ジャイアントキリング
目的のジェリノア王女は、ボス広間の奥にあった小部屋でスヤスヤと
寝ていたので、あっさり見つかった。
ダンジョンから時魔法で外まで脱出し、町までは‘ワープ‘の魔法を使用して
一気に移動した。
ギルドの周りでは、慌ただしく人が出入りしていて、
ジェリノア第三王女がいなくなり、迷宮に取り残されたことが
いかに大事件であった事を物語っていた。
アーニーが、俺たちを見つけるや否や、受付から飛び出してきた。
「やっぱりあなたたちならやってくれると思っていましたわ!!」
怪しいな、おい。
とは思いつつも、ギルド内にいた冒険者たちも喜びと安堵の表情をみせ、
みな一様にほっとした感じではあった。
王女の救出依頼で飛び込んできた聖騎士はというと、
王女を見ると力が抜けたのか、腰が抜けたように床に座り込んでしまった。
お姫様だっこ状態でスヤスヤと寝ていたジェリノア王女が、
ゆっくりと目を開けた。
「ここ・・・は?」
「ギルドの中ですよ、王女様」
「き・・・きやああああああああ!!!!」
悲鳴がギルド内に響き渡り、ジェリノア王女は俺からバッと
離れると、アーニーの後ろでわなわなと震えていた。
「ジェリノア王女、こちらの冒険者は、
あなたを迷宮から救ってくれたのですよ」
「ほ、本当なのか・・・?」
「ええ、迷宮10階層まで潜り、ダンジョンマスターを倒して王女を救ってくれた
救世主です」
「救世主だにゃんて~~」
「おいら照れるんだし」
シェリとベベはとても嬉しそうに、えっへんといった表情で、
胸を張っていた。
俺はバフをかけていたから、実質倒したのは2人みたいなもんだし。
ギルド「マティーニ」の初仕事としては、上出来じゃないかな。
「ま、誠に良い働きであった!そなた達には城に戻り次第、褒美を与えねばならんな」
「いえいえ、褒美は結構でございます。王女がご無事でなによりです」
「そうゆうわけにはいかぬ。城までの通行証として、これを渡しておくぞ」
そういって渡されたのは、細長い銀のプレートで、「ミストラル」と書かれている。
ギルドにいた数名の冒険者が、
「あれはもしかして‘特別通行証‘じゃねえか!?」
「王族が他国の名誉子爵やら男爵に渡すっていうあれか!?」
「あの若いの、もしや貴族の子か?」
など、ざわざわと騒ぎ出した。
「わらわは先に城に戻っておる。準備を整えたら、城まで訪ねてくるが良い。」
そういって、ジェリノア王女、床に座っていた聖騎士と、
城から助けに来たであろうその他の聖騎士らと共に、
ぞろぞろとギルドから出て行った。
褒美とかあんまり興味ないんだけどな~。面倒ごとに巻き込まれるのは
もう嫌なんだけどね。
「かおるんさん、ダンジョンマスターを倒した時に、ドロップしたアイテムを
見せてもらえませんか」
ギルドの受付に戻りながら、アーニーは俺に訊ねた。
「ありますよ、ほら、レッドネックレスです」
「「「レッドネックレスだと!!??」」」
ギルド内がまた騒然とした騒ぎになった。
アーニーも驚いた表情を見せ、渡したレッドネックレスが本物か
どうかしげしげと観察している。
「間違いない、本物ですね・・・。20階層クラスでも最上級の
ダンジョンマスター、ボストロルからドロップする、ユニークアイテムです」
「これって凄いの~??」
「おいらってつおい~??」
シェリとベベは期待に満ちた目で、アーニーを見つめている。
「ええ、あなたたちのレベルからするととてもじゃないけど
倒すことができない魔物よ。・・・かおるん、あなた何したの」
「おれはバフ魔法が得意なんですよ~。
彼女たちが本当によく頑張ってくれましたからね~」
ギロっと鋭く睨まれたおれは、現実世界で頻繁に使用していたスキル
‘愛想笑い‘を使って、はぐらかす。
「本当の所は話してくれなさそうだからもういいわ。
で、ギルドの本登録の方もここでしちゃうんでしょ?」
「そうですね~。お願いできますか?」
そういって、おれはアーニーに言われた通り、
おれ、シェリとベベは所定の魔法陣の上に立ち、
魔法‘ギルド‘を使ってもらい、晴れて正式に
ギルドを立ち上げることができた。
「ギルドに入れたにゃ!!!」
「ご主人様とこれからずっと一緒~!!!」
シェリとベベはぴょんぴょん跳ねて喜んでいるようで、
いつの間にかおれの事をご主人様という呼び方で
落ち着いているようだ。
「はい、これギルドの証明書、ランクは2部のBね」
「Bですか???」
「姫救出クエストという全体クエストの中でも飛び級に重要クエストを
クリアして、かつボストロルを倒した功績としては、問題ないんじゃないかな」
ギルドの受付の奥にある階段から降りてきた声の主は、
低い声ではあるがとても通るものだった。
「ギルドマスター、あなたがそういうなら問題ないでしょう。私もBランクという
ことには納得していますから」
アーニーがそのギルドマスターに答えるようにそういうと、
ギルドマスターはふっと笑みを浮かべた。
「君たちがジャイアントキリングかな?」
ギルドマスターは俺たちにそう言ってきたが、
おれたち3人は何を言われているのかさっぱりだった。
よくわからないが、アーニーも何か納得したような顔をしてこちらを見ている。
「奥で君たちに話をしたいことがある。ついてきたまえ」
手招きされると、俺たちは受付の奥、階段を上ってギルドマスターの部屋とやらに
案内をされた。
ギルドのランクをもう一度書いておきます。
1部、2部とあり、
Eランクからスタートし、最高がSランクとなります。
2部<1部
E<D<C<B<A<S
最低ランクは2部のE、最高は1部のSランクです。
また、貴族の爵位のランクとしては、
男爵<子爵<伯爵<候爵<公爵・・・と続いていきます。