第四話
蒼馬は、午後の講義も終り学園に居る意味がなくなったので、帰宅しようと教室を出ようとした。しかし後ろから声を掛けられた事で出ることは出来なかった、蒼馬は後ろを向いて言った。
「......何だ?岡島、俺に用でもあるのか?」
蒼馬に声を掛けたのは、始まって2日目にして既にクラスの中心となった岡島俊吾だった。しかし、何人かは気に食わないと思っている者もいるようだ。そのように思ってる連中は岡島に嫉妬している奴だ。クラスの女性達の何人かは岡島と仲良くなるために積極的に行動している、それが気に食わないのであろう。それとは別に興味を持っていない奴も何人かいる、蒼馬はその一人だ。
「鬼貫君、君は明日あるトーナメント戦には出るのかい?」
トーナメント戦とは週に月、水、金の3回ある非戦闘以外の生徒を対象とした自由参加の戦闘の事だ。今週は月曜に入学式があった為、明日の水曜が今期初めのトーナメント戦というわけだ。
「いや、今回は参加しない。今回は見物させてもらうとする、どんな奴が出てくるのか見るためにな」
「そう、それは残念だ。俺は初めて君を見た時......恐怖した、この男はヤバイってね。だから君と戦ってみたかったのだけど」
蒼馬に興味を持ったのは隆文だけではなかったようだ、この男もまた蒼馬の他の人とは違う雰囲気のようなものを感じ取ったのだろう。
「俺と戦いたいならお前の力を見せて見ろ、俺を戦いたいと思わせるような力をな」
「ああ、そのつもりさ......引き留めて悪かったね」
蒼馬は教室を出た、緊迫した空気が蒼馬と共に消えていった。そうなぜなら彼、岡島俊吾が未だ見せた事のない表情をしていたからだ。いつものクラスの中心で、笑顔を絶やさないイケメン男はそこには居なかった、居たのは戦いを生業としている戦士のような顔をした岡島俊吾の姿だった。いや、彼の場合は戦士ではなく銃士というべきだろう。
「......岡島君、ど、どうしたの?いきなり鬼貫君に話しかけて、親しい間柄だったの?」
そんな風に少しうろたえているような言い草で一人の女性が話しかけた、すると先ほどの表情は消えいつもの岡島俊吾に戻った。
「いいや、親しい関係じゃないよ。でも仲良くなりたいとは俺は思うけどね」
その一言で、いつもの雰囲気が戻り、岡島の周りいつも通り女性が集まっていた。その彼を見てこの男もまた期待を抱いた。
(岡島俊吾、思っていたより強者かもしれないな。あの気迫並大抵の修練では身に付かないだろう、だがそれでもなお鬼貫蒼馬は表情を変えていなかった、そこが知れないなあの男は)
隆文は更なる高みへと昇るために剣を握りしめ修行することを誓ったのだった。
蒼馬は教室を出た後、何処も立ち寄ることもなく学園を出た。この日は色々あったが何事もなく自宅に帰ることができた。
「お帰りなさいませ蒼馬様。今日も一日ご苦労様です、お夕飯の準備は出来ておりますがどうされますか?」
「頂こう」
蒼馬にとって犬井の作る食事は格別だ、第47代継承者である蒼馬の父親が継承者となった時からこの家で執事をしている、長らくこの家で執事している事もあり、蒼馬が気を許せる唯一の人物と言えるだろう。本名犬井総司年齢60歳、ダンディーという言葉が似あう男性だ。
「今日のメニューは鮭の定食です、蒼馬様は和食が本当にお好きなのですね」
「ああ、和食は美味しいからな。洋食も美味しいがやはり和食が一番だな、まあでも犬井の作る食事なら何でも美味しいがね」
「光栄でございます、蒼馬様。蒼馬様が満足できるよう更に励みたいと思います」
蒼馬はご飯を全て食べ、風呂に入って階段を上り自分の部屋に入った。
いよいよ明日はトーナメント戦がある、蒼馬は出場しないが、期待している所もある。果たして蒼馬に強者と思わせる人物は現れるのだろうか。今期初めての生徒同士によるトーナメント戦が始まる。
翌日、蒼馬は支度を終え学園へと向かった。その日は講義が行われずトーナメント戦を行う。
だがどうやら今期から仕組みが変わるようだ、校長の偉功で週に3度行っていたが、月に一度と大幅の変更となった。月に1度となった事でトーナメントの規模も大きくなり、トーナメント戦は1年、2年、3年と分かれ、上位三名になった者はその残った者で一番を決めるというものとなった。魔具の使用も可能となり、激しいトーナメントとなるであろう。
今回のトーナメント戦は3日間に及ぶ大規模のものになって、出場をする予定がなかった者も出場を決める人が出てきた。蒼馬も出場する予定ではなかったが、エントリーをしに向かった。
「鬼貫君、まさかこんな事になるとはね。でも俺は嬉しい、こうして君がここに来たってことは出場するんでしょ?」
蒼馬がエントリーしに向かった先に、来るのを待っていたとばかりに蒼馬を見つけると岡島は話しかけてきた。
「そうだな。この規模でやるなら出る方が良いと思ってな、勝ち上がればこの学園の、強者と戦えるのだからな」
「そうだね、想像を超える強者も居るだろうね。でも君は俺が倒す、だからそれまで負けないでくれよ?」
岡島はそれだけ言って蒼馬の前から消えた。
蒼馬はエントリーを済ませた、この大幅の変更は誰も予想していなかった展開だ。そしてついに波乱のトーナメント戦が幕を開ける。




