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プロローグ -1st Step-

 冷たい地下室の上で、底冷えのするような寒さによって、彼は目を覚ました。

 随分と長いこと寝ていたのだろう。全身が痛む。


「痛い、寒い、暗い。なんだ、これ」


 辺りを見回すが、こんな中世の牢獄のような場所に見覚えがある筈が無い。彼の記憶にあるのは、いつものように退屈な授業と夢の中を行ったり来たりしていた事だけだ。

 彼、卯木島善うぎしまぜんは、ただの高校生である筈だった。こんな場所に入れられる覚えなど無い。それに、遠くから人の気配がするものの、その姿が全く見えないというのも気に掛かる。


「あのー!」


 善はとりあえず声を掛けてみる事にした。良くも悪くも何らかの反応が帰ってくるだろうと信じての行動だ。

 だが、彼の問いかけには一向に返事が返されない。


「すいません、誰か居ないんですか!」


 叫ぶように問いかけるが、やはりなんの反応も帰ってこない。

 善は意を決して、人の気配のする方向へと歩いて行こうとする。しかし、そこでまた奇妙な変化が起きた。人がざわめき、気配が彼を避けるように遠くへと消えていったのだ。

 善は首を傾げる。


「まるで怯えられてるみたいじゃないか」


 人の気配を無視して、出口を探して歩き出そうとした時だった。突然、彼の目の前に、白い甲冑と顔を覆う兜に身を包んだ中世の騎士のような格好をした人物が現れた。

 善は思わずたじろぎ、数歩後ろへと飛ぶようにして下がる。


 だが、騎士は立て膝を付くとそのまま善に対して深々と頭を下げ、敵意が無いことを示す。


「そこのお方、怯えないで頂きたい」


 騎士から発せられた声は、かなりくぐもってはいるがガッシリとした甲冑と威圧感のある刺々しい兜からは想像も出来ない程に柔らかい物だった。

 だが、善は怯えてなど居なかった。むしろ、ドラマやアニメ、小説の中でしか見れないような光景が、自らの目の前で繰り広げられているということに、驚きはあれど怯えなど示す筈もない。


 目を凝らせば、彼の目の前で頭を下げている騎士の甲冑のあちこちに傷が入り、兜の一部は欠けている事がわかる。これは、目の前の人物が儀礼的に着用しているのではなく、実際に使用しているに違いない。


 善が近寄り、甲冑をじっくりと観察する。じっくりと見れば見るほど、精巧に作られてはいるが、あちこちに傷と補修の跡が見られる。


「……何か?」

「いや、随分良く出来た甲冑だな、と思って」


 騎士は、少し間の抜けたような善の返事をまともに取り合うことはしなかった。顔を上げ、善をしっかりと見据えると、語り始める。


「貴方様の置かれた状況について、順序立てて説明させて頂きたい。だから、こちらへ」


 騎士は、善に対して手を差し出す。


「明らかにヤバそうな状況だよなあ、これ。だけど寒いしな、まあいいか」


 善は騎士の手を取る。騎士は篭手を身に着けておらず、革手袋越しであったが、華奢な手をしているのが彼には分かった。

 騎士が善の手を引き、牢獄の出口へと向かおうとする。しかし、そんな彼らを遮るように、先程まで影の中に姿を隠していた人々が姿を表した。


 闇の中から現れたのは、深い皺が顔に刻み込まれた老人達だった。その全員の顔に皺以上に深く刻み込まれていたのは、疲労の影だった。


「姫様、どうか、どうかご用心を」


 老人達の中の一人が、憂うように、願うように声を掛ける。

 姫? 今そう言ったか? 善はその対象を探すが、やはり目の前の甲冑姿の騎士以外にその対象が見当たらない。

 小さな嘆息が騎士から漏れる。


「下がっていろ、爺。……救い主様、ここはまともな話をするような場所ではありません。場所を変えましょう」

「あ、ああ」

「どうか我々も」

「下がっていろ、と言ったのが聞こえなかったか!」


 姫と呼ばれた騎士が、先程までの柔らかな声色が嘘のように凛とした声で一喝すると、老人達は再び闇の中へと消えてゆく。


「お見苦しい場所を見せてしまいました。申し訳ありません」


 騎士は善を小さいが小綺麗な部屋へと通した後に深々と頭を下げる。


「全く状況が見えてこないので怒りようがない」

「……そうでしょう。我々の都合で、貴方をこの世界へと呼び出してしまったのですから、あまりにも急で、しかも数々の非礼を行ってしまいました」


 騎士は、そこで一旦言葉を止め、兜を脱ぐ。

 兜の下から現れたのは、金髪を肩の長さ程に切りそろえた美しい少女だった。


 身に着けている甲冑の無骨さとは正反対の、宝石のような藍色の瞳を持ち、華奢でありながらも、靭やかさと強さを備えた顔付きの少女は、善と同年代、いや、それよりも年下に見える。


「私はこの国、ゼイミア帝国の第六皇女、オーシェ・リヴィニア・ゼイミア。貴方様、……どうか名前を教えて頂きたい。貴方こそ、この国の、いや、この世界の救い主となられるお方なのですから」

「救い主……? 俺が……?」


「はい」オーシェは善の問いかけに力強く頷いた。


「今、この国は領土の四方を敵に囲まれ、とてつもない危機に襲われています。北は蛮族の連合体、西は新興のスカーレア帝国、南は異教徒の統一国家である神聖エルフェ皇國、そして群島と大海洋が広がるである東からは謎の生物、そして海賊と結託した島嶼国家による攻撃。かつて、大陸の覇権を握っていた国とは思えない程の惨めで無様な姿が、今のこの国です。数年の断続的な戦いにより民は疲弊し、国内では反乱が頻発しております。スカーレア帝国による切り崩しが大半ですが、南方では都市ごとエルフェ教に帰化する例が少なくありません。北の蛮族達が踏み荒らした土地は文字通り草木も生えない有様であり、国内の交通はそれを守るべき州兵達すら前線に注ぎ込んでいる事から、賊徒が跋扈、あちこちで寸断された挙句、有力な諸侯は最早中央の命令と指示を無視し、自らの領土のを守るために独自に行動し始めた。これが今のこの国の現状です」


「八方塞がりって感じだな、話を聞く感じだと。完全に詰んでるしもう諦めたほうが良いんじゃ」

「……そうですね。だからこそ、我々は貴方様を、救い主として呼び出しました!」

「???」


 オーシェが告げたのは、あまりにも絶望的な状況。だが、それとは裏腹に彼女の顔色は明るい。そのコントラストに、完全に善は面食らってしまった。


「えっと、俺に何を期待して呼び出したのかは分からないけど、大した力がある訳では……」

「いえ、あります! 貴方様こそ、この国を、民を、救うことが出来ます!」

「だからそのう、どうやって」


「救い手様の御威光と類まれなる指導力、そして人類の頂点に立つであろう身体能力、エスカドーレ大図書館の全ての資料にも勝る知識、巨人を前にしても怯む事の無い勇気、そして、全ての人々に対する無償の愛。それによって人々を……」

「ちょっと待て」


 善は喋りながら盛り上がっていくタイプであるオーシェを一旦制し、一呼吸置いた。

 どうやら、とんでもない事に巻き込まれてしまった。それだけが今彼がハッキリと理解している事だった。


10/31 誤字修正

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