表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/31

第7話 -始まりの終わり- (01)

 卯木島善と同じく、この世界、カルヴァニスタ大陸に召喚された人々は無数に存在した。彼と同じ高校、その同時刻にその高校に存在していた約八百人の人間だ。


 彼らは『扉』と呼ばれるポータルにより、強制的にカルヴァニスタ大陸へと召喚された。

 紅葉坂高校、その生徒及び教師約八百人の顛末は様々な物だった。


 随分な人数が『扉』を越えられず、肉体と精神を破壊された。

 ある者は、辿り着いた先が荒涼とした荒野で、そのまま彷徨い歩き、力尽きた。

 ある者は、現れた先が悪魔崇拝者の組織であり、そのまま贄とされた。

 ある者は、領民の反乱に巻き込まれ、彼らの長となった。

 また、ある者はその姿と力から巫女として崇められ、ある人物を探す事となった。


 数日生き延びる事が出来たのは、半数程度。

 彼らが死したのは卯木島善が召喚され、それに巻き込まれた結果か? 理由の一つではある。だが、それが全てではない。

 オーシェと同じように、救世主の到来を願う者は、この世界に余りにも多かった。

 その命を掛けた願いが、真摯なまでの祈りが、そして怨嗟と血が重なり合い、オーシェの使ったアーティファクト、帝国の秘宝とも呼ばれた"紅の口づけ"によって媒介され、そして介入され、信じられない程巨大なポータルを卯木島善の存在していた世界へと作り上げ、彼らは招かれた。


 何故人々は救世主の到来を祈ったのか?


 それは、この大陸に古くから伝わる伝承、そして前の救世主の到来を目にしている僅かな者達によって語り継がれてきたからだ。それは幾多の国が滅び、文明が滅び、宗教がその姿を消し去りながらも、必ず受け継がれてきた事実だったからだ。


 世界を覆い尽くす戦、この世に深く傷跡を残すであろう災い、目も当てられぬ苦しみにより人々を根絶する疫病、姿無き汚れた神、それらが世界に現れる時、黒髪の少年少女が現れ、戦を、災いを、疫病を、そして汚れた神を世から拭い去り、新たな世界を作るであろうと。


 しかし、"前"を伝える者達は救われた者たちだけでない。救われなかった者たち、そして負けた者たちもまた、僅かばかりが生き延びて怨嗟を今に伝えている。


 そして、予言の最後が達成されようとしている今、彼は現れた。全てが始まった。




 善達一行は、無言のまま夜道を歩いていた。彼らが見た物を考えればおかしくは無いだろう。

 ユーライナによって、"鼠の頭"団の団長の男の死体を見つけ出す事が出来たが、その亡骸は既に腐敗し、酷い有様となっていた。


「善様」


 一行の中でも、特に落ち込んでいるのはやはり善自身だった。


「善様!」

「あ、ああ」


 数度、オーシェに身体を揺すられてようやく反応を返した彼の表情は既に疲れ切った様子で、精根尽き果てたという言葉が良く似合う物となっている。


「どうしたのですか、心ここに在らず、といった様子ですけど」

「さっきのアレだ。どうやらあの魔物は俺の学校、その生徒だったみたいでな」

「人間が、魔物になったというのですか? そんな事が……」


 あり得ない、とは彼女は言えなかった。吸血鬼ヴァンパイア人狼ヴェアヴォルフと言う人から変容する存在を、そして魔族オーファンと言った人へと変容する存在を彼女は知っていたからだ。

 そして、彼女は考えてしまう。


「これは私の開いた、『扉』による物、ですね」


 彼女の手は震える。自分自身のやった事の結果を突きつけられたように思えたからだ。

 普通に考えればそうだろう。だが、善には腑に落ちない部分が有りすぎた。


「あの魔物が誰なのか、までは分からない。だけど校章を制服に真面目に身に着けてるってことはどこのクラスの連中かは大体想像がつく。進学クラスの連中だ」

「シンガク……クラス……?」

「俺の居た教室から一番離れた場所に居た連中と思って貰えばいい。そいつらがなんでここに居る? あの校舎の人間、全てを転移させたとしか思えない」

「わ、私が、そんな事を……」


 オーシェは更に衝撃を受ける。どれだけの人数を傷つけたのか、それを考えてしまったからだ。

 覚悟はしていた。自分の行く道が多くの人を傷つける物だという事を。だが、彼が口にしたのは、何の関係もない世界の人間だ。

 だが、善はそれを明確に否定した。


「違う。あの魔法陣、それにアーティファクト一個でそんな事が出来るか? ……絶対に無理だ」


 彼は既に、別の可能性を考えていた。


「どれだけの魔力を注ぎ込めば、建物の人間を丸ごと召喚出来るんだ? 俺を召喚する時に使ったアーティファクト、それはそれだけの魔力を持っていたのか?」


 彼の前回の召喚の際には、王国の中でも最大の魔力を持つ者達十数人にアーティファクトで魔力をブーストするよってようやくクラス一帯を丸ごと召喚する事が出来た。それによって魔術師達の多数が亡くなったと聞いていた。

 だが、今回の彼女が行った召喚というのは、聞いた所ではアーティファクトを用いただけの物であり、しかも簡素に描かれただけの魔法陣。そんな事でそれだけの魔力を供給する事が出来るのだろうか、と。

 彼は魔法に関しては詳しくはない。だが、次元術や異世界の物を召喚する最高クラスの魔法において、それを利用する為に莫大な魔力が必要である、という事は知っている。


「俺を召喚する時に使ったアーティファクト、その詳細を教えて欲しい」

「"紅の口づけ"と呼ばれる物で、ゼイミア帝国に代々伝わっていたアーティファクトです。数千年前に死した女神の唇が触れた宝石、と呼ばれて居ました。既に古びて動かなくなっていた物では有りましたが、『門』を作る程度の魔力は有していましたから」


 女神。その単語が出た途端に善の顔色が余計悪くなる。そして大きく溜息を付く。


「とりあえず、そのアーティファクトに関する事を調べたい。しかし、嫌な思い出しか無いんだよな、女神とかに関しては。前も碌でもない話に沢山巻き込まれた」

「分かりました。当然ですが、お手伝いさせて頂きます。ただ、一つだけ聞きたい事が」

「なんだ?」

「"前"とはなんですか?」


 善は、ここでオーシェに対して彼の"前歴"を話していない事を思い出した。このタイミングで、記憶を探らなければならない。それが彼の心を苛む。

 だが、伝えなければならなかった。


「俺は、この世界とは別の世界に行った事がある。そして、戦いの末にその世界を救った。本当に色々あった。辛いことも、楽しいことも」


 非常に簡潔な答え。これ以上は、結構な時間が掛かると判断した故だった。

 オーシェはその言葉を噛みしめるように聞くと、一言だけ言った。


「善様、本当に申し訳ございません。私は知らずに、再び貴方に剣を取らせてしまった……」

「なんで、謝るんだよ。過ぎた事だし、どっちみちあの世界に俺の居場所は無かった。だから未練なんて無いし、良いんだ」


 何がいいのか。彼にも分からなかった。

 だけど、今のところあの世界への未練は残っていないというのは事実だった。食事とアニメ以外は。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