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獣以上、人間以下  作者: 盆ジョリオ
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不変の足音 4

 黒い翼を羽ばたかせながら目の前のラセツは這いつくばっている優に近づいてくる。


「生きたい?」

「・・・・・は?」


 この化け物いま喋ったのか?

 

 まさかラセツが喋るとは一ミリも思っていなかったため、気が抜けた声を出してしまう。


「だからあなたは生きたいんですか?」


 ・・・やっぱりこいつが喋っている。

 喋るラセツなんて聞いたことがなかったが、そういうラセツもいるんだな。


「随分お喋りなやつだな、さっさと殺せよ」


 優は目の前のラセツが言ってることは本気にしておらず、自分を遊んで殺すつもりだと考え、反撃の準備をする。


 さっさと殺しに来い。その時は俺だけじゃなく、お前の最後にしてやる。


「だから生きたいかって聞いてんのよ!」


 そんな優の攻撃的な姿勢とは裏腹に黒いラセツは小さな体で必死に大きな声を出し、もう一度優に問いかける。


 優はそんな勢いのある声に押され、咄嗟に返答してしまう。


「い、生きたい」

「なんで生きたいの」

「まだあいつらが襲われるかもしれない」

「あいつら屑だけど助けたいの?」

「あいつらのために助けるわけじゃない。自分を変えたいから助けたい」

「ふーん、よく分からないけど自分のためってわけね」

「・・そうだ」

「いいね。自分のために行動する人は嫌いじゃないよ」


 なんなんだ、殺すならさっさと殺せ。

 こんな押し問答が楽しいのか?

 

 だけど不思議と自然に会話ができてる。

 人間に近い見た目をしているからだろうか。

 それとも俺は無意識に死ぬ間際で誰かと話したかったからだろうか。


 化け物であるラセツと会話している。

 そんな不思議な出来事が理解できず、頭の中でその理由を考えていると、目の前のラセツが胸に手を当てながら訴える様にさらに近づいてくる。


「じゃあ私と契約して。そしたら助けてあげる」


 いよいよ意味が分からないことを言い出した。

 ラセツが人間を助ける?まったくもって理解不能だ。

 どうやらラセツの冗談は人間とは違い面白くないらしい。


「そんな面白くない冗談で笑う人間なんていない。もっと人間について調べるんだな」

「それって皮肉のつもり?だとしたらあなたこそもう少し皮肉について勉強するべきね」

「なっ」

 

 自分なりの必死の皮肉であったが、逆に言い負かされてしまった。


「でもあなたが生き残るには信じるしかないんじゃない?このままだと結局あなた死ぬわよ」

「・・・・」


 優自身もこんな傷だらけの体でいつまで生き残れるかは分かりきっている。

 だが、ラセツの手のひらで踊らされるのが気に入らない。


「あなたが生き残るには私に助けてもらうしかない」


 そんな会話が進展しない状況にラセツは優を急かせるように話す。


 どうするべきだ。

 俺を殺す前にからかっているに違いないはずだ。

 だけど俺を騙そうという雰囲気でもない。


「・・・なんの契約だ」


 一旦話を聞き、疑わしかったらこちらから決死の攻撃をする。

 こいつの思い通りになって死ぬのはごめんだ。


「あたしに協力する代わりに助けてあげる。それが契約」


 目の前のラセツは優が話を聞く姿勢になったことに対し、満足気に笑顔で話す。


 そのラセツの笑顔が可愛らしかったからか、協力しなければ殺すといった脅迫じみた雰囲気は一切なかった。


 これは演技なのか?

 わざわざそこまでした俺で遊びたいのか?

 もう訳が分からない。


「いいぜ、助かるならなんでも協力してやるよ」


 優は半ば投げやりに返答した。

 体中は痛み、体力もすでにないので深く考えることは止め、襲ってくるなら反撃するといった考えしかなかった。


 さぁ本性を現せ。現した瞬間にその小さい体を噛み砕いてやる。


「じゃあ契約成立ね」


 目の前のラセツがそう言い放つと、ラセツの体が光りだす。あまりの光の強さに目を閉じてしまう。

 

 光が弱まり、再び目を開いた瞬間、先ほどまでの痛みや、だるさがなくなり、しっかりと体が動かせるようになっている。


 ・・・・どうなってるんだ・・・・


「私の力をあなたに貸してあげているの。だからあなたはどんなに傷つけられてもすぐに再生するわ。これで思う存分に戦えるでしょ」


 今起きた出来事に理解が追いつかない。

 本当にラセツが俺を助けたのか?

 そんなこと他の人が聞いたら信じるわけがない。

 俺だって信じない。


「あのラセツ倒さなくていいの?」


 優が今起きた出来事に困惑し、戸惑っている様子を見た黒いラセツは優に向かい言い放つ。


 聞きたいことは山ほどあるが今はこいつの言う通りあのラセツを倒すことが優先だ。

 時間はそれなりに稼いだがまだあいつらが逃げ切れているという確証はない。

 こいつのことは後回しだ。

 

 優は目の前で起きた出来事に疑問を抱えながらも一目散にラセツを追い、走り出しす。

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