真っ赤な葡萄酒1
「死神様バンザイ!」
「英雄トシユキさまバンザイ!」
ベーレ国では 死神の力で銀貨が降ってくるという喜ばしい出来事が起きた。
みなはそれを「天の施し」と呼んだ。
貧しいものはお腹を満たし、お店の商品は完売になった。
すべてがうまくいっていた。
トシユキたちが モチ米や葡萄酒などを卸売りしている場所は露店街と言って多くの庶民が行きかう場所なのだが、
ここは手ごろな価格で商品が手に入る場所だった。
しかし、今では野菜一つが銀貨1枚という値が付く事もときどきあり、それほどに高騰をしていたのだった。
でも それはトシユキたちにとっては好都合だ。
ガッポリ儲けていた。笑いが止まらなかった。
「質がいいねぇ。よし その値段で買おう。ただし 今日の荷はうちの店にすべて納品してもらうよ」
今日は 露店街に行く前に船着き場に付くと、商人がいて荷を買いたいと言われた。その場で商談が成立してしまったのだ。
「俺たち良いことをしているみたいだな」
商人は愛想がよくて「買ってやる」というより「売ってください」といった態度だった。
地球では普通の事だけどこの時代で商人がこんな態度をすることはない。
市場の過熱は思っていたよりもすごいようだ。
仕事も早く終わってしまったので 草原のみんなの物資を買い足してから
「港バザー」を見て回ることにした。
船着き場には 「港バザー」と呼ばれる小さなバザーが引かれていて
骨董品や魔道具から普通の家具や木彫りのワイルドベアーまで 変わった物が売られていた。
「特別な金属を加工できる、かじ屋を探しているのですが・・。」
「ほう それなら私の弟が、かじ屋をしておりますが・・」
トシユキは悪魔との闘いに勝ち、国から褒美として砕けてしまった聖剣をもらっていた。
この聖剣に使われている金属は オリハルコンと呼ばれる金属らしく普通のかじ屋では
加工する事も復元することも出来なかった。
そこで へんてこな商品を売っている港バザーで、
特殊な金属が加工できるかじ屋を知らないか聞いて回っていたのだった。
ちなみに この世界のオリハルコンは装備するとステータスが上がる効果があるらしい。
つまり昔の魔王と戦った勇者のほうが 今の時代の腰痛勇者よりも強かったようだ。
まあ とは言え今は砕けてしまったので、
こうして道具袋に入れて持ち歩いても肩こりが治る程度の効果しかないが。。。
「不眠症が治るが 寝坊してしまう枕か・・シャレた商品ですね」
「ほうほう お客さん、この商品の良さがわかるのかね」
ここは危険な香りのする商品がいっぱいだ。
自分だったら使いこなせるかもしれない!と思ってしまう。
「凍り付くコップ」なんて便利そうだけど
ベーレ国の人たちはあまり購入していないようだった。
おばあさんが説明するには、
「ほう お目が高い。「凍り付くコップ」は
水をコップに入れて足の小指をドアにぶつけると
カップの中の水が氷になるというコップにございます・・
小指でなければいけません、親指ではダメなのです」
やっぱり ろくなアイテムじゃなかった。。。
トシユキは店を後にした。
勇者が店に来た。
「バアさん、 氷が作れる魔道具はあるか?」
「はい もちろんです。。それなら・・「凍り付くコップ」がございます」
「小指か、はぁ、はぁ、いいなそれ。 俺にピッタリじゃないか、二つくれ」
勇者は 嬉しそうだ。
「お買い上げありがとうございます」
「死神様 待っていてください・・」
勇者はぽつりと独り言を言って店を出て行った。
「さあ さあ 品評会の受付はこちらだよ! 葡萄酒を自慢したいやつはいないかぁ!」
「意外と混んでるな」
トシユキたちは葡萄酒の品評会に参加を申し込みに来た。
物価が上がっているので 品評会に出展するよりも商売に回したほうがいいと考えるだろうから、葡萄酒の数も少ないだろうと思っていたが
同じことを考える人たちがいるようで ここぞとばかりに申し込みをする人たちがいた。
トシユキは 前回は予選3位だったが今度は本選に出られるのだろうか?
