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炎上舞台  作者: 一桃 亜季
25/25

目覚め

偽りの神々シリーズ

「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫

「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢

「封じられた魂」前・「契約の代償」後

「炎上舞台」


シリーズの4作目になります。

        ※


 水圧に崩れゆく神殿が自分達を飲み込もうとしている、まさにその最中、リンフィーナは尋常ではない力が自分の中に宿るのを感じることになった。


 今までは全身全霊でこの海中の神殿を支えていなければならなかった。それこそ押しつぶされそうになる重みになんとかして耐えるのがやっとだったのだ。それが途端に、負担が軽くなった。片指で支えることが可能になった、とでも言えば良いのか。


 同時に自分ではない感情が、リンフィーナの言葉となって発せられる。


「まったく、やっかいなときに目覚めさせてくれたものだ」


 伸びをするような仕草は、自分が行ったことではない。先刻までのリンフィーナには、この状態で欠伸交じりに首を捻る余裕なんて微塵もなかったのだから。


 それなのに現実は突拍子もなく展開する。


「このままここを、支えるだと」

 馬鹿らしいといった感情がリンフィーナを支配して、彼女は片腕を天高く突き上げた。


 銀の光が一本の柱となってあたりを散らし、神殿の天井が突き抜け、水柱が立ち上がる。


「お人よしにも程がある」

 ぶつぶつとつぶやきながら、彼女が腕を持ち上げたその場所から、水面が膨らんで盛り上がり、せり上がっていく海面が途切れると、空と太陽が姿を見せ始めた。


 海が割れる現象を、果たしてこのとき、何人が目撃したことだろう。


 リンフィーナは自らが引き起こした事態と、自分が自分でない感覚に、底知れぬ恐怖を覚えていた。

 割れた海は左右に巨大な水の壁をつくり、その中心に立っているのは他ならぬ自分だった。


 ひと呼吸おき、彼女は地上に手をついて、小さく地表に話し掛けた。

 知らない呪文を口にする自分の行動を止める術も知らず、リンフィーナは曲げていた腰を徐々に伸ばしていく。

 すると海中深くに沈んでいた地表が、神殿ごと彼女の腕に吸い上げられるかのごとく持ち上がっていった。


 そんなリンフィーナの行動の一部始終を、ラン・シールド総帥の視線が捕らえていた。自分達の目の前で起こっている事態が把握できず、しかしその瞬間を見逃すまいと、ただ息を飲み見守っている。


 それは数秒だったのか、数分だったのか。辺りが静まり返った頃、ラン・シールドの神殿は、海の上に浮く島のように穏やかな日の光を浴びていた。


 沈んでいた神殿は所々に水溜りを残し、日の光を反射して輝いている。

 鳥の鳴き声でも聞こえてきそうな長閑な景観に事を成しえたリンフィーナは立ちすくんでいた。


「これで満足?」

 そう言ったのは自分の口ではあったが、確認してきたのは自分に対してに他ならない。


 お前が望んでいたから力を貸してやったのだ、と。

 自分ではない何かが、自分の中に住まい始めたその日、力を使いすぎた彼女は、眩暈と共に昏倒した。

「炎上舞台25」:2020年10月23日


やっと炎上舞台、完結しました。

長いストーリーなので、次に続きます。


ここまでお付き合いいただきありがとうございます。

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