第20話 また動かない
「少し走りませんか?」
祐也が言い出した。花梨と喋るのは楽しいし嬉しい。しかし今日はツーリングなんだ。彼女と一緒にウリボーでこの美しい山並みの道路を走りたい。実はうずうずしていたのだ。
「もし良ければ花梨さんの車はここに置いて、ウリボーに一緒に乗って頂くと嬉しいんですけど」
祐也はおずおずと聞いた。
「いいですよ」
花梨は二つ返事だった。内心、祐也のことを好ましく思い始めている花梨だ。ましてやウリボーとも一緒なんて、これが本当の二股? どこのお店に寄ろうかな。あたしが行ってみたかった童話博物館なんて祐也さん嫌がるかな。いや、祐也さんなら却って嵌るかも。花梨はいろいろ思いを巡らせながら、久し振りにウリボーの助手席に収まった。祐也はすっかり慣れた手つきでキーを回す。
ブルン、ブルブルブル。
エンジンが始動した。花梨はシートベルトを締めてちょこんと座っている。
「祐也さん、童話って好きですか?」
「え? まあ、嫌いじゃないですけど、何ですか?」
「博物館があるんです。最後に寄れたらなって」
「いいですよ。場所、教えて下さいね」
祐也はシフトを1速に入れ、ハンドブレーキを放す。
「じゃあ、行きますよ」
「はい」
ブォン、ブォーン。
あれ?
ブォーン、ブォーーン。
エンジンが咆哮する。しかしウリボーはビクともしない。
「ウリボー、花梨さんが乗って緊張しているのかな」
祐也は呟いて、もう一度手順を繰り返す。それでもウリボーは動かなかった。花梨の記憶が蘇る。これ、おじいちゃんの手術の時と同じだ。ウリボー、きっと何かを感じている。
「あの」
花梨がわちゃわちゃしている祐也に話かけた。祐也はちょっと慌てた。
「あ、すみません、こんなの初めてで」
「あたし、前に同じことがあったんです」
「え? どこがどうだったんです?」
「それは判んないですけど、その時は県道が崩れて、そのまま走っていたらきっと巻き込まれてたんです。ウリボーが行かせないでくれて助かったんです」
祐也はポカンとした。
「マジ…ですか」
「はい。きっとウリボー、今行っちゃいけないって言ってるんです。明日には走るようになってると思います」
花梨は断言した。
「うーん。そうかもだけど、今日帰らなくちゃいけないし。ちょっとオヤジに聞いてみます」
祐也は一旦エンジンを切って車外に出るとスマホで電話をかけ始めた。花梨も外に出る。ウリボーの周囲を回って屋根を撫でていると祐也が戻って来た。
「花梨さん、すみません。オヤジが運搬トラックを手配するって言ってるので、ここからウリボーをトラックに載せて、ディーラーに運びます。クラッチの異常じゃないかって言ってて、ディーラーの工場じゃないと診てくれないようなので」
「トラックが東京から来るんですか?」
「いや、多分ディーラーがこっちの業者さんを手配してくれるみたいです。あ、ちょっとすみません」
祐也はスマホを耳に当てた。うん、うんと肯いている。
「あの、30分で来てくれるそうです」
祐也の言葉に花梨は肯いた。




