第12話 退院
1週間後、星六の退院にもウリボーは出掛けた。沢子の車の方が乗り心地は良いに違いないが、きっと星六はウリボーに乗りたがるだろうとみんな思ったのだ。母と祖母は母の車でウリボーに従った。
病室に着くと、既に星六は身なりと荷物を整えていた。精算も終えているのでこのまま退去していいと言う。祖母と母がナースステーションに挨拶し、花梨が星六について歩いた。星六はスキーブーツの親分のような装具の上にサンダルを履いていて、登山用ステッキを突いて歩けるようになっている。勿論歩行速度は遅いが、思ったよりスムーズだった。
駐車場へ出ると何も言わず星六はウリボーのほうに歩いてゆく。
「あ、やっぱり。花梨、頼んだよ」
母と祖母が顔を見合わせて笑う。花梨は慌てて星六を追いかけた。
「えーっと、おじいちゃん、助手席開けるよ」
「うむ、すまん」
花梨は助手席のドアを開け、星六を支えながら何とか助手席に乗せる。そして自分は運転席に回り、エンジンをかける。花梨は星六に気遣い、そっとウリボーを発進させた。駐車場を出て左右を確かめて県道に入る。スムーズな運転だった。
「もう運転にも慣れたな」
星六が呻くように言う。
「うん、もう大丈夫。坂道上るのも慣れたよ」
「そうか」
「おじいちゃん、あたしたち、あと1週間居ることにしたからね」
「すまんな」
怪我人を抱える祖母を気遣って、沢子と花梨は滞在を1週間延長し、沢子は登校日のみ自分の車で直接通勤することにしたのだ。ウリボーは復旧された峠を越えて、県道を走る。花梨が思い出したように聞いた。
「おじいちゃん、こんな時になんだけど、あたし、ウリボー連れて帰ってもいい?」
「ううむ」
「駄目?」
「ううむ」
「どっちよ」
「ううむ」
星六は目を瞑って助手席で唸るだけだ。駄目だこりゃ。
「まあいいや。また聞くよ。お母さんにも言わなきゃだし」
「うむ」
沢子の予言通り、退院後の星六は益々不愛想になっていた。しかし花梨は祖父との間のハードルが一段低くなったように感じた。
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1週間はあっと言う間だった。星六の回復も早く、自分のことはほぼ自分で出来るようになったし、軽トラの運転も出来るようになっていた。そこで花梨は再び母の前で星六に問い掛けた。
「ね、おじいちゃん、あたし、ウリボー連れて帰っていい?」
星六は花梨と目を合わせた。花梨はちょっとビクッとする。
「駄目だ」
「え、なんで?」
「あの車はそこら辺の工場では面倒見れん」
「大丈夫だよ。調子いいし」
「前に走らなかったことがあったろう?」
「ああ、おじいちゃんの手術の日?」
「うん」
「あれはウリボーがあたしたちを助けてくれたからって言ったじゃない」
「そうかも知れんが、それだけじゃない」
「じゃ、なに?」
「メカが特殊なんだ。ディーラーにだってもうパーツがない。ミッションが繋がらずにいきなり発進できない可能性もある。道路上で花梨が対応出来るか? もたもたして事情が判らない他の車に突っ込まれたらエアバックもない車では花梨が危ない」
正論であった。UVカットどころの話ではない。自分の身を心配しての発言に花梨は反論できなかった。
翌日、花梨は少し消沈しながら母の車を運転して自宅へと帰った。




