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第4話 -血によって清められた- (04)

「仲間を先に逃したか。……しかし、二人で我々を止められると思っているとはな。随分と舐められたものだ」


 デュランスは呟いたが、無理に追撃をさせることは無い。

 予め指示されていたのか、議会兵達は無理にオーシェ達を追う事はせず、善とユーライナへと向き直る。この諦めの速さから考えれば、街中に兵士達を潜ませているだろうという善の予想はおそらく当たっているのだろう。


「頼んだぞ、オーシェ、セリア」善は呟く。予めオーシェとカーライルには手筈を伝え、彼もまた逃走ルートのあちこちには人員を潜ませてはいたが、ここまで手筈を整えているとなるとやはり心配になる。


「善、余計なことを考えるな」

「ああ、分かってる。そんな余裕はないな」二人は改めて評議会兵達と向き合う。


 兵士達は、二人の発する気配、特にユーライナの異様な雰囲気にすでに飲み込まれていた。彼らと彼女とでは、力量が天と地ほどの差がある。


「あまり無理をするな、どちらも手練だ。お前らが束になっても敵う面子じゃない」


 完全に気圧されている部下達を励ますようにデュランスは指示を出す。しかし、彼の指示の本当の意味は鼓舞ではなく、相手にならないのなら消極的に動かせる事によって、より長い時間敵を拘束させる事だ。その意図を部下達が理解しているか居ないかというのはまた別の話なのだが。

 すでに初手の奇襲で随分と数を減らしているとはいえ、全員がそれなりの腕前である事は統制の取れた動きで分かる。その彼らが手を出せないのだ。苛立ちが募り始めている。


 それを見て善は言った。


「ユーライナ、奴らを頼む。俺はこいつを倒す」

「逆でなくてよろしいのですか?」

「それだと逃した時に土地勘の無い俺だと対処が出来ない。頼む」

「分かりました」


 短い会話の後、彼らは二手に分かれた。善はデュランスへ、ユーライナはその背後に控えていた兵士達の方へ。既に台車の車輪の音は遠くに消え、彼らが第一関門はなんとか切り抜けた事を示している。


「俺の相手はシスターじゃなくてお前か。話は聞いてるぞ、救い主様」

 デュランスはそう言って、腰に下げていたフラスクのキャップを回し、軽く呷った。喉をヒリつかせる液体が彼の身体を芯から温めてくれる。

 彼はこうして再び槍を手に取るようになった今でも未だに酒から抜け出せずに居た。


「ああ、俺が相手だ。セリアとの知り合いって話だよな、あんた」

「……ああ、セリアとは確かに古い仲だ。まさかここであいつに会うとは思わなかったよ」

「あの人に免じて、ここは引いてくれないか?」

「無理だね、仕事なんでな」


 正に取り付く島も無い、と言った様子だった。会話の最中もデュランスは酒を飲み続ける。

 ロクでもない仕事の時には彼の酒の量は格段に増える。特に今のような、子供が絡む仕事では。


「一つ聞きたい。なんで元神殿騎士のあんたが誘拐犯みたいなつまらない事をしようとしてる?」

「仕事だからだよ。それ以上でもそれ以下でもない。俺の今の仕事がこれなんだ。昔の事なんざ何一つとして関係ねえ」侮蔑するような口ぶりだった。

「救い主様よ、さっさと始めようぜ、もうあのシスターが派手に暴れまわってる。早くしないと俺の部下が一人残らず不具者にされちまう。お前さんを倒して助けに行かなきゃならねえ」


 彼の言葉通り、ユーライナは既に戦闘を初めていた。


「ああ、そうだな!」


 二人は互いに剣と槍を構え、向かい合い、距離を保ちつつゆっくりと横へと動き始める。

 デュランスは驚いていた。年若い善の構えには隙が見当たらないからだ。既に歴戦の猛者の風格すらある。彼は改めて気を引き締め直し、何事かを呟く。


 すると、彼の全面に奇妙な文字が映し出されると同時に彼の身体に穏やかな光が降り注ぐ。

 デュランスが何をしたのか、それは善には分からなかったが、今のエフェクトと彼の来歴を考えればおそらく魔法か、それに類する物だろうと当たりをつけた。そして恐らく攻撃系ではなく、詠唱者本人の能力を強化する形式の物だ。


「やっぱ魔法欲しいな、魔術師探すか」


 だが、そのためには目の前のデュランスを倒さねばならない。

「行くぞ!」自分を奮いたたせる為に叫びながら、善はデュランスへと向かっていく。デュランスは彼の突進を正面からの振り下ろしで答えた。

 振り下ろしをサイドステップで回避し、デュランスが再び槍を振るう前に一気に距離を詰めて剣を振り下ろす。勝負は一瞬で付いたかに見えた。が、


「!?」


 剣の刃はデュランスに突き刺さる事は無かった。彼の肌の前で奇妙な壁のような物に阻まれ、振り下ろした剣は弾き返される。

 予想外の展開に大きな隙が出来、そこへハルバードの横薙ぎが襲いかかる。その攻撃を身を屈めて避けると距離を取り、体制を立て直す。


「善、奴は魔法で装甲を貼っている。継続して有効打を与え続ければ装甲を剥がす事が出来る、打ち続けろ!」ユーライナの声が遠くから聞こえる。


 戦闘開始前にデュランスが詠唱した物は『聖なる御楯セイクリッド・イージス』と呼ばれる防護呪文で、神殿騎士を始めとする教会兵達が多く使用する呪文である。魔力を身体の外部に見えない壁として変換するシンプルな呪文であり、この系統の呪文の中でもシンプルかつ効果的な為に教会外にも使い手が多い。

