第12話 言葉の綾
東名は碧に押し切られる形で事務所に泊めることを承諾した、電車内で大声を出すと脅されたら成人男性は絶対に断わる事が出来ないとバレているようだ、痴漢と間違われるのも心外だが、碧の年齢から未成年者略取に成ってもおかしくは無い、それは並んで歩いていても同じだが、少なくともいきなり通報されるほどの年齢差では無いのが救いだ。
駅から事務所までの道のりは、東名にとっていつもよりも遠く感じた、東名の沈む心とは裏腹に碧の晴れ晴れした笑顔のに更に気が落ち込んだ。
「何がそんなに楽しいんだ」
東名はつい思ったことを口に出してしまった、家庭崩壊を招きかねない不愉快な男と並んで歩いているのが楽しい筈がない、しかし碧の口から出た言葉は東名を更に不愉快にさせた、
「だって、これから探偵さんの弱みを掴みに行くんだもん」
屈託無い笑顔でとんでもない事を言う、完全に主導権を握られる前に何か手を打たないとまずいと思ったのか東名は、
「そんな事を言って良いのか、お前は女で俺は男だ、俺の言う事を聞かせられる力が俺には有るんだぞ」
「あら探偵さんの目には私は女に映ってるんですか」
碧は口元に手をやりからかってくる、公園の時のしおらしさはどこへ行ったんだろうか、どうやらこれが碧の素顔のようだ。
碧の言葉に東名は口答えが出来ない、そうだと言ってもまずいし、そうじゃないと言ったら言葉の力が半減してしまう、何も言えない東名に碧が更に追い打ちをかける。
「大丈夫よ、探偵さんが私に本気でも、私にも秘策が有るから」
「何が秘策だ、お前の秘策とやらは俺にはお見通し、お前はすでに丸裸なの」
東名は言い終えて失言だったと気づく、幼気な女子高生に使って良い言葉では無かった、碧の目から光が消え東名から距離をとるために早歩きになる。
碧はジト目でちらちらとこちらを振り返りながらすたすたと歩いて行く、東名は少し遅れてその後を付いて行った。
坂を上り切り事務所のビルに着くと、碧は迷いなく階段を上がって行った、東名が階段を上ると碧は事務所の扉の前で立って待っていた。
「今カギを開けるから」
東名が扉に近付くと、碧はひらりと身体を躱し小さく悲鳴を上げた、東名は大きなため息を吐き碧を招き入れた。