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第6話 -戦火の中へ- (01)

 荒れた街路を行く、善達。どこまでも続くように見える街路は石畳となっており、馬車を始めとする車両の行き来が楽な様になっている。

 だが、今は所々が剥がれ落ち、草が隙間から顔を出している。手入れが行われていないのが一目で分かる程だ。首都の近くでこの有様なのだから、その他の場所でどうなっているのかは容易に想像が付く。

 だが、これ以上に印象的なのは、通りの脇に乗り捨てられ、火を付けられた馬車の残骸の数々だ。


「ひどい有様だな、こんなデカい馬車まで襲われるのか」


 何頭で引くのか分からない程に巨大な馬車が、街道の端で黒焦げになったまま放置されている。まだ僅かばかり熱が残っている事から、つい最近襲われ、燃やされたばかりの物である事が分かる。


「最近は特に被害が急増しています。これから収穫の時期で、更に交通量が増える事が予想されるというのに、我々は何も手を打てていない」


 ディーナはこの光景を見て歯噛みする。責任感の強い彼女としては、やはり自分たちの仕事の結果であるこの光景を見るのは辛いのだろう。


「それも今日まで、だろ?」

「ええ、そうしたい物ですね」


 ディーナも、善も口にはしなかったが、たとえ"鼠の頭"団を排除したとしても、首都近辺の安全が確保された訳では無い。大小様々な賊徒が存在している。"鼠の頭"団はその内の最大の物の一つである、というだけだ。

 だが、それを排除する事こそが、残りの賊徒、そして市民への強力なメッセージとなる。救い主、そして第六皇女はこの状況を決して座して見ている事はしないという。


「婆さん、本当にこの先の廃村が拠点の一つなのか?」


 一団の前衛を努めていたカーライルが下がってきて、億劫そうに歩いていたオルケへと問いかける。

 彼の疑問は最もな物だ。廃村とは言え街道の直ぐ側、そんな場所に悠々と拠点を構える物なのだろうか? 善すらもそう思って居たのだ。


「ええ、間違いありませんよ。その証拠に、ほら」


 オルケは道の脇を指し示す。そこには草が結び付けられ、簡単なトラップのようになっていた。だが、これでは足を引っ掛ける程度の物にしかならないだろう。


「これは?」

「これを理解する相手に対するメッセージですよ。途中で幾つもこれに類するような物が存在していましたからねえ。先程の馬車の残骸、そこに赤い三角が描かれていたでしょう? ああいう物、ですよ」


 カーライルだけでなく、善も納得したように頷く。そういうメッセージが用意されているという事は、この近辺に少なからず敵が存在しているという事だ。

 一行は息を飲む。廃村の影が見えてきたからだ。


「ここからは手筈通り二手に分ける。カーライル、セリアは隊を率いて山側に向かえ。俺たちが街道側から攻撃し、敵が後退した時に敵を残さないように」

「善、"鼠の頭"団の本体と戦うなら、何人か逃した方が良いんじゃない?」


 セリアの言葉にも一理はあった。実際に彼も一度検討した事がある。だが、


「それはまだ後で良い。最初からそれをやると、敵の動きが予想以上に早ければこっちが後手に回る事になるからな。残る拠点を捨てさせて全力で迎撃するとか、拠点に引き篭もるとか。中盤位から行う事になるが、まずは敵に動きを気取られない内に各個撃破していく」

「了解、じゃあアタシらは後方に回るよ」


 そう言って移動していく彼女達十数人の姿を見送る。善達本体の主力は、先程のアンダーゲイトでの戦いに参加しなかった補充兵とディーナ達警邏隊、そしてユーライナだ。


「さて、少し待つか」


 セリア達が配置に付くまで、動く事は出来ない。あちら側の準備が終われば合図を打ち上げてくる筈だ。それまでは待ちの一手である。

 そして、善は廃村を眺める。煉瓦造りの五つの家は中央の広場らしき場所を取り囲むように円形に建っている。村と外を区切るのは低い木製の柵一つで、外には倉庫らしき建物が一つ。善が立っている場所はかつて畑だったらしく少し柔らかな土をしているが、今はすっかり荒れ果て、草が好き勝手に伸びている。だが、こうやって荒れているからこそ善達は姿を隠せている。