 しかし、善はそれを知らなかった。


「HPの他に装甲値持ちかよ、クソ」善は眼前の敵の予想外の硬さに舌打ちを一つする。

「どうした? 逃げたくなったのなら、構わんぞ」デュランスは笑う。

「まさか。そんな便利な魔法があるなら後で誰かに教えて貰おうと思ってただけだ」


 善は剣を構え直し、デュランスへと向かっていく。大振りの槍を躱し、剣による細かい攻撃を積み重ねていく。幾度となく攻撃は弾かれるが構わない。槍の長大なリーチに対してひたすら攻め、懐に潜り込む事でそのリーチを敵の枷とさせる。

 石付きによる反撃や小振りによって善をなんとか引き離そうとするが、攻撃は一向に成功しない。だが、善の攻撃もまた弾かれ続ける。

 その様子を歯噛みしながら見つめているのはユーライナだ。どの段階で自分が介入すべきか。そのタイミングが掴めずに居た。


「余所見してて良いのかよ!」

「お、おい、止めろ!」


 隙を見つけたと考える兵士が静止を振り切って突進し、斬りかかる。だがユーライナはそれを避けようともしない。ため息を一つ吐き、退屈そうに彼に背を向けただけだ。

 ユーライナの剣が兵士の掌を貫き、抜き去る際に手を切り裂く。兵士は手を抑えながら倒れ込み、また一人戦闘不能者が生まれた。


「……弱い」


 敵は彼女が本気を出せば、直ぐ様殲滅出来る程度の数と質だ。だが、いまいち攻めあぐねていたのは極力殺すなという善の指示による物だ。

 彼女はまず最初に小型のクロスボウを持つ兵士を無力化した。その次に、リーチの長い得物を持っている兵士を無力化した。残っているのは五、六人の兵士だけだ。彼らも遠巻きにユーライナを包囲するだけで、一向に手を出そうとはしない。


 彼女の持つ剣、最長数メートルもの伸縮が行える魔導金属によって紙程度の薄さに精製されたその武器は普通の人間ではまともに使うことも出来ない得物だ、だが彼女は長年の鍛錬の結果として手足の様に扱うことが出来る。

 今の様に敵の掌だけを貫く事や、重装甲の相手であれば鎧の隙間へと突き刺す事など、使い方は多種多様だ。


 そして、ユーライナはまた、軽やかにステップを踏みながら包囲の一人、胸甲に大きな盾を持つ兵士の脇腹に剣を突き刺した。だが、それでも戦意を失わないと見て、次は盾を持っていた左肩へと突き刺そうとする。


「クソッ!」


 兵士は痛みに耐えながら、盾をユーライナの剣が飛来する方向へと振りかざし、幾度か弾き返す。


「今だ!」


 盾持ちに手間取っていると見た兵士達は、ユーライナへの攻撃にトライする。彼女の背後、左右からの四方からの攻撃、これで止めを刺すつもりだった。

 だが、攻撃を察知した彼女は剣のリーチを更に増し、正面の盾持ちに攻撃をしながらも返す刀でそのまず左の兵士を無力化し、次には背後、そして最後には右側の兵の右腕を切り裂いた。

 仲間が次々にやられていく姿を見て、盾持ちの兵は既に戦意を失っていた。盾を捨て、剣も捨て、そのまま身を翻して逃げていく。それで決着だった。


 そして、善とデュランスとの対決も遂に決着が付こうとしていた。

 デュランスが振り下ろしたハルバードの刃先、斧の刃の部分を善が初めて躱す事が出来ずに剣で防ぐ。その質量、速度共に彼の想像を遥かに越えた物であった。

 デュランスは勝利を確信した。これまで一度も与える事の出来なかった痛打を、善に与えたと思ったからだ。


 だが、それは、誤りだった。


「……?」僅かな痛みが彼の脇腹に走る。


 遂に彼の魔力が尽き、防御しきれなくなった一撃が彼に突き刺さったのだ。

 ハルバードを持つ手に力を入れようとした途端に、彼の手から槍は叩き落され、乾いた音を立てる。長大な槍は善によって彼の手の届かぬところへと蹴り飛ばされる。

 脇腹に突き刺さっていたのは柄に装飾が施された短剣だった。投じたの善。彼は魔法も何も使えない、そう考えていたデュランスの油断が、搦手による攻撃を許した。


「クソ、完全にしてやられた、な」


 デュランスは短剣を引き抜き、ぼやく。完全なる敗北だった。

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