幸せの選択肢
「なんだいエレナ。 白紙の紙だよね?」
俺は手から火種を出して小さなかまどに注いでいる。
動物たちと暮らしていたら その日暮らしで何とかなるが
エレナと一緒に暮らすなら 料理の一つも覚えたい。
拠点の小屋には小さなかまどがあったが 今は大きなかまどを作っている。
かまどには 魔力のこもった薄いマグマのような火種を溜めて、
それをガスコンロのように使うので耐熱性のある粘土を手から少しずつ出して時間をかけて作っている。
そんなときエレナが俺ともとへきた。
今日は キツネの背に乗って拠点の周りを走っていたから
きっと その話だろうと思ったが エレナが手に持っていたのはなんと
白紙の紙だった。
二つに折られた白紙の紙を 片手に持って渡そうとしている。
前髪から見える瞳は 輝いていて、力を込めて引き上げた口元の笑顔は
俺に何かの期待をしている。。
これは プレゼントってやつだろう。
でも 渡そうとしているそれは 白紙の紙のようだけど、いったい何をするのだろう?
A4くらいの白いこの紙は 願いが叶う奇跡の紙で
俺は神界で二枚使ってしまったけど 本来だったら異世界で俺たち転移者が困ったときに
神が助けてくれるものなのだ。
「ありがとう」
俺は エレナ神に感謝して紙を受け取り 二枚に折られた紙を開いた。
エレナは神の分身だ。きっと 白紙の紙にエレナパワーが付与されたのに違いない。
そう思った そして期待した。顔も笑っていたと思う。
でも 開いた紙には・・
「ハズレ」と書かれていた。
ああ やられた。 これ 強制的にハズレを引かされるクジじゃないか。
「クククック クククック クククック」
目の前に ベビーサタンが現れた
しかしよく笑う。 前髪で目元は見えないのだが口は全力で笑っている。
ニマニマと やらしく、やらしく、笑うのだ。
世界征服でも 達成したかのようだ。
でも「アタリのクジが引きたかったな」っと笑顔でツッコミをすると
今度は一転して泣き出してしまった。
クスンクスンと 泣き出した。
すると 小屋にケロ子やスパイダーたちが入ってきて 「ゲロゲロ」と鳴いてエレナを励ます。
もしかして 俺が悪いのか?
気が付けば 動物たちは小屋の周りに集まってきていた。
動物たちのおかげで泣き止んだのだが・・そして エレナは話し始めた。
「たぶんね。もうすこし、 もうすこししたらね、 お別れだよ。。」
エレナの突然の告白に俺もみんなもとまどった。
どうしてお別れなのか わかっていたけど聞いてみた。
エレナは元々 下界を楽しみたいという女神の心の欠片だ。
だからいつかは神界へ帰ってしまうのだ。そして 女神の心と一つになってしまう。。
でも 大丈夫。
白紙の紙を使えばいいから。
「みんなに頼みがある。 この白紙の紙をエレナのために使いたい」
魔石召喚の力で少しだけ意思疎通ができるといっても さすがに理解はできないか。
だけど 気持ちは伝わっているようだった。
エレナを助けたい・・ それだけ 言えば本当は十分だったのかもしれない。
ハズレと書かれた白紙の紙を掲げて願った。
すると 白紙の紙は宙に浮いて光を放つ。そして 女神の声がした。。
「私の心を育ててくれてありがとう。
ですがエレナは 正しく生を受けた者ではないのです。
ですから ときの歩みを自ら選ぶことはできません。
白紙の紙で 叶えることができるのは二つのうちのどちらかです。
このまま下界に留まり、エレナはオーブと呼ばれる宝石に形を変えて、永遠の時を生きるのか
私の力を使って あと7日の時を生きるのかの、どちらかなのです。
あなたが願うのはどちらなのですか?」
運命の日が来たときに 宝石になっちゃうけど永遠に生きられる人生か
今のままだけど 7日間だけ生きられる人生のどちらかか。
どちらがいいのだろう??
俺は ひざを曲げてエレナと同じ目線になった。
前髪から目が見える。
泣き止んだばかりだけど、きちんと答えられるだろうか?
エレナの両手を 両手で握り胸元あたりまで持ってきた。
「なあ エレナ・・・・・だけど どうする。」
トシユキは 愛情をこめてエレナに話した。
もしも 宝石を選んだら俺が世界中を旅して、エレナに異世界のすべてをみせてやる。
7日を選んだら 寂しいけれど、最後のその日まで 拠点のみんなと一緒に過ごそう。。
どうするエレナ
だけど エレナは首を振った。願いをかなえることを拒んだのだ。
そりゃ、どちらを答えても幸せになれるとは思えない。
だけど 俺が握っている手を少し持ち上げると、「あたたかい」と言ってくれた。
俺の手の中から自分の手のひらを広げると、手で水を汲める形を作った。
火魔法か水魔法を手にためるときの形だ。
俺が初めて魔法を使った日のように ゆっくりと、ゆっくりときらめく水が手のひらを満たしていく
沸き上がった水が エレナの小さな手から溢れた。
そして 俺の手のひらを満たし溢れてしまった。
「トシユキの手は大きい。。エレナの手はすぐあふれちゃう。だからね、おハラいっぱいだよ。・・・」