女神の欠片はみんなの欠片
ここは森の中
ゴブリンは今日も尖った鼻をクンクンとさせ始めた。
「また 芋を見つけたのかな」
陽気に芋の場所まで行くと落ちている木の枝を使って芋を掘る。
ザックザックと 嬉しそうに土の山を作ってる。
掘ったお芋を持ち上げて 片足でケンケンと飛び跳ねてきっと嬉しかったのだろう。
「あんなところに 芋があったのか?」
見てると俺も ほしくなる。だけど大体 芋の場所がわかってきたかな。
俺も拠点のみんなのためにと 森の探索をやっている。
「こん棒ゴブリン一匹にオシャレゴブリンが二匹なら行けるところまでつけてみるか・・」
森の魔物のゴブリンは こん棒や弓を持っている。
だけど いろんな奴がいて カゴを背負ったゴブリンや
胸に角笛のアクセサリーを付けたオシャレなゴブリンもいる。
今日は後をつけてみたけど すると塔が見えてきた。
茶色い三角形の塔で遠くからはタダの山に見えるが
近づくと人の建物だとわかるのだ。
ゴブリン達は その塔の方向へ帰っていく、あの塔がゴブリンの村なのかもしれない。
しかし 途中で茂みからゴツイやつらが現れた。
見た目はガッチリしていて背が高く 筋肉がムキムキとしている。
人型の魔物 あれはオーガだ。
オーガはゴブリンに何か話をしているようだ。
魔物の言葉はわからないけど そのうちオーガはおしゃれゴブリンから芋を奪って食べてしまった。
ゴブリンはただただ見ていた。
芋の欠片を飛び散らして 食べていく。
もう一匹のゴブリンは 芋を後ろにかくしたけれど、それでどうにかなるわけもなく
オーガに ゴブリン事たべられてしまった。
はぁ 朝から・・・。
俺は魔石召喚をする。 召喚アイテムは「芋」だった。
ゴブリンは芋が好きだから 召喚アイテムも芋なのだろうか?
「力+1 体力+1 魔物言語+2 」
復活をしたゴブリンは キョロキョロとあたりを見回すと 塔を目指して帰っていった。
「今度は 食べられるなよ~!」と 手を振ってやった。
森の偵察を終えて帰ろうとすると途中で スパイダーたちがネットの巣の手入れをしている。
せっかく ネットを設置してもクモの糸も ノリの役目をする接着剤を
塗りなおさなきゃいけない。
手入れは欠かせないスパイダーはマメなやつだ。
「今日も ごくろうさん!」
こちらが 手を振るとスパイダーは 足を上げてかえしてくれる。気持ちは十分に伝わっていた。
拠点のネットも 大分増えたな。
スパイダーのネットは ワナでもあるけど 防衛のトラップにもなっている。
最近は来なくなったけど イノシシなんかは拠点に来る前にネットに捕まってしまうようになった。
「ただいま」
小屋に戻ってきたけど 誰もいない。会話もたまにはしてみたい。
贅沢すぎる願いだろうか。
小屋の中に目をやると 殺風景な作りの棚と机が見えている。
棚には もち米と干しブドウ。それに女神からもらったお菓子が置いてあった。
「そろそろいいかな」
以前 焼き払われた土地があったからブドウの種を植えてみよう。
いつかこの草原に 誰かが訪ねてきてくれるなんてこともあるのだろうか?
せっかく女神がくれたお菓子だったけど 非常食として保存したままだったな。
そろそろ 食べてもいいかもしれない。
「やるか!・・召喚」
袋を遠ざけて両手で開いた。
するとお菓子ではなく煙が出てきて
「パンパカパン!! 大当たり!」 小さい精霊のような子が現れた。
「私の名前はエレナ!女神の分身よ。よろしく、トシユキ」
「はい こちらこそ!ってどういう事??」
彼女は 女神の分身だ。
女神は前々から「下界を旅してみたい」っと思っていたらしい。
だから 女神の心からその心の欠片がこぼれて、
エレナになったらしいのだ。
いつかは 神界に戻って女神の心と一つに戻るその日まで置いてほしいということだった。
神界で カーバンクルを欲しいといった俺だから 女神は預けてくれたのだろうか?