「少し周囲を見て回りました」


 姿を消していたユーライナが善の元へとやって来る。彼女には偵察を指示していた。村の内部の防備の状況、そして村の中の人員の確認だ。


「村の内部には十人程、外の建物、倉庫が見張り施設と思われますが、そこに三人詰めています。ですが、見張り以外は完全に油断しきっている様子ですね」

「罠は?」

「何も。正直、私一人で十分かと」


 ユーライナは事も無げに言った。それだけの自身があるのだろう。そして、先程の戦いぶりからすれば、それも虚勢では無いという事を善は知っている。


「いや、いいよ。その代わり見張りを確実に始末してくれ。後は俺たちがやる」

「……はい」

「私めには、何かありますかえ?」


 オルケがよたよたと善の元へと歩いてくる。ユーライナが驚く程の存在だ。この容姿や歳を考えても、彼女もまた尋常ではないのだろう。

 だが、今のところは彼女の手を煩わせる必要もないだろう。そう考えた善は、手を横に振って答える。


「婆さんは後方で待機。一応後方の警戒をしていてくれ。この後にも十分仕事はあるからな」

「はいはい」


 次に声を掛けてきたのは、ディーナだった。


「私達は?」

「見張りをやったら俺たちと一緒に村の中へなだれ込む。後は戦うだけだ。随分と油断しきってるようだから、そんなに手間は掛からないだろう」

「分かった」


 その会話が終わる頃、山の方で何か点滅する光があった。セリア達の合図だ。


「よし、作戦開始。ユーライナ、よろしく頼んだ」

「……は」


 彼女の姿はたちまち消える。


「総員、前進! 駆け足で行くぞ!」


 そして、善達は鬨の声を上げながら駆け出していく。


「神の御下へ!」

「帝国に血を捧げよ!」


 木の柵を踏み越え、一つ目の家へと飛び込んだ。

 そこで見たのは、既に事切れた、散々弄ばれたと思われる男女の死体と、目を擦りながら立ち上がる、髭面の男たちだった。

 善は剣を抜き、彼らの中へと飛び込んでいく。そして、一人に剣を突き立てた。


「オグッ!」


 肺から絞り出すような断末魔を間近で聞くと、勢い良く剣を引き抜く。そして返す刀でもう一人の首へと剣を振る。賊は反応すら出来ずに、首を押さえながら倒れ込む。そしてもう一人は窓から外へと勢い良く逃げ出した。

 善がそれを追って外へ出ると、既に大勢は決していた。


 警邏隊の槍で突き刺される男、ディーナの持つメイスで顔を砕かれた女の賊徒、村のあちこちでは一方的な戦闘が繰り広げられていた。

 そして、二人程が無抵抗の意思を示し、手を上げて傭兵に剣を向けられている。

 山の方からも騒がしい声が聞こえる。そちら側に逃げ込んだ賊徒が罠に引っかかったのだろう。

 

 善は一息付いて、辺りを見回す。あっさりと戦いは終わった。

 損害はゼロ。捕虜らしき存在は三人。彼らは傭兵と警邏隊に縛られ、善の前へと引きずり出される。


「こいつら、どうしますか?」


 兵士達は困り顔で善と、彼の後ろにいつの間にか立っていたオーシェへと問いかける。


「そうだったな、当然捕虜が出る。全く考慮してなかった」


 見れば、髭面の男達が死の恐怖に怯え、縋るような目で善を見ている。


「殺しましょう、生かしておく必要がない。こいつらが今までどれだけの人々を苦しめてきたのか。それ考えれば、慈悲など要らない」


 ディーナが言った。返り血が乾かぬままにやって来た彼女のその目は冷徹その物だった。

 善は、彼女の目と、男達の目とを見比べる。そして、最後に、オーシェを見る。彼女はどんな判断を下そうが、それに従う。無言のままにそう言っていた。

 そして、大きく息を吐くと善は言った。


「警邏隊の牢獄にでもブチ込んでおいてくれ」


 彼の判断は殺さない、だった。


「どうしてですか! こいつらが今まで何をやってきたか、知らない訳では無いでしょうに!」


 食い下がってくるディーナに対して、オーシェが歩み出て目で制する。気圧されたディーナは一歩下がるが、善を睨みつける事を止めはしない。

 彼女の怒りも最もな事だった。彼らは今まで好き放題やってきたのだ。奪い、殺し、犯し、燃やし。


「あんたの怒りは最もだ。だがな、俺たちとこいつらで違う物がある。俺たちは傭兵の集まりだが、頭はオーシェ、皇女だ。つまりゼイミア帝国その物を背負ってる。それに、規律という物があるだろうが」


 どちらかと言うと、オーシェ、そして救い主というイメージを傷つけたくないという考えの方が強かったが、あくまで現代人である彼にとっては、降伏してきた敵を撫で斬りにするというのは最初から頭に無かった。

 ディーナは不満そうにしていたが、なんとか引き下がった。


「ご苦労様です」


 オーシェが善に声を掛けると同時に、彼女は黙って彼の側、その眼前へと近寄る。

 彼女の吐息が掛かるほどに。


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