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第1話 -来た、見た、帰りたい- (02)

「彼が我々の救い主である、卯木島善様です」


 夕刻過ぎ、オーシェが薄汚れた室内のあちこち欠けた石の円卓に腰掛けている疲れた顔の老人達に善を紹介する。先程、闇の中で彼の様子を伺っていた者たちだろう。

 善は冷静に周囲を観察する。希望に満ち、晴れやかな表情をしたオーシェとは異なり、老人たちは皆渋い顔で警戒心丸出しと言った様子で善を見る。

 老人たちは疑念を抱きつつも、表向きオーシェの言葉には逆らう事は出来ない、だが、彼をオーシェの様に救い主とは信じていないと言った様子だ。


『まあ……ここまでは想定通りだな』


 予想はしていたが、ここまで厳しいとは思わなかった。それが善の正直な感想だった。


『そもそも、救い主という大層な呼び名でありながら、筋骨隆々であったり超美形であったり、羽根が生えてたり頭の上に電灯が乗ってたりしない時点で非常にやりにくいんだよなあ、俺』


 愚痴っても何も始まらないとは思いつつも、どうしてもこれからの事を考えると、苦難の道が続いていく以外に思い当たらない。

 異世界にやってきた彼に用意されたのは、チート能力とか特別なスキルとかイケメン化とかではなく、女の子の能力を微妙に吸収するという某岩男とかアダルティなゲームに出てきそうな割に使い難い能力。正直この国と同じ位に詰んでそう。


 早急に何か目に見える成果を用意しなければならない。そう考えた善が今用意する事の出来るであろう成果、それを彼は短時間で考えついていた。


「ここから歩み出す、ってわけか」

「? 何か仰られましたか、善様」不安そうな顔で、オーシェが善を見た。

「いや。独り言。――皆さん、お集まり頂き感謝します」善はオーシェに笑い返すと、老人たちに向き直り、ゆっくりと話し始めた。

『ゆっくりと、ゆっくりと。余裕と威厳を感じさせるような力強い声で』

 善はある人物の話す調子を思い返しつつ、喋り始めた。


「幾度となく繰り返されるスカーレア帝国による帝都攻撃。これは、ある種の生物兵器による攻撃であるという事が明らかとなっています。私は、この攻撃を直ちに止めさせる手段を持っています」


 善が発した言葉の後、老人たちはざわつき始める。当たり前だろう。彼らは繰り返されるこの攻撃により、日々の生活を不安と共に過ごしているのだから。

 老人達の顔色が、更に疑念に満ちた物となる。だが、これでいい。善は内心満足しながら、話を続ける。


「さて、そろそろ次の攻撃がある頃でしょう」


 善の言葉通りだった。王宮が激しく揺れ、土埃が舞い散る。怯えや恐れ、そしてそれを隠すように振る舞う者の怒り。そう言った物が入り混じったざわめきがホールの中を満たす。