確かに人恋しかったけど 子供ってどうなんだろう・・・。
・・・
※女神と一つになる日まで あと89日
・・・
「トシユキ おハラ、空き過ぎだよ」
エレナは 小さな手をお腹にあてて肩をすくめた。
お菓子の袋に入っているといっても お腹がペコペコだっただろう。
これはしょうがない・・・。
棚には ちょうど干しブドウがある。
種を取り出してから与えてみた。気に入ってくれたのかわからないが
モクモク と食べている。でも これでは 足りないか。。。
スパイダーが狩ってきてくれた肉なら実はあるのだけれど
神様の分身だったら そういうものも食べないだろう。
はぁ・・どうする?
・・・・。
そういえば 前に キツネと草原を探索していたときに 鑑定リングに
「※タケノコみたいにコリコリして美味しいの、供物の中でもベスト10に入る」
と書いてあった異世界タケノコの事を思い出した。
急いで取りに行けば 草原で採取できるものなので すぐに手に入れることが出来るだろう。
でも 外は暗くなりつつある。。。
「よし 少し待ってろ」
異世界タケノコを取りに あたりも気にせず走っていった。
今ではすっかり俺の庭だから楽勝だと思った。
でも 突然!!
目の前に緑の眼光の黒い狼がいる。。。まずいと思い 振り返ると。そこにも狼がいる。。
横を向いても。そこにも狼がいる。 囲まれた!!
一斉に襲い掛かってきたのだが・・・うまく囲いから逃れて走る。
ダッシュー ダッシュ! このまま運河まで走って飛び込むか!
しかし 逃げた先には 二匹の狼が大きな口を開けて待っていた。
でかい口だからってそのまま入るわけがない?っと 思ったが
口から炎を噴き出した!!
スキル名:火炎放射
解説:炎を飛ばして相手を攻撃する火魔法(魔物用)
「ブォゥゥゥ!!」
「うわァァ」
俺は 急いで水属性のエナジーを全身にまとってそのままダッシュした。
運河まで 何とかたどり着き。逃げ切ることができたのだった。
どうやら 草原に新しい住人が引っ越してきてしまったようだ。
「最悪だ。・・遅くなったな」
異世界タケノコを見つけて、拠点へ帰ると小屋の周りに動物たちが集まっている。
中を覗きこもうと窓やドアに首を突っ込む動物たち、
羽音を立てて 小屋の周りをブンブンと飛んでいるキラービーがいる。
これは いったい何が起きたのだろう?
「キャッキャ キャ!」
小屋の中からは エレナの声がした。
そういえば 俺は 動物たちにエレナを紹介していなかった。
もしも 知らない何かが拠点に突然現れたなら 動物たちは何をするだろう?
ゾッとしてきたぞ。
動物たちをかき分ける。
入口や窓に首を突っ込んでいてなかなか どけられない。
それでも なんどか 手でかき分けて中に入ると
小屋の中には スパイダーがいた!!
そして スパイダーのネットにはエレナが包まっていたのだった。
スパイダーの手が伸びる!!
そして・・・伸びた手が ネットをゆっくりと揺らす! 揺らす?
