ラン・シールドの総帥
この章はちょっと早めに投稿します。
次が押しているので、気張って進みます。
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偽りの神々シリーズ
「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫
「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢
「封じられた魂」前・「契約の代償」後
「炎上舞台」
シリーズの4作目になります。
「ウインジン、また奴等が人間を引っ張り込んだようだ」
部屋の中に入ってきたのは、どうやら女のようだった。見つかったら殺されると穏やかではない忠告をされたリンフィーナは、寝台の下で息をひそめる。
ウインジンというのが、この青年の名前らしい。
「姉上、最近は悪戯が過ぎます。このままでは我等一族が見つかるのは時間の問題。こんなことをして何の意味があるのです?」
「そんなこと知らぬわ。私が止めようがあいつ等ももはや限界なのだろう。このままでは人の形を保つこともできぬのだからな」
青年がため息をもらす。
「憂さを晴らしているのは、民だけではないのでしょう? 貴族達もまた限界を感じている」
女は、青年の意図するところを組んで黙る。
「それはそうと姉上、私がお願いした頼みごとは、聞き入れてくださいましたか?」
更に部が悪いことを聞かれたのか、女は黙ったままでいる。
「ラーディアの姫君をどうこうしようなどと、思いとどまってもらえねば、ラーディア一族を敵にまわすこととなりましょう」
「しかしウィンジン、あれを復活させるわけにはいかぬ。その前に息の根をとめてしまえばいいのだ」
「まだ覚醒すると決まったわけではありません」
急に自分が話題に上ったことを自覚したリンフィーナは、その会話の不可解さに息をつめる。
「我等には魔女に対する積年の恨みがある。あの者さえ出現しなければ、銀髪である容姿、これほど疎まれる事もなかったのだ」
ウィンジンはわざと自分の話をしているのだと、リンフィーナは悟った。魔女の話がどうというのは与り知らないことだけれど、リンフィーナを襲った、いや襲わせたのは、他ならぬ青年の姉なのだと。
アセスと自分を襲った敵が目の前にいる。そう感じると胸の中がどくんと高鳴った。
あのとき襲撃を受けなければ、自分の恋人は魔道士になることもなく、今も自分の傍らにいたかもしれない。今自分達を引き裂いた敵が目の前にいるのだ。敵を討ちたい衝動がリンフィーナの中で首をもたげた。
しかし、本来であればリンフィーナの首を一番に差し出そうはずの弟が、自分を隠してくれている、この事情がわからない。
恨み、という言葉だけが、キーワードのように耳に入るが、自分自身身に覚えなど全く無かった。
「もし、あの魔女がいなければ、私たちがこうなることも、オマエがここに閉じ込められる事もなかった。生涯許すことなどできぬものを、復活するなど、ふざけたことだ」
女の怒りは、言葉とは裏腹に悲しげに響く。
「それでも私はあの魔女を恨んだことはありません、姉上。実のところ彼女の気持ちが一番わかるのは、我等が一族ではございませんか? そしてその復活も、彼女が望むところではなく、運命なのだとしたら……」
「そんな運命あってなるものか! お前は……」
優しすぎるのだ、という呟きが聞こえた気がした。
リンフィーナは身を隠していることができなかった。事の真相に近づきたい。自分を襲った理由を問い正したいという思いがあふれ、女の前に姿を現した。
「どういうことなのか、説明してちょうだい」
怒りと言うよりは、むしろ焦りから出た行動だった。喜怒哀楽が激しいリンフィーナの感情が、彼女の中でふつふつと沸いて出てくる。
突然姿を見せたリンフィーナに、女は一瞬言葉を失って目を見張った。
しかし次の瞬間だった。
慌てた青年がリンフィーナを庇おうとするが、それよりも早く女の剣がリンフィーナに切りかかった。
