チートカウンター ~とある異世界転移者の末路~
それは何処にでもある魔王が世界を支配し、異能力やチート能力を持つ英雄や勇者がそれを救う話。
ーーとは別の裏に纏わる物語。
フード付きのマントを羽織った男はある場所を目指して荒廃した世界を歩いていた。
男の行く手には寂れた民家の中に一際際立つ豪邸があった。
「……こいつもか」
男は独り呟くと豪邸目指して歩いて行く。
「止まれ」
そんな男を衛兵らしい男達が槍を手に止める。
「此処はタケル様の住まう神聖な場所。みだりに入る事は赦さん」
「どけ。俺はその"自称"勇者に用がある」
男はそう言うと衛兵の槍を掴み、強引に引き寄せて、メリケンサックを嵌めた拳を衛兵の顔に叩き込む。
次の瞬間、メリケンサックを叩き込まれた衛兵の顔が潰れ、眼球や脳髄を撒き散らせながら、奥にある壁まで叩き付けられる。
「ひっ!?なんだ、お前は!?」
「お前さんにゃあ、言っても解らんだろうが、"チートカウンター"って奴だ。"異能者狩り"とも言うがな?」
男はそう言うとフードを脱ぎ、癖っ毛のある短い髪を掻くとその獰猛そうな瞳で壁にインクをぶちまけた様に血で塗れた衛兵を眺める。
「関係ない奴まで殺しちまったな。まあ、仕方ないか……」
男はまた独り呟くと豪邸の中へと入って行く。
その度に衛兵達が男の行く手を阻んだが、男はその強靭な肉体で衛兵達を拳一つで倒して行った。
そして、美少女達を侍らせて愉悦に浸っているまだ十代半ばの少年の前へと立つ。
「ああっと、お前が花菱武だな?」
「そうだけど、あんたは?なんで、俺の名前知ってるの?」
「お前の事ならなんでも知ってるぜ。なんせ、俺は"チートカウンター"だからな?」
男はそう言うとゆっくりとした足取りでタケルに近付く。
そんな男にタケルは無詠唱で炎の魔法を浴びせる。
それもただの炎ではなく、この世界では最上級かつレベルMAXまで引き上げられた業火の魔法である。
だが、男は炎を浴びながら尚もタケルへと迫って行く。
異変を感じて、タケルは女達に離れる様に言うとこの世界で最上級の剣を構え、その身体には似つかわしくない光速をも超えんとする速さで男の身体を切り裂く。
いや、切り裂いた様に思えたが、男はタケルの斬撃を素手で掴んで止める。
しかもタケルの力を持ってしても押す事も引く事も出来ない程、びくとしないと来ている。
「そ、そんな馬鹿な!?俺のパラメーターは全部999でカンストしてるんだぞ!?」
「悪いが、俺にはそれは当てはまらないぜ、坊主」
男はそう言うと剣を引き、掴んでいたタケルのボディーにメリケンサックを叩き込む。
室内に鈍い音が響き渡り、タケルが呻きながら今日食べた物を吐き出しながら、床に蹲る。
「……い、痛い。なんでだよ?俺には痛覚無効、打撃無効ーーあらゆる無効化がされてる筈なのに……」
「何度も言わすな。さっきから言ってるだろ?俺には当てはまらないってな?」
男はそう言うとタケルの髪を乱暴に掴み、無理矢理立たせる。
それを見て、取り巻きの女達がタケルを助けようと武器を手にするが、男が発する威圧感に負けて、一人、また一人と倒れて行く。
最早、タケルを助ける者はいない。
「あ、あんた、何者だよ!?」
「俺はお前の前世を担当する筈だった死神さ」
「し、死神!?」
「ああ。お前の魂をあの世に戻すのが、俺の役目でな?」
「ま、待てよ!そ、そうだ!俺を異世界に連れて来た女神はどうなるんだよ!?」
「ああ。女神な……あの女神なら死神の公務執行妨害で逮捕された」
「た、逮捕!?」
「運命ってもんは勝手に変えられちゃあ、困るんだよ。
特にお前みたいなまだ餓鬼はキチンとあの世で裁かれにゃならん。
だから、餓鬼のくせにハーレム作って民衆から税を徴収なんてロクな事をしないんだ」
「い、嫌だ!死にたくない!折角、異世界に転移してウハウハだったのに!」
「そのツケの支払いが来たってだけさ。こっちで十分満喫したろ?」
必死にもがくタケルに男ーー死神は「じゃあな」と言うといつの間にか持っていた鎌でタケルの身体を両断する。
だが、タケルの身体には死神が叩き込んだメリケンサックの痕以外ない。
そんなタケルから死神は手を放すとタケルの身体はドサリと倒れ、ピクリとも動く事はなかった。
代わりに死神のメリケンサックを嵌めた手に手のひら大の魂が浮いていた。
「おっと、大分、欲にまみれちまってるな。こりゃあ、地獄行きかな?」
そんな事を呟きながら、死神はその場を後にする。
タケルの魂をその手にしながら……。
「……さてと、次の異世界転移してのさばってる奴はどいつだ?」
ーー嗚呼。因果応報なり。
次はお前の番だ!( ゜Д゜)クワッ!