第6話 お守り
「見て見てー、さすがねぇ、古い車ある!」
「うわー、こんなミラー東京じゃ見ないよね。教習所で習ったっけ?」
「タクシーとかこんなだよ」
女子大生たちは叫びながら窓からウリボーの車内を覗き込む。
「これってオートマ免許じゃムリじゃない?」
「えーマニュアル免許? ガチの奴じゃん」
「その前にさ、ガラスとかUVカットじゃないでしょ?それもうムリ」
口々に言いたい放題だ。女子大生たちはすぐに興味を失い、品川ナンバーのSUVにきゃいきゃい言いながら乗り込むと、駐車場から出て行った。
花梨は唇を噛み締めた。そんな風に見えるんだ。地元の国立大学に通う花梨は、改めて自分の服装をミニバンの窓に映して見た。確かに彼女らのファッションと較べると差は歴然としている。あたしもそんな風に見えてるのかな…。
花梨は俯き気味でウリボーのロックを解除すると運転席に乗り込む。 ただいま、ウリボー。
ハンドルにもたれると大きなため息が出た。高原野菜ペペロンチーノの感動もどこかへ飛んでいる。窓から入る日射が剥き出しの右腕に熱い。花梨は助手席に置いてあった薄手のカーディガンを羽織った。
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キーを差し込みエンジンをかけようとして、花梨はそれに気が付いた。ハザードスイッチの軸に何やらぶら下がっている。まぁるくてカラフルで、え? マスコット?
よく見ると真ん中に『交通安全』と書いている。それは近所の大きな神社のお守りだった。きっとおじいちゃんだ。気が付かなかった。いつの間に…。
ハザードスイッチから外してよく見ると、花や葉っぱをあしらった繊細な絵柄の織物パッケージだ。明るい色調で女子ウケしそうな可愛い形。手に取って見ていると花梨の目にじわっと涙が湧いてきた。
UVカットがないのがどうだって言うのよ。ミラーは後が見えればそれでいいのよ。ウリボーは一所懸命走ってくれるんだから。古くて何が悪いのよ。ウリボーはあんたたちより先輩なんだから。
花梨はお守りを両手で包み込み、そっと頬ずりして元の位置に戻した。
有難う、おじいちゃん。あたし平気、多分。
キーを回しエンジンを始動させる。クーラーのスイッチも入れる。ウリボーだってちゃんと涼しいのよ。ね、ウリボー。あんなの放っといて帰ろ。今度来たらアラビアータに挑戦しようね。
花梨はアクセルを踏み国道へと右折した。
その姿を、カフェの駐車場の端っこに停められたちょっと場違いな軽トラが、じっと見守っていた。