第08話 核心に乗り込む
律子を見送り事務所に戻った東名は、テーブルに散らかった資料を片付け、事務机の椅子に座ると宙を見つめて明日からの計画を思案し始めた。
照り付ける太陽に邪魔をされなかなか考えが纏まらずにイライラをメモ紙にぶつけ、くしゃくしゃに丸めてゴミ箱に投げた。
紙くずはゴミ箱の縁にに当たったのか、ゴミ箱を蹴倒し中身を派手にぶちまけた。
「おいおい、なんてことをしてくれる・・・」
わずかな手間を惜しみ余計な手間を作ってしまった東名は、
「ケチもついた事だし今日は帰るか、明日も早いしな・・・」
東名は散らかったゴミを片付けながら呟いて事務所を後にした。
次の日の朝も東名の姿はタケミチの最寄り駅にあった、通勤中と就業中は何も動きが無いために尾行をする必要は無いと律子と話し合って決めたのだが、情報収集のためにはどうしても必要な為、サービス残業になってしまう事もやむなしと早起きをして駅のホームで座っていた。
決まった時間に律儀に現れるタケミチの姿に少し憐れみを覚えた、今まで1度も遅刻をした事は無く実直に仕事をこなし、夜遅くに明かりの点いていない部屋に帰る。
そんな生活を何年、何十年と繰り返して心がささくれ立ったのだろう、踏み外す事は無いと思っていたレールを踏み外してしまった、一度落ちてしまったら奈落の底へ真っ逆さま。
律子がお釈迦様だったら蜘蛛の糸でも垂らしてくれたかもしれないが、どうやら閻魔様だったようだ。
仏の顔も三度までと言うが、天女の顔は三年までってとこか、そして最後には地獄の沙汰も銭次第、おお、閻魔様に繋がったぞ、東名は哀愁漂う男の背中を見つめながらくすりと笑った。
それから2週間、特にタケミチに動きは無かった、やはり娘と鉢合わせたのが相当に応えたのだろう、タケミチは誘いはあっても断り続けていた、仕事が忙しかったのも有るかもしれない。
しかしついにタケミチは折れ、再び会う予定を入れた。
「タケミチ様が密会の予定を入れました」
日曜の午後、過ごしやすくなってきた時間に東名は律子へ情報を伝えた、
「今度は失敗しないですよね」
律子の言葉が東名に突き刺さる、碧に邪魔をされなければ疾うに終わっていた依頼だった、
「ええ、最新の注意を払って挑みます、必ず証拠を手に入れます」
「わかりました、よろしくお願いします」
ずいぶん長くかかってしまったが、ようやく依頼を終えられそう、律子の弾む声に東名の心は少し沈んだ。
しかしそれが自分の仕事だと自負している東名は胸を張り、予定の日まで楽が出来ると自分を慰めた。
(金曜の夜9時か・・・、この前よりちょっと遅いなぁ)