第14話 プライスレス
東名が寝ていたところをアラームに叩き起こされ、寝ぼけ眼でアラームを切って即2度寝に入った、休日の朝はゆっくり眠る事がモットーの東名が、2度目に起こされた時にセットしていないアラームが、律子からの電話だったと気付いた時には世界が真っ暗になった。
電話口の律子の声は淡々としていて、昨日の夜の成果を訪ねてきた、その口ぶりから恐らくタケミチと何か有った事が東名にも容易に想像出来た、今からすぐに事務所へ向かうと律子が言い残して電話を切ったため、朝食も取らずに身だしなみを整えて大急ぎで電車に乗った。
駅から坂を上る途中で律子の日傘を見つけた東名は、距離を詰めないように後ろを歩き、ビルに着いたところで律子に声をかけた。
「おはようございます、何かありましたか」
そう尋ねる東名に律子は、
「昨日の事でお話をお聞きしたくて」
律子の問いに東名は二の句が継げない、とりあえずその場を凌ぐ為に事務所で話すことを提案した。
階段を上り事務所のカギを開けて中に入ると、エアコンの涼しい空気が二人を包みこんだ。
「あー、昨日エアコン切り忘れたなぁ」
そう呟きながらソファに残っていたタオルケットをどかし、律子が座るのを確認してからソファに腰かけた。
ソファからかすかに伝わる熱が、ついさっきまで碧がここで寝ていた事を告げている。
「昨日、あの人が暗い顔で帰ってきまして」
律子が話の口火を切る、東名は動揺が顔に出ないようにゆっくりと呼吸しながら耳をそば立てた、
「何か有ったか聞いても、そのまま寝てしまって何も答えてくれませんでした」
「そうですか・・・」
東名は当たり障りのない相槌を打った、
「それで昨日は何が有ったんでしょうか、写真は撮れたんですか」
「あー、それがですね・・・、結論から言いますと写真は撮れてないです、あ、撮らなかったと言った方が良いでしょうか」
「それはどういう意味ですか」
律子の声が1オクターブ下がる、ドキッとした東名だったが勇気を振り絞り話を続ける、
「ですから、タケミチ様はお相手の方と別れる決心をしたようで、昨日はその話が拗れたのではないでしょうか、それで暗い顔を成されているのではと思います」
(またそんな口から出まかせを言って)
「女と二人で居る所の写真が有れば話の内容なんてどうでも良いのに」
「そうは行きませんよ、女性と二人で居るだけでは何の証拠にもならないです」
東名は今にも飛び掛かってきそうな律子を制しながら更に話を続ける、
「タケミチ様も今回の事は反省しているようですし、これを契機にもう一度やり直してみてはどうでしょうか」
「それじゃあ意味無いじゃない」
逸子は立ち上がり立ち去ろうとする、東名は慌てて律子を制して、
「どうしてですか、そうまでして別れないといけない理由でも有るんですか」
東名の言葉に逆上した律子は机を蹴り勢いよく扉を開けると、
「今回の契約は全部無し、1銭も払いませんからね」
そう言い残して律子は出て行ってしまった、東名の長い長いただ働きが決まった瞬間だった。