 だが、そのざわめきをかき消さんばかりに、ホールに善の声が響く。


「この様に怯えるのが嫌であれば、私に力をお貸し頂きたい!」


 老人たちが善を見る目が変わった。全員に共通して怯えの色が浮かんでいたが、今や先程までの疑いの目ではなく、縋る者の目となっていた。


「善、と言ったな、お前は本当にこの攻撃を止める事が出来ると言うのか?」


 老人たちの中でも、最高齢に近い年頃の老人が弱々しく善に話しかける。


「ええ、可能です。私には何が原因で攻撃されているのか、というのが分かっていますから」

「……その言葉に嘘はないな?」

「その為にいくらかの手勢が必要です。それがあれば、明日からこうして怯える必要は無くなるという事をお約束します」

「分かった。儂の屋敷の私兵を向かわせる。好きに使ってくれ」

「ありがとうございます」


「善様」

 会議の後、ずっと善の隣で黙りこくっていたオーシェが、不安そうな顔で彼に話しかける。

「先程話された内容だけで、本当にこの攻撃を止める事が出来るのですか?」


 この会議に望む前、善はオーシェから攻撃に関する話を聞き出し、何人かの使用人も捕まえて詳しい情報を手に入れていた。

 攻撃は朝、昼、夕方、深夜の4回に分けて行われる。攻撃方法は、空トカゲと呼ばれる竜に似た生物に爆弾を括り付け、何らかの方法で地上に近づいた時に爆発させている。

 善は使用人達から聞き出した話で違和感を覚えた部分があった。市街地に被害が出ていないのだ。全ての攻撃は王宮の敷地内に着弾している。

 つまり、何らかの手段によって攻撃を誘導している。その誘導方法が内通者によるものか、それとも魔術的手段によるものか。そのどちらかであろう。そう善は考えたのだ。


「ああ、大丈夫だ。さっきのタイミングで攻撃があった事でほぼ確信したよ」

「と、言いますと?」

「犯人は王宮内の使用人で、その証拠に彼らの自由時間に攻撃が行われてる。今も夕食後の休憩時間だろう?」


 その指摘を受け、オーシェは頷く。


「……確かに。もっと特殊な方法で誘導されているのだと思っていました」

「そうならもっと精度が高いだろ。王宮の……なんだっけ、病に臥せってるっていう君の父さんが居る区画」

「中央の……黒鉄の塔ですね。あそこは元々堅牢に作られている為、攻撃を狙っても意味がないと判断したのだと思っていました」


 そう言って、オーシェは窓から黒鉄の塔を見つめる。


「失礼します」

 一人の女性が部屋の中へと足を踏み入れた。20歳程だろうか。赤い髪をポニーテールにし、強気そうな顔とは裏腹に清潔そうな襟付きのシャツの上に皮の鎧を身に着けた小綺麗な格好をしている。彼女こそ、先程の老人が寄越す事を約束してくれた私兵だろう。


「アルバマス卿の指示により参りました。私、セリア・テキトゥスと申します」


 セリアは頭を下げると、早速要件を話し始める。


「そこに居られる方が伝承にある救いチョーズン・ワンで、ここ数週間程続いている王宮への攻撃を止める事ができるとか。外に部下を待機させています。ご指示を」

「部下……? 君が指揮官というのか?」


 善のその言葉を聞き、セリアは少し顔を歪める。


「ええ。何か問題がありますか?」

「いや、大丈夫だ。ちょっと驚いただけでね」

「私も子供の頃から散々聞かされてきた救い主様が、私よりも年下の少年だという事に非常に驚いています。お相子ですね」少し皮肉げにセリアは言った。

「まあいい、部下の所に案内してくれ。ちょっと込み入った指示になるから」

「わかりました」


 セリアを先頭に、善とオーシェは廊下へと歩み出ていく。


「善様?」オーシェは震えている善に気が付き、不安そうに声を掛けた。

「大丈夫だ、大丈夫」自分に言い聞かせるように、善は呟いた

 無言のまま、オーシェは善の手を握り締めた。




 翌朝。

 昨日と同じホール、昨日と同じように円卓に腰掛ける老人たち。その目線は、一人の男に注がれている。

 手を縄で縛り付けられ、セリアに腕を抑えられながら床に座らせられている。


「ヘムソン君?」老人たちの一人が男に声を掛ける。だが、ヘムソンは俯いたまま、動こうとしない。

 ヘムソン・ディレッソン。王宮内の財務官の副官の一人であり、その中でも古株の一人で、老人たちの多くと面識が深い人物であった。


「彼こそが、王宮攻撃の首謀者であり、攻撃の誘導を行っていた人物でした」


 善が冷酷に告げる。ヘムソンの方を見ないようにしながら。

 老人たちの間に再びざわめきが起きる。彼らの顔に浮かぶのは、困惑の色。


「セリアさん、よろしくお願いします」

「はっ。昨晩深夜に部下達に王宮庭園の背の高い木周辺で張り込みを行わせていた所、この男が奇妙なバスケットを持ちながら歩いて来た所を捕らえ、問いただした所、真相を白状しました。……おい!」