「ラーディア」
女は剣呑な目でリンフィーナを見据える。最初の攻撃を、リンフィーナは自らの剣で防いだが、圧倒的な力の差に、柄を握る手がじんじんとしびれている。
「私はリンフィーナ・アルス・ラーディア。どういう理由で私を狙うの?」
「飛んで火にいる夏の虫とはおまえのことだ。せっかくラーディオヌの総帥に助けてもらった命、わざわざ捨てにきたというか」
女が二度目の剣を振り下ろしてくるのを、リンフィーナはベットの御簾をつかみながら、ひらりと交わした。
「いけません、姉上!」
舌なめずりしながら、獲物を追い詰めようとする姉を弟が制止しようと声をあげる。
「よくものこのこと、私と弟の前に顔を出せたものだ」
激しい怒りが暴走し、一刻もはやく処分したいと女の気迫が伝わってくる。
彼女から感じ取れるのは、あきらかな憎しみだった。自分の知らないところで、これほどまで人に憎まれていようとは、リンフィーナには合点がいかない。合点がいかないものを、はいごめんなさいと殺されてあげるほど、リンフィーナもひ弱ではなかった。
柄をしっかりと握りなおし、リンフィーナも身構える。
二人の剣が再び合間見えようとしたそのとき、青年が何かをつぶやき、二人の剣は宙を舞った。
「ウィンジン!」
邪魔をしたのが弟だとわかった姉は、咄嗟に叱咤するではなく、狼狽した。蒼白な顔の青年は、姉のほうをじっと見据え、ただ首を振った。
「おまえ、……おまえ大丈夫なのか!?」
青年の体調があまりにも優れない様子なので、リンフィーナも戦意を無くして立ちすくむ。
「ウィンジン、……ウィンジン」
何度も名前を呼び、心配で側に駆け寄ろうとする姉に、青年は力なく微笑み返す。
「私は大丈夫ですから姉上。彼女に剣を向けるのはやめてください」
リンフィーナも青年を見つめる。なぜこの女に憎まれるのかもわからなければ、どうして弟の方に庇われるのかもわからない。
不安そうな顔になるリンフィーナにも、青年はたおやかに笑って見せた。
「大丈夫です。貴方が心配することではありません。これは私たちの諍いなのですから。巻き込んで申し訳ありません」
「ウィンジン、お前……」
「姉上が冷静でなく、誰がラン・シールドを統治するのですか? 我が総帥」
弟の言葉にリンフィーナは絶句した。
それを尻目に、二人は寄り添い合い、姉が弟の身体を支える。
よく見ると二人は酷似していた。激しい気性を持つ姉の顔と、その弟の顔は、性格の違いさえなければそっくりである。
双子――。
リンフィーナの方を、二人で見つめる姿は、鏡でも挟んでいるかのようだ。
「私たちは、ラン・シールド一族の総帥。ウィンジン・イドゥス・ラン・シールドとユヴァス・イドゥス・ラン・シールド。姫君に働いた無礼、姉に代わって謝罪する。そしてあなたの疑問は、私達ではなく、あなたの一族の総帥に訊ねたほうがいい」
「ジウス様に――?」
「私たちと同じく、長寿なのは、今はもう彼くらいのものでしょうから。そして貴方の出生に関わるすべても、知っていらっしゃるのは私たちではなく、貴方方の氏族だ。すべてを明らかにして欲しいのは、むしろ我等の方なのです、姫君」
求めた答えが、自分の一族にあるだなんて、にわかには信じることができなかった。しかし自分を見る四つの赤い瞳には、偽りが入る余地など無く、まっすぐに自分を捕らえている。
確かに何時も、何時も、自分は刺客に狙われてきた。それは年を重ねるごとに回数が増え、相手も想像を絶するほど強大だったりする。
けれどその理由が自分の出生と関係するなんて、初耳でしかなかった。あまりにも荒唐無稽な話である。
それなのに。
自分だけが知らされていないだけで、一族の父であるジウスが、すべてを知っている、と言うのだ。
サナレス兄様も知っているというのだろうか。
膨らむ疑問に、今は誰も答えるものがない。
「貴方は気をつけなければならない。貴方の出生を良く思わないものは、我が氏族だけではない」
ただ言葉が重くのしかかった。
「炎上舞台21」:2020年10月23日




