第09話 一撃必殺
金曜日になり、夕方から動き始めれば良いのにも関わらず、律儀に朝からタケミチを尾行していた、それが東名なりの流儀だからだ。
タケミチが会社に入ってからはいつもの場所へ行き、アラームをセットして睡眠、に入る前に律子に電話を掛けた。
「東名です、今日タケミチ様は予定通りお相手の方とお会いするようです」
「そうですか・・・、今日こそ大丈夫ですよね」
律子の言葉に東名は吉報を待っててと言いかけて一瞬言葉に詰まった、果たしてこれは吉報なのかと、喉まで出かけた言葉を飲み込み、またご連絡します、とだけ言って電話を切り、言葉に出来ない不安を抱えながら眠りについた。
2枚目のスタンプカードにポイントを付けて貰い、店の外に出た東名の後ろで叫び声が上がった、振り返る東名の目に不安の種が映る。
二人の男性に少女が絡まれている、その少女の顔には見覚えが有った、赤木 碧だ。
何が有ったかは良くわからないが、激昂している男性は酔っぱらっているようだ、他の通行人たちは我関せずとみて見ぬふりをしている。
この時間に碧が居るという事は、そういう事なんだろう、東名は律子の落胆と侮蔑の入り混じった顔を想像し、大きくため息を吐いて三人に近付いた。
涙目の碧だったが近寄る東名には一変鋭い眼光に変わり、ヒーローの登場で一躍ヒールになった男たちはターゲットを少女から東名に変えた、
「何か文句があるのかこの野郎」
どこで習ったか知らないが誰もがみんな一様にこの言葉を言う、特段格好良くもないし、その上何も言っていないのに勝手に文句があると決めつけている、まあ幼気な少女を相手している男二人組に何も言う事が無いわけではないが。
「その子とは知り合いでね、何が有ったかは知らないが二人がかりで怒鳴ることは無いだろう」
「うるせえ関係無い奴はひっこんでろ」
今さっき知り合いだと言った筈だが、まあ色々悪いところを抱えてここまで大きくなったんだな、思わず微笑んでしまった東名に二人が掴みかかって行く。
それを見ていた碧は思わず手で目をふさいでしまった、倒れこむ音が聞こえ恐る恐る指の隙間から覗くと倒れていたのは男たちの方だった。
思わぬ出来事に目をぱちくりさせて唖然としている碧に涼しい顔をした東名が声をかけた、
「いいか、男に絡まれた時の対処法を教えてやる、一回しか出来ないからよく見ておけよ」
東名の言葉にカチンと来た碧は言い返そうとしたが、立ち上がった男たちがナイフを出して東名に襲い掛かるのを見て言葉に詰まった、等の東名はナイフに身動ぎもせずにひょろひょろの一撃を交わして急所を蹴り上げる。
「ぎゅむ」
ぎゅぽだったかそんな断末魔の叫びの後で股間を押さえて泡を吹き男は倒れこんだ、
「ちくしょう覚えてろよ」
もう一人は捨て台詞を残して逃げ出してしまった、がたがた震えてうずくまる男に近寄り耳元で東名が呟く、
「覚えておいてやるからよ、次に会ったら潰すぞ」
それを聞いた男は悲鳴を上げ、内股のまま立ち上がりひょこひょこと逃げた男の後を追って行った、手応えは十分だった。