「もっと揺らして。キャキャキャ」
エレナは スパイダーの作ったクモの糸のハンモックに入って楽しんでいたのだった。
なーんだ 驚かせないでくれよ。。
「ゲロゲロ」
俺が留守の間に みんなでエレナの面倒を見ていたのか。。
異世界タケノコは茹でてからナイフでスライスする。
土魔法で作ったナイフだが エナジーをまとわせるとスパスパきれる。
斬ったタケノコは 火魔法でこんがりと焼き目を付けて香りも楽しめるようにしてみた。
まあ それくらいはサービスだ。
・・・・・「おいしい」
「だろうね」
パクパク、パクパク食べている。
小っちゃいのに・・・ 今度は塩メンマでも作ってやるか。
この日は ピョンチがエレナを抱っこして眠った。。
しかし 次の日になってみるとエレナが大きくなっている。
「どうしたんだい? その体は??」
少しだけ大きく成長したようだ。
・・・
※女神と一つになる日まで あと79日
・・・
エレナが現れてから数日がたった。
エレナは成長は止まったけど、小さな子供くらいまで大きくなった。
ときどき、星空をじっと見つめるようになって ちょっとロマンチックになったかもしれない。
でも 星に吸い込まれる間隔は 言うまでもなくいいものだ。
「トシユキ何してるの?」
「これはブドウの畑を作っているんだよ」
どうやら 手伝いがしたいようだ。
それほど面白いものではないだろうけど 手伝ってもらうか。。
・・・。
だけど やっぱり子供だから キツネたちのところへ遊びに行ってしまった。
「やっぱりな」
キツネは 穴を掘っている。 モクモクと掘り続けている。
エレナはその横でマネして掘っている。
でも 全然掘れてない。一生懸命なのに。。
がんばれエレナっと思ってしまった。
「おハラ空いたよ。 トシユキ」
「お昼ならここにあるぞ」
お腹を「おハラ」という クセもなんだか愛嬌があるが、
でも注意したほうがいいのだろうか?
この夜俺は エレナに注意をした。
そしたらエレナは 泣き出した。俺が悪いのか?
草原には焼けた原っぱがあった。
ここにブドウの種を植えてたのだが ここがブドウ園へと変わっていけば
初めて異世界に降り立った場所が農園になったことになる。
きっと いいブドウ園にしてみせるぞ!!
そう意気込んだのだが次の日には、もう芽が出ていた。
異世界で 作物を育てるとこんなに成長が早いものなのだろうか?
まさか エレナがいるから・・なんてことはないか。
・・・
※女神と一つになる日まで あと59日
・・・
「ガルルルル ガルルルル」
「はぁはぁはぁ・・・」
黒い狼は頭がいい。
拠点近くでは襲ってこないくせに こうして食材の採取をしようと
遠くまで来ると二匹で襲い掛かってくる。
何とか逃げ切れたが 少し噛まれてしまったか。。
「ほぉーら エレナ 好物のタケノコ取ってきたぞ!」
「はぁーー!!! トシユキ 血!!」
俺が拠点の小屋へ戻ってきてタケノコをエレナに見せると
笑うと思っていたエレナが俺の腕に飛びついてきた。
お前、血に触って、「けがれ」みたいなのは受けないのか?
「かすり傷だから 大丈夫だよ」
それでもエレナは 俺の手から離れなかった。
そして 泣いていた。。
仕方がない。。もう少しだけ心配されてみるのもいいかもしれない。
トシユキはエレナの頭を、そっと、なでた。
・・・
※女神と一つになる日まで あと49日
・・・
「ケロ ケロ からの~ スパイダー!! あはははぁ!!!!」
エレナは 拠点のみんなに拾ってきた葉っぱを被せて遊んでいる。
何が楽しいのかは 説明が難しい。
だけど ここには そういうことを気にするやつはいない。 むしろ楽しんでいる。
沢山いる仲間から 誰が葉っぱをかぶせてもらえるのだろう?
今日は 俺のところにくるのだろうか? まさに神様だけに エレナ神だけが知っている。
そして ブドウはどんどん成長している。
やっぱり 何かがおかしい。
今日は俺もエレナと遊んでいたのだが、夕飯はエレナの武勇伝が始まった。
拠点の生活の一つ一つに 目を輝かせるエレナ様のお言葉は
俺の拠点を見る目も新鮮にしてくれた。
「キャハハハ」
「そうだったのか? あはは」
エレナは食事中でも 両手をブンブンと動かして武勇伝を語り続けるのだった。
この後は いつものように星空をじっと眺めるのだろうか?
誘ってみてもいいだろうか・・?
「食事が終わったら 一緒に星でも眺めようか?・・」
「うん トシユキと一緒に見たい!!」
この子は神様の分身じゃなくっても 一緒にいたい。
俺のところへ来てくれて ありがとう。。
ありがとう 神様。。
それにしても 夕飯の話を聞いていると、スパイダーはエレナの心をつかむのがうまいんだよな~。
一緒にいてくれる奴よりも、マメな奴のほうがモテるのだろうか?
・・・
※女神と一つになる日まで あと39日
・・・