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炎上舞台  作者: 一桃 亜季
24/25

炎上舞台


偽りの神々シリーズ

「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫

「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢

「封じられた魂」前・「契約の代償」後

「炎上舞台」


シリーズの4作目になります。

        ※


 どうしてかの者を助けてしまったのか、ソフィアには皆目見当もつかなかった。ただひとつ言える事といえば、自分はかの者に興味を抱いていた。


 かの者――サナレスに対する純粋な興味。


 彼を亡者の世界に導いたのは自分だった。絶対に生きてみせるという彼の意気込みを、無理なことだと笑いながら、しかし何故か気にかかってしまい、遠巻きに様子をうかがっていた。


 本来ならばすぐにでも精神が崩壊してしまうような、魑魅魍魎が集う炎の中、自分の予想を大きく裏切って、サナレスは刺客を倒し、地獄の業火をも跳ね返していく。


 最初はただ観覧していただけだった。しかし彼の行動の一部始終を見ていると、なぜだか青年と同じように少女の心も湧き立ってくるのだった。


 サナレスが見事にこの世界から帰る法則を見い出したそのとき、内心胸を撫で下ろしたのは錯覚ではない。

 知らぬ間に肩入れして、サナレスの動向を見守っていた。


 ーーそれなのに。

 そんな矢先に、闇の管理者ヨアズが関与してきた。


 彼女が知りえる数少ない人間であるヨアズによって、サナレスが絶体絶命の状態になってしまった展開を、少女は面白く思わなかった。


 ーーもう少しなのに。


 ヨアズが現れなければ、少女が楽しんできたゲームは、青年が勝利して終わるはずだった。


 邪魔をするな。


 少女は立ち上がってしまう。


 そしてほんとうに気まぐれに、少女は手を出してしまったのだ。彼を助けるために。


 眠りを妨げられ、不機嫌であった少女が、興味のために動き出し、うっかりと、(ついうっかりと、という表現が正しい)彼を助けてしまった。

 それは、少女の完全なる覚醒を意味していた。


 少女の出現で、ヨアズの闇の力が銀色の光に跳ね返される。


 動揺するヨアズの顔を思い浮かべないでもなかったが、サナレスをこの手に抱いたとき、彼女は高揚する気分を感じていた。初めて感じるこの思いを、果たしてなんと説明したらよいのか。


 ちょうどそのとき、自らの内から声が溢れ出た。


『サナレス兄様、力を貸して――』と。


 サナレスを二の腕に引き寄せているときに、その声を発したのは他ならぬ自分だった。しかしソフィア自身ではない意思が言葉となり、少女は多少混乱した。


 腕の中のサナレスは呼びかけに応じるように、何かをつぶやき、その瞼を動かしている。彼の反応を、ソフィアは面白そうに見つめた。


 妹が呼んだ声に反応しているのか。

 ソフィアはじっとサナレスの顔を見て考えた。


 私が覚醒するのか、この者の妹が存続するのか。


 もともとは一つの魂であるのに。一つの体であるのに。


 複雑な作用の第一風は、サナレスを抱いているソフィアの中に巻き起こった。


 ヨアズ、悪いがこの男おまえにはくれてやらぬ。


 少女は微笑み、サナレスを連れて行く。もう一度生きるために。


 本当の炎上舞台に出るために。

「炎上舞台24」:2020年10月23日

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