 セリアはヘムソンの腕を強く引くと、彼は渋々話し始める。


「確かに、あっしがあの空トカゲを誘導していやしたよ」


 ヘムソンは開き直った様子で老人たち、その中でもアルバマスを睨みつけながら強気な声色で話し始める。


「何故、そんな事をしたのだね」

「へ、へ、へ、あんたら"王宮の賢人"達が分からない訳が無いでしょうに。この国に見切りを付けたんでさ。うちの家内は流行病で逝っちまいましたし、息子夫婦は長らく続く戦争に駆り出されて死んじまった。こんな穴蔵で国の事を考えてるフリをしてるあんたらのせいでな!」

「もういい、連れて行け!」


 セリアの手により、ヘムソンは部屋の外へと連れ出される。おそらく、衛兵に引き渡される事になるだろう。

 セリア達が去った後、ホールの中は沈黙が支配する。老人たち――いや、"王宮の賢人"と呼ばれる、ゼイミア帝国の貴族達の中でも良識派に属する元老院議員達は、複雑そうな顔をしながら、互いの顔を見つめていた。


「……皆さん、これが今回の事件の顛末です」

「ご苦労、だった。卯木島善と言ったな。疑ってすまなかった。この短時間で容易に問題を解決するとは、正に貴方こそ、救い主の再来に違いない」


 アルバマスは折れ曲がった腰を更に深く折り曲げ、善に深々と頭を下げる。彼は迷わずアルバマスの手を取った。


「私は、できれば彼を助けてやりたい。ですが彼を救うだけでは、同じことが繰り返されるでしょう。彼のような悲劇を繰り返さない為にも、私に力をお貸し頂きたい」

「……喜んで」


 善は彼のために用意された寝室の、高級なベッドの上で気持ちよさそうに寝転がっていた。


「すっげえフカフカ……」


 来客用の物と思われるこの天蓋付きのベッドは装飾からして現代の彼の部屋のベッドよりも数段高級な物であり、純白のシーツは彼の使っていた布団カバーの数倍滑らかな物だった。このベッドなら、朝までどころか夕方までゆっくりと眠る事ができそうだ。

 そんな彼のくつろぎタイムは、残念ながら中断された。部屋の呼び鈴が鳴った後、一人の少女が姿を現す。オーシェだった。


 先程までの鎧姿をは異なり、鎧姿の時には分からなかった豊かな胸の膨らみが垣間見えるドレス姿で姿を見せた彼女は、年相応の可愛らしい少女に見えた。


『俺、こんな子にあんな事を言われたのか』

 昨日の粘膜で接触云々の発言を思い出し、今度は善が赤面する番となった。

 そんな彼の様子を知らずにオーシェは話し始める。


「先程はお疲れ様でした。昨日は眠らず張り込みをしてらっしゃったので、お疲れになったでしょう」


 そう、彼はセリア達と一緒にヘムソンを捕らえるため、外で張り込みを行った後にヘムソンの尋問を行い、その足で元老院議員達に説明を行った。


「そうだなあ、もう疲れて足が棒みたい、って言うと陳腐な表現だけどな」

「彼ら、元老院議員達はこれで随分と協力的になりましたし、これで明日からの行動がグッと楽になりました。本当にありがとうございます」

「これから国取りしなきゃならないんだろ? この程度、簡単に片付けないと」

「とても頼もしいです。さすが、救い主様。そして、私の信じた方です」


 そう言った後、オーシェは、善の唇と、彼女の唇をほんの少しだけ合わせ、周囲の人間にとても見せられないような驚きと、喜びと、恥ずかしさの入り混じった表情をしながら跳ねるように彼の寝室を後にした。


「ゆっくり、おやすみ下さい」

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