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桜の花が舞う頃に、君と笑う

作者: とーま

 季節は春。雪解けが終わり、暖かい風が多くなった。桜の花が咲き、花びらが、地面を淡いピンク色で彩る。耳を凝らすと、桜の花を見に来た人の声がよく聞こえてくる。

 

 


 「あのさ、その……。」


 桜の木々の下を一緒に歩いてる時、彼女が突然言い出した。

 

 「ん?」

 

 「えと……そのね?」


 「お、おう?」

 

 彼女の挙動不審な様を見て、つい、こちらも挙動不審になってしまう。

 

 「さ、桜が綺麗だね……」

 

 「ど、どうした?」

  

 桜が綺麗だと伝えてるだけで、ここまで挙動不審になるものだろうかと思うほど挙動不審だ。何かを言いたげではあるが……。

 

 「……よし!」

 

 彼女は、何か覚悟を決めた様子でそう呟いた。一体、何がそんな覚悟を決めなくてはいけないのだろうか。俺には検討がつかない。何か気に障ることでもしただろうか?

 

 「らっ、来年も!……一緒に桜を見に行かない?」

 

 「へ?」

 

 こちらも覚悟を決め、相手の言葉を待っていると、出てきた言葉はあまりにも予想外で、変な声を出してしまった。それを言うためだけに、わざわざ覚悟を決めてたのか。

 

 「えーと、覚悟を決めてまで言おうとしてたことって……来年も、一緒に桜を見に行こうってこと?……」

 

 「……うん」

 

 「それを言うのに、あんなに覚悟を決めてたのか?」


 ほんとにそんなことで覚悟を決めてたのか、聞いてしまう。


 「......う、うん」


 「......ふっ」

 

 覚悟を決めてまで言おうとしてたことが、あまりにも想像していたことほど大したことないので、思わず笑ってしまう。

 

 「ひっ、酷いよ!笑うなんて!!」

 

 彼女は、頬を赤くして少しこちらを睨みながら、大きな声を上げる。笑われたからだろうか、少し恥ずかしそうである。

 

 「……ふっ」

 

 「あーー!!!また笑った!」

 

 「わ、悪い」

 

 覚悟を決めて来年も一緒に桜を見に行こうと言おうとしてた彼女と、真面目に何事かと考えていた自分がくだらなく思えてきて、ついつい笑ってしまう。


 「けど、なんたってそんなに覚悟決めてたんだ?」

 

 「そ、その……笑わない?」

 

 「おう」

 

 「来年も一緒に桜を見に行こうって言おうとしたら、急に恥ずかしくなってきて……」

 

 「ふっ、ふふ……」

 

 「もー!笑わないって言ったじゃん!!!」

 

 恥ずかしそうに顔を赤らめる彼女は、思わず笑ってしまった自分に照れくさそうに怒る。そんな彼女の様を見ていると、何故か少し愛おしく思う。

 

 「わかったよ、来年も見に行こうぜ」

 

 「絶対だよ!!」


 こちらを見つめながら、大きな声で自分にそう言ってくる。

 

 「おう、来年も……」

 

 「ど、どうしたの?」


 言おうとした言葉が喉で詰まり、つい口籠ってしまう。

 

 「いや、来年だけじゃなくて……」

 

 「う、うん?」

 

 さっきまでの彼女の心情を今なら理解できる気がする。たった一言、彼女に伝えるだけなのに、言葉じゃ表しきれない感情に駆られる。たった一言。たった一言なのだ。なのに、喉元まで上がってきた言葉が、なかなか口に出せない。

 

 「んー?どうしたのかなー?」

 

 ……明らかに気づかれている。俺が恥ずかしさのあまり、言葉が出ないことを彼女に気づかれている。現に、顔の周りにニヤニヤと擬音が現れそうなくらいニヤニヤと笑みを浮かべてる。

 

 「ほらほらー、早く言ったほうが楽だよ?ね?」

 

 「うっ、うっぜぇ……」


 さっきのやり返しと言わんばかりに、彼女は顔をニヤニヤしながら早く言えと急かしてくる。そんな彼女の様に、つい笑みが溢れそうだ。

 

 「お互いさまだよ。で、何を言おうとしたの?」

 

 しょうがない、ここは覚悟を決めよう。

 

 「来年だけじゃない。再来年も、その先も、これからもずっと一緒に見にこよう」

 

 そう言ったあと、あまりの恥ずかしさで顔を背けてしまう。ダメだ、恥ずかしくて死にそう。おそらく顔は、誰からみてもわかるくらい真っ赤だろう。顔に熱を帯びるのを感じる。

 

 「へっ?」

 

 突然、彼女が変な声を出しながら顔を真っ赤にし始めた。

 

 「な、なんでお前まで顔を赤らめるんだよ!?」

 

 「だ、だって……」


 彼女は視線を下に向けながら、恥ずかしそうにしながら口籠る。

 

 「お、おう」

 

 「……プロポーズみたいじゃん」


 ぽつりと彼女が呟いく。

 

 「……いやいや!そんな意味は決してないぞ!?」

 

 「わかってるよ!……けど、つい」

 

 ダメだ。お互いに次の言葉が出てこない。周りから見れば、顔を赤らめたカップルが互いに言葉を出そうとしてモジモジしてるように見えているに違いない。……いや、当たっているんだけども。

 

 「…………っ」

 

 「…………っ」

 

 目があって、逸らしてしまう。

 

 「ふっ、ふふ……」

 

 「くっ、くく……」

 

 互いに同じ様なことをしていることに、つい笑ってしまう。

 

 「あのさ」

 

 「おう」

 

 何故だろう。自然と、さっきまでの恥ずかしさはなくなっていた。

 

「絶対に来年も一緒に桜を見に来ようね!!約束だよ!」


「あぁ、約束だ」


 さっきまでの恥ずかしさは消え、互いに笑いながらそう約束した


 「……にしても、桜が綺麗だな」


 桜の木々の下で、俺はそっと呟く。



 

 季節は春。それは、雪解けが終わり、暖かい風が多くなり始める季節。桜の花が咲き始め、花びらが地面を淡いピンク色で彩る。

 そんな、桜の花が舞う頃に、君と笑う。これからも。

 

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