第11話 探偵さん
一息ついた東名と碧は駅へ向かって歩き始めた、碧は東名の左袖を両手でしっかりと掴んでいる、まだ怖がっているのか足元も覚束無いようだ、そんな碧の歩幅に合わせて並んで歩いている様は、はたから見れば恋人同士か兄妹に見えるだろう。
しかし当の東名はとても歩きにくく、出来れば碧には離れて歩いて欲しかったが、碧がとても放してくれそうに無いために仕方なく付き合っている。
駅に着きベンチに並んで座り電車が来るのを待つ、俯きながら碧が東名に話し始めた、
「もし、今日私が居なかったらお父さんの写真を撮っていたの」
「ああ、それが仕事だからな」
それは碧の家庭の崩壊を招いてしまう事で、本来なら二人が並んで座って居るのは変な話だ。
「仕事だからって、探偵さんにはそれで良くても私は」
「東名だ、あまり探偵だと言わないでくれ」
東名は小さくため息を吐いてから碧の方へ向き直りそう言った、碧は少し戸惑ったが、
「・・・探偵さんにはそれで良くても、私もお父さんもどうなるの」
碧は東名を睨みつけながら語気を強めて言う、碧の両目にはうっすらと涙を浮かべている、
「・・・」
東名は言葉に詰まる、本来ならば顔を合わせる事無く終わるはずだった仕事なのだが、訳あってしっちゃかめっちゃかになってしまった、
「お母さんも酷いよ、自分だって」
「それ以上は言わなくて良い、それは今回の依頼には関係の無い事だ」
碧の言葉を遮り東名が口を挟む、碧は少し驚いた顔をしたがすぐに東名に、
「狡いよ、探偵さんは狡い」
「だからそれを言うなと言っているだろう、それを言ったらお前だって相当狡いぞ」
「お前じゃない、碧、知ってるでしょ」
「知ってるよ、お前の名前ぐらい」
「何が狡いの」
「え、何が」
「言ったじゃない私が狡いって、いったい私の何が狡いの」
碧がベンチから立ち上がりものすごい剣幕で東名に迫る、あまりの勢いに東名は気おされてしまうが。何とか碧を宥め賺してもう一度ベンチへ座らせることに成功した、
「俺の行く先々に現れて、こっちも仕事なんだから家族が出てこられちゃあやりずらい訳、わかる?」
「わからない、ならやめれば」
「そういう訳にはいかないの」
「仕事だから?」
「そう・・・だよ」
「仕事なら他人の家庭を壊しても良いの」
「そうじゃない、そういう場合もあるけどそうならない事もあるの、俺もいろいろ見てきてるから」
碧はふくれっ面になり黙ってしまった、するとタイミングよく電車がホームに入ってきた、
「さあこれに乗って帰るんだ、悪いようにはしないから」
「思い出した事が有るの」
そう言って碧は東名に凭れ掛かり上目遣いで東名を見ている、
「私、今日友達の家に泊まってくるって言って来たから、一晩泊めて」
「それは出来ない」
東名は即答で断った。