれ出ている獣にとっては格好の獲物だろう。


「暗くて良く見えなかったが、こんな場所にいい女がいるじゃねぇか」


 足をふらつかせ、壁に手をあてながらも翔馬は少女たちのほうに向かう。


「おい、そんなことしてる場合じゃない。すぐそこにラセツがいるんだよ。今は御縁優が足止めしてくれているがいつまで持つか分からない」


 眼鏡は翔馬がこれから何をするのか容易に想像ができ、翔馬を静止しようとする。

 しかし、翔馬の足は止まらず、少女たちの方に進み始める。

「なんだ、じゃああいつ死ぬのか。ざまーみろ」

「なっ!」

「・・・確かにいい女だよな」


 その姿にチャラ男も二人の少女の体を見て恐怖や痛みよりも性欲が勝ったのか、翔馬の後に続き、いやらしい顔をしながら少女たちのもとに向かう。

 後輩はそんな二人の姿にあきれ、少女達にかまわず逃げようとしている。


「おい、お前ら俺に抱かれろよ」


 二人の少女は翔馬の言葉に怯えるわけではなく、ただ翔馬の顔をじっと見ている。


「言っとくがお前らに拒否権はない。ここで俺に犯されろ」


 そう言い、翔馬は長い金髪の少女の手を強引に持ち上げる。

 チャラ男も足を引きずりながらボブの少女背に回り、口元を抑える。


「なかなかいい女じゃねぇか。犯しがいがあるぜ」

「うっひょー!こっちの女も胸大きすぎだろ。気持ちよさそう。一通りその女やったら交換しようぜ」


 チャラ男はそう言い、翔馬の方を見ると自分の顔にあたたかい液体が降り注いでいることに気が付く。


「なんだ、これ?」


 チャラ男があっけにとられたがすぐに気が付く。その温かい液体の正体は翔馬の首の切断口から出た大量の血だということに。


「う、うわあああああああああああああ」


 チャラ男はその光景を見た瞬間に悲鳴を上げる。しかし、悲鳴が鳴り響く途中でチャラ男の頭が地面に落ちる。


 金髪の少女の手は先程の女性らしいかわいいものではなく、指から鋭い爪が生えており、手首から肩下くらいまで黒い翼が生えている。

 

 二人の首が切られたことを目にした後輩は泣きながら嘔吐し、動けなくなる。


「た、たすけて」


 後輩は動けず、こちらに向かってくる二人の少女を見上げている。


「たすけて!お母さあああああああああん」


 後輩の懇願もむなしく、頭と胴も切り離される。


 その光景を見ていた眼鏡の男は膝をつき、ただ嘆いていた。


 これは、天罰なのか。

 この世界はちゃんと報いを受けるようになっているんだな。

 これまでたくさん楽しいことをしてきた。

 薬に、女、気に入らないやつは暴力で黙らしてきた。

 そんな人ではない獣の行動に神は報いを与えるのだろうか。


 眼鏡は生存を諦め、ただ今までの行いを悔いるようにその場に座り、真っ黒な空を見上げていた。


 まさか逃げた先にもラセツがいるなんて。

 希望が見えた瞬間に絶望が襲ってくる。


 今まで俺達が行ってきたことを考えれば当然の報いか。

けど、ドラマだったら最後には綺麗な夜空を見ながら死ぬんだけどな。

 星どころか月さえ見えない。

 もっと、真っ当に生きていたら月だけでも見れていたのかな。


 金髪の女性が最後の一人である眼鏡の男の首を切る。


 二人の女性は男達の死体を運んでいく。


「運が良かったねー、男の死体が四つも手に入った」

「そうだねー、これで私達もっと強くなれるねー」

「そしたらもっと人間殺せるねー」


 二人の少女は両手に男の死体をそれぞれ引きずり、真っすぐな赤い4本線を描き、規則的な足音を出しながら路地裏の奥深くに消えていった。

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