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第7話 -始まりの終わり- (04)

「救い主様、私は気にしていませんよ、ミゼット殿も、お気にせずどうぞ」




 そう言ってオーシェはミゼットへと笑いかける。善が恫喝した後にオーシェが自身でフォローを入れる事で、面子を完全には潰さない体を取る。

 余りにもよく練られたやり取りによって、主導権は今やミゼットから善とオーシェの二人の物になっていた。

 ミゼットにしてみれば、完全にしてやられた状態だ。




「さて、盗賊討伐の件ですが警邏隊をも巻き込んだ形になってしまった上に、更には報告をも行わなかったという点ですが、それはあくまで彼らの自主的な参加があり、その意思を尊重しただけの事です。その点に付いては行き違いがあったようで、非常に申し訳なく思います」




 オーシェはにこやかに言葉を紡ぐ。しかし、その内容はその表面上以外は情け容赦のない物であった。

 この時点で、ミゼットはこの二人について、致命的な読み違いをしていたという事もようやく気が付く。




「盗賊の討伐という事象をあまり表沙汰にしたく無かったというのは、この様な小事に皇族の人間が手を出すという事の市井への影響を考えたからです。噂ならともかく、事実として認めてしまうと、他の場所への影響が現れてしまいますから。ですから、この件に関しては警邏隊が私たちに協力したというよりも、警邏隊の事業に協力を行った一部の人間が居るという方向に話を持っていった方が、事態の収拾がしやすくなるかと思います」




 ハメられた、という生易しい物では無かった。オーシェの言葉を聞く度に、ミゼットの顔面は蒼白になっていく。

 オーシェがミゼットに対して言った言葉の内容は、実質的な脅しの内容だったからだ。

 事態を収拾したければ、警邏隊が皇女に協力した事を公に認めろ、と言っているのと同じであった。




 つまり、宰相を裏切って自分たちの側に付けという通告である。

 これを選ばなければどうなるか?

 それは、善が言った。




「ああ、その通りですね。警邏隊の協力、そして、ミゼット殿の子女であるディーナ殿の協力が無ければなし得なかった事ですので。……そういえば、ディーナ殿はどちらにいらっしゃるので? 先日のお礼と、謝罪を行いたかったのですが。彼女こそ、真に名誉を受けるべきお方です」




 彼ら二人は、ミゼットの指示によって当初ディーナが動いていた事を知っている。

 そして、今彼ら二人が言った言葉は、暗に彼が二人の要求を受け入れなければ、彼を引きずり下ろしてディーナを担ぎ上げるという脅しである。

 最早、ミゼットは二人に対して頭を垂れる以外に為す術は無かった。




「協力を得られて何よりでしたね、善様」




 ホクホク顔で城内を並んで歩く善とオーシェ。

 市中に広まっている噂に関しては警邏隊は特に触れる事無く、黙認するという形で決着した。宰相には相当な揺さぶりとなるだろう。




 それよりも、警邏隊の“協力”を得られる事になったのは幸運だろう。だが、半ば脅迫である為にミゼット本人としては中々乗り気ではないだろうが、今の彼らには手段を選んでいる暇は無い。




「ああ、そうだな。ディーナとの連絡は取れたか?」

「ええ、明後日には合流してくれるそうです」




 懸念事項の一つが解消し、ほっと胸を撫で下ろすオーシェ。

 ディーナ率いる警邏隊、傭兵部隊、幾人かの“血のブラッディ・カウント”。寄せ集めにも程があるが、ある程度の形にはなるだろう。

 そう考えながら廊下を歩く善。だが、妙な事に気が付く。




「オーシェ、何かがおかしい」




 そう、誰も居ないのだ。この城内は人の往来が激しい。大帝国の首都、その中心部という事もあって、文官や召使、各国の使者や商人などが常に廊下を歩いている。

 だが、今は異なっていた。誰一人として歩いていないのだ。




「善様」




 オーシェは剣に手を向けながら辺りを見回す。彼女も気が付いたようだ。

 それと同時に、人影が廊下の外から近づいてくる。そのままその影は窓を突き破り、廊下へと入り込んできた。

 ガラスを割りながら、飛び込んできた刺客は四人。揃いの黒い衣装を身に纏い、手には毒々しい色をしたダガーを両手に握りしめている。どう見ても毒が隅から隅まで塗りたくられている。




「オーシェ!」

「はい!」




 前の二人を善が、そして後ろの二人をオーシェが受け持つように、背中合わせで立つ。刺客達はジリジリと短剣を手に距離を詰めてくる。




 スキの無い彼ら二人に対して、打開方法を見つけられずに居た。だが、ここは城内。グズグズしていては兵士たちがやって来るであろう。それを理解している刺客達は、互いに目配せすると、同時に飛びかかった。




 ツーマンセルとなっている刺客達は、どちらの組も同じような行動を取りながら、前後どちらの側のペアも片方が善を狙い、もう片方がオーシェを狙う。

 一人が足止めされたとしても、もう一人が逃げ出す事を許さずに生命を取りに行く手筈となっている。




 よく出来た、そしてよく訓練された動きだった。

 普通ならば、最低でもどちらかの生命は取れたであろう。普通なら。

 だが、この二人は普通ではなかった。




 善はまず一人目の喉元に剣を突き立てる。そしてそのままその剣を放置し、オーシェを狙うもう一人の顎に手酷い一撃を与え、顔面へと一撃を与えた。

 オーシェは目の前の刺客が背後の善と自分の両方を狙っている事に気が付いた。一歩、二歩余計に踏み込み、自身を狙う刺客の凶刃を躱しながら、善を狙う刺客の腕を落とす。

 そしてそのまま返す刀で自分を狙っていた刺客の肩、そして腕に剣を突き立てる。




 あっという間の出来事だった。刺客達の生き残りは喉に刃を突き立てられ、苦しむ仲間を置き去りにしたまま脇目も振らずに窓から逃げてゆく。

 襲撃に失敗した以上、これ以上この場に留まっていても何一つとして得るものは無い。そういう判断なのだろう。




「大丈夫ですか! 善様!」

「あのな、俺より自分の心配しろよ」

 そう言われても、キョトンとしたまま善を見るオーシェだった。




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