第六話
蒼馬たちが立っている場所は、この学園の校庭。張り詰めた空気の中、試合会場となった校庭は風で砂が舞戦いの前兆の様な雰囲気を醸し出していた。
......そしてついに、審判の合図が響く。
「始め!」
審判の合図と共に、蒼馬の対戦相手は刀を抜き、両手で支えながら蒼馬に刃を向けた。その構えは一切の隙は無く、択一された雰囲気を放つ。しかし、彼は門下生との事だ。門下生である彼があれ程までの雰囲気を放つことは、天道一刀流の力の証明とも取れる。
だがしかし、それはあくまで周りの人間が感じた評価だ。蒼馬は顔色一つ変えず、ただ対戦相手を見つめていた。蒼馬の姿は一見ただ立っている様に周りからは見える、しかし対戦相手は肌で感じ取った。微塵の隙も無いという事が。
額に汗が流れ頬を伝い、一滴の汗が零れ地面に落ち染みた。その瞬間彼は蒼馬に向かって走り一気に間合い詰める。
......彼は殺気を放ち、蒼馬を斬りつけた。
彼の一手一手が蒼馬を殺す、又は戦闘続行不可能な状態にする一撃だ。頸動脈を狙った切り上げ、腕を切断する一閃、手首や足を斬りつける。その全てが彼の剣術のレベルの高さを見せつけるものだった。
だが、蒼馬はその斬撃を最小限の動きで回避していく。どの一撃も当たれば敗北を意味する。だが当たらない。そうどんな鋭い斬撃であろうと当たらなければ意味をなさないのだ。蒼馬は彼の攻撃を完全に見切っている、最小限の動きで回避している事が、それを証明しているともとれる。
そして蒼馬は彼の頸動脈を狙った切り上げの時の一瞬の、脇腹の隙を見逃さなかった。蒼馬は避けた動作から左足を出し彼の脇腹に重たい一撃を食らわす。
「グハッッッ!!!」
彼は溜らず蹴られた方向に飛ばされた。その衝撃で持っていた刀が手から離れた、それを蒼馬が見逃すはずもなく、すかさず蒼馬は畳みかける。展開は防戦一方、避ける事も出来ず彼は蒼馬の攻撃を食らっていく。
......そして、戦いの終わりを迎える。
「鬼人無相流......怒涛」
蒼馬は拳を握りしめ、全身のパワーを込め彼の体に拳を当て吹き飛ばした。
彼の体全体に波の様な衝撃が襲った、堪える事も出来ず彼は吹き飛んだ。彼が吹き飛んだ辺り一帯は砂埃がたち、吹き飛ばされた彼はピクリとも動かず、立ち上がることはなかった。
「......戦闘続行不可能とみて、よって勝者!鬼人無相流、鬼貫蒼馬!!」
少しの沈黙の後、思い出したように皆拍手をした。最初は天道一刀流の彼が押しているようにも見えた、しかし終わってみれば蒼馬の圧勝だった。こうして、蒼馬の一回戦は勝利で2回戦へと駒を進めた。
蒼馬は教室へ戻ると、これまた待っていたように岡島が蒼馬に話しかけた。
「試合見たよ、圧勝だったね。君が知っているか分からないけど俺も一回戦は勝った、このまま順調に勝ち進めば決勝戦で君と戦うといわけだ。その時こそ君が地面に足を付ける時だ、君は必ず俺が倒す」
「そうだな、順調に行けば......な。だけどどうなるか分からない、お前が次に戦う相手は妙な男だ。そいつの試合を見たが、映像では何をしたのか分からない。なぜか対戦相手の男が吹き飛ばされていたからな」
「......そうだね、確かに俺も気になっていた所だよ。だけど今考えてもしょうがないし、俺は俺が出来ることをやるだけさ、立ちはだかる相手は全て倒す。」
彼らの言う妙な男とは、一回戦一歩も動かずに対戦相手を吹き飛ばし勝利した男の事だ。黒いフードを被り全身黒ずくめの姿の彼は、その異質さから1年のトーナメント戦のダークホースという噂が出回っているようだ。
そして、時間は流れ一回戦全てが終わりを迎えた。一回戦、脱落者の中には意識不明な状態や骨折、全身火傷といった重傷を負った者も多い。重症な傷を負った者は先生方が治療に当たり、比較的軽症な擦り傷といった傷はクラスの中で非戦闘員の中の回復を主に行う生徒によって治療を受ける体制となっている。
「......もう大丈夫ですよ。このくらいの傷なら直ぐに治せるから、傷ついたら私に任せてください!」
「......よし!次も傷つけよう!」
男は何かを決意したように拳を握った。その男の顔は赤く、下心が手に取るように分かる。
「あわわ、駄目ですよ~傷はつかない方がいいんですから」
今回非戦闘員の生徒に軽症の者は治療が任されている。これは男性にとって願ってもみないチャンスだ、なぜなら非戦闘生徒は女性が殆どだからだ。この男のように下心丸見えな態度で治療を受ける者も少なくはない。
そして、特に蒼馬のいるⅭクラスの中で人気なのが新田めぐみだ。彼女の周りには先程まで男性が治療してもらおうと集まっていた。そして最後の彼を治療し終え、歩き出した。彼女が向かった先には蒼馬が居た。
「鬼貫くん、傷はありますか?傷があるのなら私が治療しますよ?」
「大丈夫だ新田、何処も傷はついていない。他の奴を治療してやれ」
「そうですか分かりました......えっと......あ、あの......私の事......おぼぇ...」
新田が消え去るような小さな声で何かを口にした。しかし、後半部分は声に出ていたか怪しいほど小さく蒼馬は途中までしか聞く事が出来なかった。
「お前の事がなんだ?もっとしっかり話してくれないと聞こえないぞ?」
「い、いぇ。な、何でもないです。じゃあ私は行きますね、次の試合も頑張ってください鬼貫君」
そう言い残し、新田は女性の居るところに行き笑顔で話している。蒼馬は気にする事はなく次の戦いの事を考えた。
(次の相手は槍の使い手か、面白いどんな戦いするのか楽しみだな)
次の対戦相手は、Aクラスの河野孝之という槍の使い手だ。彼は一回戦不戦勝で勝ち上がっている、対戦相手が一回戦を棄権したためだ。だから誰も彼の実力を知る者は居ない、果たしてどれほどの使い手なのか蒼馬も期待を膨らませながら2回戦を待った。
「さて、一回戦は不戦勝だったけど。次はあの鬼貫蒼馬という男だ、気合を入れていかないとな」
己の右手に持つ黒い槍を強く握りしめた。その槍は異質なエネルギーの様な物を放っていた。
鬼人無相流 怒涛
この技は力を拳に集中させ相手の体に当てる。殴った衝撃と共に拳が当たった場所から大波の様な衝撃が体全体に伝わり体内を圧迫させ相手を殺す技。鬼人無相流の者が一番多く使用する技。




