第06話 再来訪
月曜日に、東名が睡眠時間の補填をしているとアラームに叩き起こされる、まだ時間じゃ無い筈だが、とアラームを止めようとするとそれは律子からの着信だった。
一気に目が覚めた東名は電話に出ると、律子から明日事務所に再び訪れると言われた、千載一遇のチャンスを碧につぶされて、タケミチは先方と逢う予定が白紙になってしまった、そのためにプランの大幅見直しの必要が有るため、仕事中は見張っている必要が無い事や、週末にのみしぼり尾行をして貰う事など、それに伴い料金の調整をしたいと言われた。
来訪時間を確認して律子が電話を切ろうとした時、東名は咄嗟に律子を引き留め碧の所在を確認した。
「娘は図書館で勉強をしてくると言って出かけて行きましたが、それがどうかしましたか」
「先日の事がちょっと気になりまして」
「そうですか、では明日伺います」
(案外気が小さいのかな)
電話を切り東名はため息を吐いて映し出された時間を見る、まだ動き出すには早かったが二度寝をする事はせずにアラームを切ってネカフェを後にした。
東名は律子の来訪に備えるために資料を纏めていた、最初の時と同じ頃に来ると言われたので、それまでには十分な時間が有ると思っていたのだが、置いておいたはずの資料が見つからなくて捜していたりしていたら思いかけずに時間がかかってしまった。
それでも何とか形にした資料をコピーしていると、来訪を知らせるベルが鳴った。
ずいぶん予定時間よりも早いなと不思議に思ったが、東名はドアを開け出来るだけの笑顔で律子を迎え入れた、つもりだったがそこには誰も居なかった。
東名は廊下に出てきょろきょろと周りを見てみたが人影はなく、怪訝な顔をして事務所へ戻った。
「とうとうボロビルが壊れてきやがったかなぁ」
大きな独り言を言ってコピー機から資料を取り出し、几帳面にファイリングして来客用テーブルに置くとソファに腰かける。
東名の記憶はそこで途切れ、けたたましく鳴らされるベルに叩き起こされ、再び律子を出来る限りの笑顔で出迎えたが、頭には寝癖が残ったままだった。
「どうやらタケミチ様にとっては今回が初めての不貞行為のようですね」
律子は纏められた資料に目を通しながら東名の説明を聞いていた、
「短期間でよくここまで調べられましたね・・・」
律子は東名の資料に関心仕切りで、ここに来る前まで文句の一つも言ってやろうと思っていた、寝癖のついた東名を見てやろうからやるに変わったが、見せられた資料にはぐうの音も出ず、喉まで出かかった罵詈雑言を飲み込まざるを得なかった。