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東の国の呪術師たち―纏繞の人々―  作者: 須能 雪羽
第七幕:浮雲朝露
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第85話:敵ノ狙ヒヲ挫ク依頼

 荒増さんが、姉の霊を疑似生体に移した技術者。それは、既に複雑怪奇なことになっている僕の気持ちを、また一層に混沌とさせる。


「奇妙な縁ですね――あれ?」


 纏占隊に入るまで、縁も所縁もないと思っていた人が。などと考えていて気付いた。それなら縁は、あったんじゃないかと。


「初対面と思ってましたが、荒増さんは僕のことを知っていた?」

「知らねえよ。疑似生体も、蕗都美に頼まれてやっただけだ。苗字が同じとか、そんなことを俺が気にすると思うのか」

「思いません」


 口早に返事をする前に、大きな舌打ちがあった。

 余計なことに気付きやがって。なんだかんだ、三年以上も行動を共にした僕には、そういう意味に受け取れる。


「そうですね。わたくしも血縁の分かる資料などは渡しましたが、殊更に久遠くんのことを話してはおりません。ただ、今はそれよりも」


 姉のことはともかく、荒増さんの認識などはもう完全に僕の私事だ。それがさて置かれるのは当然だけど、ではまだ姉について何かあるのか。

 予想もつかないその続きを、心那さんは荒増さんに、言えと視線で促した。


「ACIの中身は霊だ。式士なら、直接話すことも出来る。だが霊のステータスを書き換えるようなことがあれば、浄化される式を組み込んである」

「ステータス? 平常はどうなってるんだい?」

「機械制御に決まってるだろうが、ボケ」

「――ああ、なるほど。ACIとして憑依させるのに、一つひとつの霊に対して、也也が説得済みということか。高価になるわけだね」


 何を説明されているのかさっぱりだった僕も、四神さんの質問で少し分かった。

 つまり順番として、まずは荒増さんが「制御プログラムとしてACIに留まってくれ」と説得する。

 そうして出来上がったACIがマシナリなどに組み込まれるが、式士ならば接触することも出来る。だがその対策もしてあるということだ。


「ええと、なんとなくは分かりましたけど。それがどうかするんですか?」

「ああ? てめえは目の前で見てたんだろうが。マシナリが暴走するのを」

「あっ――」


 朱鷺城でのことだけでも、それからたった今この場で聞いたことも、ボリュームが大きすぎる。

 ほんの何時間前と言い表せることでさえ、意識からは消えていた。


「組み込んだACIの、ステータスを変える方法は?」

「一旦、物理的に外さねえと無理だ」

「それをあちらは、直接触れることさえせずに行った。ということですね」

「そういうこった。ついでに言やあ、あの木の妖が手品の種だろうな」


 お花見で酒でも飲むように、荒増さんは遠い妖を眺め、水筒を呷った。


「で、でも。もうそれは、やられてしまったんです。つまりこれ以上の被害は出ないってことですよね」


 本隊の様子を霊で見る限り、それほどの被害を被ってはいない。位置的にも、キャンプしていた場所からかなり前進している。

 ということは弱体化されてなお、戦力で押している。仙石さんや吉良統括といった人たちを除けば、もう負けはないということだ。

 しかもこちらには、心那さんに四神さん。荒増さんも居る。その二人に対してだって、心配は必要ないと思えた。


「久遠くん。都市運営のシステムにも、ACIが使われているんだよ。もちろん防衛システムにもね」

「そうですけど、塞護はもう陥落してるんですから――」


 言いながら気付いた。僕は、なんと間抜けなのか。白鸞だってそれは同じで、既に八体の妖に取り囲まれている。

 もしもマシナリが使用者を傷付けたみたいに、防衛システムがそこに住む人たちを攻撃したら。

 もうこれは愚王の喉元に、刃を突きつけられているようなものだ。


「それって。向こうがそれを条件に出してきたら、抵抗出来ないじゃないですか」

「そうです。だからわたくしは、あなたたちをここまで迎えに来ました」

「僕たち? 荒増さんと四神さんですか」

「いいえ。この問題児たちもですが、久遠くんもです。もちろん反坂さんも」


 萌花さんは、膝に静歌と鈴歌を抱いて座っていた。そこへ急に自分へ話が向いたものだから、ビクッと強張る。おかげで機械人形の二人は、頭をポンと飛び上がらせた。


「お、おらもが?」

「白鸞からの定期連絡が途絶えました。王殿の守りの為に託した、結界を使ったものと考えられます」

「どれくらい持つものなんです?」

「三日。その間は、何も通すことはありません」


 急に話が変わったと思った。まあそれにしても三日の猶予があるなら、なんとかなりそうな気はする。

 だが心那さんの表情には、いつになく緊張の色があった。


「何もせず、じっとしていれば三日を鉄壁に守りきります。しかしもしも結界の中で戦闘など起これば、先に酸素が尽きるでしょう」

「ええっ⁉ そ、それはどれくらい持つものなんですか」

「規模によります。しかし、一日から一日半。それを越えれば、危険度が上がります」


 一日。長く見積もっても、明日の夜まで。ようやく押し始めたというこの状況で、それは随分と余裕がない。


「本題を言います。まずその馬鹿娘の救出は伏せます。これは味方の突出を防ぐ為です」

「突出を? 急いだほうがいいんじゃないんですか」


 国分さんは、飛鳥の剣術指南役である國分流の継承者だ。なにかあればどうなるものかと、誰も口にはしないが懸念する人は多いだろう。

 あの兵部卿が「全隊突撃」などと命令しないのも、それが一因と思う。


「それがあなたたちを待っていた理由なのですが――」


 そう言い淀んで、心那さんは鉄扇を何か操作した。この人のマシナリであるらしいそれは、式の支援も通信も出来る。

 どうやらまた、何やら進展があったようだ。表示させた文書を読んだ心那さんが、鉄扇をバッと広げて立ち上がる。


「四神、荒増、遠江、反坂。纏占隊統括控として依頼します。一つ、遠江の里から盗み出された、遠江久南の頭骨を探し出すこと。一つ、同じく遠江久流の遺骨を探し出すこと」

「父上の?」


 その内容には驚いたが、現状対応だったここまでと違って、正式な依頼だ。僕たちは立ち上がって、言葉を漏らさぬように聞く。


「もう一つ。叛逆の徒、伽藍堂弥勒を滅してください」

「了解です!」


 そんなことが出来るのか。躊躇いながらもそう答えたのは、僕だけだ。あとはそれぞれ


「あいよ」

「努力しますよ」

「お、おす!」


と、バラバラだった。

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