「はい これで受付完了です。いい結果が実りますように・・」
予選は何度か開催されるので今回がダメでも次回がある。
けど 今はそんなことを考えるのは止めておこう。
「マイク!」
「おっ おう、なんだ」
「そろそろ 行こう」
マイクが上の空だ。こんなことは珍しいのだが、実は予選会場に来る途中の路地に
エルフとドワーフの女性が立っていた。
二人は「私はエルフのミーフ、こっちのドワッ子がハーパーといいます、唐突ですが仕事はありませんでしょうか?」と話しかけてきたのだった。
外国から船で来たようで家政婦の仕事を探しているらしい、
ヒューマンが金髪のエルフを家政婦にしているというのは凄い事だ、ちょっとしたステータスになる。
自慢できるのだ。
実際に上流階級では あるようだけど庶民には高根の花だった。
ドワーフも土魔法が得意で器用なので 場所によっては人気があった。
「おやおや 悪魔を倒した英雄のトシユキ様ではありませんか?
私は「ワイン協会」の者です。私たちも品評会に参加をしていましてね。
あなたのライバルといったところでしょうか?お見知りおきを」
ワイン協会の人たちがトシユキに話しかけてきた。
彼らは 何度か優勝経験のある実力者たちだ。
トシユキの葡萄酒が最近庶民の間で噂になっているらしく、挨拶をしたかったのだとか。
一歩下がったところには エルフの秘書がいる。この人たちは成功者といった感じが漂っていた。
「そろそろ 貴族様のところへ・・・・」
「ああ そうだな。では本線でまた会えるといいですね」
・・・・
お城では舞踏会や宴が毎日のように開催されていた。
「愉快!愉快! お金が湧き水のように増えていきますな」
「ええ 神の施し さまさまです。でも どうせなら金貨がよかったですわ」
「所詮は 死神、金のように高貴なものは持ち合わせていなかったのでしょうな。 あははは」
銀貨を拾った街の人たちがお金を使うことで 金持ちや貴族たちはさらにお金を手にしていた。
「ところで 悪魔を倒した英雄のトシユキが葡萄酒の品評会に参加しているようですね。
なんでも 庶民の間からは「この世の味とは思えない美味しさ」と言われているのだとか」
「英雄とは言え、新参者が出てくるのは困ったものですな」
品評会は 表向きはただのイベントだったが、裏では葡萄酒の価格を左右する大切な大会だった。
彼らには葡萄酒も立派な財産だ。
葡萄酒が出来上がる前から、商談を始めて購入しているのだ。
だから 自分たちが持っている「ワイン協会」の葡萄酒が優勝すれば高く売れるし見栄も張れるが
トシユキの葡萄酒が優勝をしてしまうとせっかく 買い込んだ葡萄酒で損をしてしまうかもしれなかった。。
・・
「王様 また 街女のところへ行かれるのですか?」
「むろんじゃ、 あの卵焼きの味が忘れられぬのだ。今行くよ、待っててサリーちゃん~」
王様は 行ってしまった
悪魔の力で違う姿になっていたころ、ベーレ国で出会った女性がいた。
サリーちゃんと王様からは呼ばれているが 年は王様とそれほど変わらない。
だが活発で若々しい女性なのだ。
そのとき食べた卵焼きの味が忘れられないので こっそり一人で会いに行っているようだ。
「はぁ あの王様、変なことをやらかさねばいいのだが」
・・・・
「さあ モルさんたち今日も頼んだぞ!」
「プイプイプイ!!」
草原では トシユキたちが綿花の種をまいていた。
以前は焼き畑農業をしていたのだが もっぱら今はモルモットたちが活躍している。




