第10話 次からは気を付けよう
東名は人ごみに敗走していく男たちを見送り、少し冷静になって辺りを見渡すと自分たちが注目の的であることに気付き、東名は碧の手を握ると男たちとは反対の方向へ走り出した。
いつもの公園まで走り自販機の明かりの前で立ち止まった、碧は東名の手を振りほどき何か言おうとしているが息が上がり上手くしゃべれないでいる。
「高校生なのに情けないなぁ」
何とか声を絞り出し東名が強がる、気に障ったのか碧は東名を睨みつけてきた、
「水で良いか」
自販機で水を買い、碧に渡すと勢いよく飲み干した、東名も水を一口飲み込むと騒動の原因を問い質す、
「あんたを追いかけて、走り出したらぶつかっちゃったの」
「何ぃ、って事は悪いのはお前じゃないか」
東名は早とちりして手を出してしまったこと後悔して目頭を押さえて天を仰いだが、はたから見れば女性相手に二人がかりでナイフを出したという事を思い出し、2対1で負けたあいつらは面目丸潰れ、メンのあれも丸潰れ、だけどそれでもちょっとかわいそうな事をしてしまったと沈痛な面持ちになった。
「ありがとう・・・その助けてくれて」
伏し目がちに碧がお礼を言った、碧なりに頭を下げているのだろう、
「それと・・・、勝手に付けてきて悪かったわ」
「他にも無いか」
東名はそう言って大げさに尻を摩った、はっと気づいた碧は少し考えた後で、
「お尻を蹴ってごめんなさい、今度は教えてもらった通りにするわ」
そう言って碧は横蹴りから立て蹴りをする真似をした、それを見た東名は股間がキュンとなり前かがみになった。
そんなやり取りをしていると、肝心な事を思い出した東名は慌てて時間を確認する。
そこに表示された時間に東名の股間はキュンとなった、タケミチを乗せた電車がすでに出た後だったからだ。
落胆の表情を見せる東名を、碧はじろじろと眺めながら微笑みを浮かべている、彼女にとっては結果オーライのようだ。
そんな碧の顔を見た後で、東名は大きくため息を吐き、
「今日はもう遅いから帰りな」
碧の頭をぽんと叩いた、大げさにビクッとなった碧は小刻みに震えていた。
平静を装っていたが今日の出来事は相当に応えたようだ、頭の上に手を置いた東名を碧は上目遣いで見ている、もう今からタケミチを追いかけても意味が無いので、東名は今日はとことんこの幼気な少女に振り廻される事を決めた。
「こんな夜遅くに子供が一人で家に帰るのは危ないからな、親切な大人の人が家まで送ってやるよ」
と東名がワザとらしく言うと碧の震えは収まり、今日一番の笑顔を見せてくれた。