第15話 モーニングコーヒー飲もうよ
東名はソファにふんぞり返り、天井を眺めながらタケミチの調査にどれだけの経費が掛かったか計算していた、移動の電車代、昼食代、ネカフェの利用料金、それと自分の労力、指を折りながら数えたそれは思った以上にかかっており、6時間パックだけで済ませておけばと悔やんだ。
暫くすると事務所の扉が静かに開き、少し暗い顔をした碧が入ってきた。
「ああよかった、今までお前の母親が来てて、見つからなくてよかったよ、どこに居たんだ」
東名の問いかけに、碧は無言で共同トイレを指さした、
「そうだったのか、随分長いトイレだったんだな」
東名の言葉に少し戸惑った碧だったが、すぐに顔を引き締め言い返した、
「そう言う事は例え男性相手でも言わない方が良いと思いますわよ」
碧が元気なことが確認できた東名はほっとしながら、両手を広げて、はいはい、と返事をして、
「お前も朝飯はまだだろう、ちょっと遅いけど一緒に来いよごちそうしてやるから」
「うん、わかった」
ごちそうするという言葉に笑顔で返事をする碧だった。
チェーン店に着くと、まだぎりぎりモーニングメニューが頼めたため、それを2つ頼み席に着いた、
「これを食ったら帰るんだぞ」
席に着くなり東名が切り出した、碧も別に一緒に居たいわけでは無いが、碧の顔は少し暗くなり、
「もうちょっと外に居たい、まだ家には帰りたくない」
碧らしくない言葉に驚いた東名だったが、碧と一緒に居るだけで十分犯罪として立件できる国に住んでいる以上、これ以上一緒に居る事はまずいし、事務所に詰め込んでおく方が更にまずい。
東名はアイスコーヒーを飲み干して一息入れた後で、
「まあお前が帰りたくないって気持ちもわからなくもない」
「本当にわかってるの」
碧は間髪入れずに聞き返した、その勢いに少し言葉に詰まった東名だったが、
「お母さんの依頼でいろいろ調べさせて貰ったから、両方の事情も知っているさ」
「なんでお父さんとお母さんは仲良く出来ないんだろう」
「俺は結婚したことが無いから、夫婦の複雑な事情はわからない」
「そんなに複雑なのかな、一緒に居るだけで良いのに」
東名は少し考えた後で切り出した、
「複雑だよ、俺とお前がこうして朝食を食っているなんてな、顔を合わせる事も無くて当然なのに」
「探偵さんと一緒に居るだけなら私は何とか我慢できる」
「それはありがとう、と言って良いのかわからないな」
そんな事を話していると外の日差しはどんどんと強さを増し、今日も暑い一日になると二人は思った。