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第5話:首都ノ帳ハ真ニ暗シ

「――うん、お疲れさま。でも明日が本番だからね」


 夜。

 消灯時間を過ぎると、纏占隊の敷地内は静寂に包まれる。そんな気がするということでなく、文字通り、本当の意味で。


「うまくやってくれないと、あたしも困るんだよ」


 宿舎の一室で、自身のベッドに腰掛けて話す女性。機嫌の良さげなその声も、優れた防音構造のおかげで室外へ漏れることはない。


「いちばん腰の重い奴も、夕方になってやっと行ったし――うん、そう。他の連中? とっくに着いてるさ」


 話し相手の姿が見えないのは、通信端末を使ってどこかの誰かと会話をしているかららしい。こめかみに手を当てて頭痛をこらえるかのような素振りをしているのも、指先に指輪状の素子を付けているからだ。


「ばれたらとか考えない。どうしたらうまく行くかだけを考えてたほうが、いい結果が出るもんだよ」


 少し強い語気と、中空のどこか一点を見つめて動かない目が、女性の中に何か決意めいたものを感じさせる。


「ずっと決めてたことだからね。叶えないと」


 女性はそう言った後、少しの時間を喋らなかった。無論、通話相手が話すのを聞いていたからだが。


「うん、それでいいと思うよ。明日は大変なんだから、もう寝な」


 通話を終えて、こめかみに当てていた手もだらりと下ろして、女性はしばし目を閉じた。


「明日。うまく行ったら――」


 硬直しているようにも見えた表情が次第に緩む。


「ふ――ふっ。ふふふっ。あははははっ」


 緩んだ口元から零れた声にならない声は、やがて確かな笑いへと変わる。

 ひとしきり笑った女性は、表情を元の涼やかなものへと戻す。すると視線を素早く走らせて、他に誰も居るはずのない室内を見回した。


「さて。明日の為に、今日は寝させてもらうとしようかね」


 女性はベッドから立ち上がり、洗面台の方向へ歩きだそうとして留まった。デザートの空容器を、サイドボードの上へ置きっぱなしにしていたのに気付いたらしい。

 彼女は容器を摘み上げると、ゴミ箱に向けてぽんと放り投げた。容器はゴミ箱の縁にかすることすらなく、小気味いい音を立ててその底に落ちる。

 また一つ気を良くした女性は、あらためて洗面台へと向かう。

 よく晴れてはいても月の姿はなく、なんの事件も聞こえてこない静かな夜が更けていった。

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