炎上舞台
偽りの神々シリーズ
「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫
「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢
「封じられた魂」前・「契約の代償」後
「炎上舞台」
シリーズの4作目になります。
※
どうしてかの者を助けてしまったのか、ソフィアには皆目見当もつかなかった。ただひとつ言える事といえば、自分はかの者に興味を抱いていた。
かの者――サナレスに対する純粋な興味。
彼を亡者の世界に導いたのは自分だった。絶対に生きてみせるという彼の意気込みを、無理なことだと笑いながら、しかし何故か気にかかってしまい、遠巻きに様子をうかがっていた。
本来ならばすぐにでも精神が崩壊してしまうような、魑魅魍魎が集う炎の中、自分の予想を大きく裏切って、サナレスは刺客を倒し、地獄の業火をも跳ね返していく。
最初はただ観覧していただけだった。しかし彼の行動の一部始終を見ていると、なぜだか青年と同じように少女の心も湧き立ってくるのだった。
サナレスが見事にこの世界から帰る法則を見い出したそのとき、内心胸を撫で下ろしたのは錯覚ではない。
知らぬ間に肩入れして、サナレスの動向を見守っていた。
ーーそれなのに。
そんな矢先に、闇の管理者ヨアズが関与してきた。
彼女が知りえる数少ない人間であるヨアズによって、サナレスが絶体絶命の状態になってしまった展開を、少女は面白く思わなかった。
ーーもう少しなのに。
ヨアズが現れなければ、少女が楽しんできたゲームは、青年が勝利して終わるはずだった。
邪魔をするな。
少女は立ち上がってしまう。
そしてほんとうに気まぐれに、少女は手を出してしまったのだ。彼を助けるために。
眠りを妨げられ、不機嫌であった少女が、興味のために動き出し、うっかりと、(ついうっかりと、という表現が正しい)彼を助けてしまった。
それは、少女の完全なる覚醒を意味していた。
少女の出現で、ヨアズの闇の力が銀色の光に跳ね返される。
動揺するヨアズの顔を思い浮かべないでもなかったが、サナレスをこの手に抱いたとき、彼女は高揚する気分を感じていた。初めて感じるこの思いを、果たしてなんと説明したらよいのか。
ちょうどそのとき、自らの内から声が溢れ出た。
『サナレス兄様、力を貸して――』と。
サナレスを二の腕に引き寄せているときに、その声を発したのは他ならぬ自分だった。しかしソフィア自身ではない意思が言葉となり、少女は多少混乱した。
腕の中のサナレスは呼びかけに応じるように、何かをつぶやき、その瞼を動かしている。彼の反応を、ソフィアは面白そうに見つめた。
妹が呼んだ声に反応しているのか。
ソフィアはじっとサナレスの顔を見て考えた。
私が覚醒するのか、この者の妹が存続するのか。
もともとは一つの魂であるのに。一つの体であるのに。
複雑な作用の第一風は、サナレスを抱いているソフィアの中に巻き起こった。
ヨアズ、悪いがこの男おまえにはくれてやらぬ。
少女は微笑み、サナレスを連れて行く。もう一度生きるために。
本当の炎上舞台に出るために。
「炎上舞台24」:2020年10月23日