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東の国の呪術師たち―纏繞の人々―  作者: 須能 雪羽
第七幕:浮雲朝露
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第86話:彼方ト此方ノ思惑ニ

 白鸞の危機を脱するのに、最短かつ確実な方法は、心那さんが直ちに戻ることだ。心那さんの託した結界なのだから、打ち消すことは可能だろうし、それを妨害する妖もすり抜けることが出来る。

 だから戻らないのかと聞いた。しかしその答えは、否だった。


「あなたたちに、全てを任せたつもりはありません。わたくしにはわたくしの戦いが、ここにはあるのです」


 統括が寝返り、初手の総代は戦線離脱。二枚目は白鸞に残り、三畏総代は特命に動く。曲がりなりにも纏め役と呼べる人が、こぞって最前線から離れるのだ。たしかに残るは心那さんしか居ない。

 だが自分の戦いという言葉には、また違った意味があったようにも思えてならない。


「どごさ行ぐ?」

「仙石くんのところだよ」

「さっき会ったばっかしでねが」

「さっきと今とじゃ、状況が違うからねぇ。僕が何でも計算づくで動いてるわけじゃないって証明だよ」


 僕たち四人は、出てきたばかりの通路をまた進んでいた。国分さんは姉とその護衛である静歌、鈴歌に任せて、後顧の憂いはないというやつだ。


「分がんねすが、骨っこ探すんでねのが?」

「そうだよ。でもきっと仙石くんは、在り処を知ってる。塞護だけでも広いのに、どこにあるか分からない物を当てもなく探せないよ」

「久遠さんの大事なもんだば分かっけど、終わっでがらが良ぐねが?」


 ああ、そうか。萌花さんは誰にも師事しないで、自分の技だけを磨いた。式士としては常識に近いことでも、その件は裏技のようなものだ。知らなくとも無理はない。


「悪意を持った霊を唹迩と呼ぶように、悪意を持った妖をと呼ぶんだけどね。生きた時の怨念なんかを抱えたままの死体を、屍鬼しきと言うんだよ。元々は思いを残すということで、思鬼だったらしいけど」

「屍鬼を使えば、普通の人でも纏式士の真似ごとが出来るそうですよ」


 僕も知識として知っていても、実際に見たことはなかった。真っ当に式士を志すなら、そんな物を使うべきでない。

 言うなれば、弾の補充出来ない大砲を持ったようなものだ。使える間は力量が上がった気になるが、使えなくなればなにも残らない。


「伽藍堂? の爺さまは、そっただ物使わなぐでも強いんでねのが?」

「そうだね。そういう使い方じゃないんだろう。要するに怨念を蓄えた電池みたいな物だから、使い方を予想し始めるときりがないんだ」


 電池。父上の遺骨を指してそう言われると、いい気はしない。しかし分かりやすい例えではある。


「難しいだねや――そいだら久遠さん。左手の調子は大丈夫が?」

「え?」

「久南さんが見せろっで、言っでだべ」

「え、ええまあ。大丈夫ですよ」


 分かれる前に、たしかに姉にそう言われた。調整といえば調整をされたのも本当で、大丈夫かと聞かれれば大丈夫だ。けれども同時に教えられた、使い方の話が余計だった。

 それはいいね、なんて。僕が喜んで利用するとでも、姉は考えたのだろうか。


「也也、国分くんを助けた場所に戻れるかい?」

「拾ったんだ」

「人質としての意味は達成したから、放置されてたんだろうけど。どうぞ助けてくださいって、看板が出てたわけでもないだろう?」

「拾ったっつってるだろうが」


 萌花さんに状況を説明し、荒増さんをからかいながらも、四神さんは捜索に頭を働かせているらしい。


「てめえが裏切ってねえとは、まだ信用してねえんだ。国分の腹の傷、あれはてめえがやったな?」

「そうだね。あんまり彼女が言うことを聞いてくれないから、非常対応というやつだよ」

「えっ、四神さん。本当ですか⁉」


 なにを根拠に、裏切りを疑われているのかは知らない。国分さんが裏切っていると考えて、その対処に行ったのなら、争いになる可能性もあるだろう。

 でもその前に、話すことくらい出来た筈だ。国分さんと同等か、それ以上の実力を四神さんは持っているのだから。

 話す前に不意打ちするくらいしか、相対する方法の思い付かない僕なんかとは違う。


「僕が何を釈明したって、言いわけにしか聞こえないだろうからしないよ。でも一応、裏切っていないとだけは宣言しておこうかな」


 いかにも気に入らないという風に、荒増さんは舌打ちと睨みを四神さんに向ける。


「おい新人」

「はっ、はひぃ!」

「そろそろ宿題は出来たのか」

「しゅっ、しゅく?」

「ああん?」


 せっかちな荒増さんが、どこ吹く風な四神さんをいつまでも相手にはしていない。次の矛先は萌花さんに向いた。

 宿題とはなんのことやら、当人は心当たりがないらしく、僕もすぐには思い至らなかった。


「――あっ、萌花さん。親株ですよ」

「あああ、あ、あの木っこだば、お母さんだ!」

「よし、上出来だ」


 僕もだけど、すっかり忘れていたらしい萌花さんは、いつ調べたのか。

 ともあれ求めた答えが用意されていて、荒増さんはまたずんずんと先頭を歩く。出会い頭とか伏兵とか、そういうのを怖れる様子は全くだ。


「僕も着いていっていいのかな?」


 よせばいいのに、四神さんはまた話題を蒸し返す。僅かに回復した荒増さんの機嫌が、悪化することを覚悟した。


「てめえの態度がムカつくのは、いつものこった。今はあの、いい子ぶった仙石のやり口が気に入らねえ。程度で言やあ、上の下だ」


 この人は決して、正義の味方とかではない。もちろん法の番人とかいうのとは、程遠い。

 だから仙石さんへの怒りが、なにを理由にしているのか。あれこれ予想はするものの、これとはっきりは分からなかった。

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