第九話
人気のない場所に着いた時後ろから後を付けてきたであろう人物に声を掛けられた。
「待ってくれ......鬼貫殿」
蒼馬は試合が終わった後教室に戻るべく校庭を後にしたが、後を付けられているのを感じて人気のない場所を通ったのだったが、如何やら話しかけたという事は襲う事を目的としていたわけではなさそうだった。
「何の用だ?小桜巴、人を付け回すのなら気配を消す事だ」
「気付いていたのか......さすがは鬼貫殿だな。私は折り入って頼みがあって来たんだ」
「言ってみろ、話はそれからだ」
蒼馬の返答を聞いた巴は、一度目を閉じ一呼吸つけてからゆっくりと言葉を口にした。
「私を鬼貫殿の弟子にして欲しい」
校内で今日のトーナメント戦は終了というアナウンスが流れた、着々と帰る支度を始める生徒達。既に戦闘で受けた傷は先生含め生徒達によって回復を終えていた。蒼馬も帰る支度を終え小桜巴を連れ学園を出た。その光景を見たクラスメイト達は不思議な光景を見るようにただ二人が学園を出るのを見ているだけであった。
帰る道中蒼馬から話しかける事はなく、巴は何度か話しかけようとしたが掛けられなかった。それから一度も話すことはなく蒼馬の家へと着いた。
「こ、ここが、鬼貫殿のお、お家ですか。」
巴がぎこちない感じで言った、それを聞いた蒼馬は初めて口を開いた。
「急になんだ、普通に話せばいい。気持ち悪いぞ」
「それは少し酷いじゃないか私はこれでも女なのだぞ?それに殿方の家に入るのは初めてなのだから緊張するのは仕方ないじゃないか」
巴は恥ずかしがりながら少し怒った口調で言った。格好いいと男子のみならず女子にも人気がある巴だが、これを見る限りでは巴も他の女子と変わらない年頃の女性という事なのだろう。
「そ、それはいいとして蒼馬殿はなぜ私を家に連れてきたのだ?」
帰り道巴はその事が気になって仕方なかった、あの時蒼馬は家について来いとだけしか告げていなかったからだ。
「お前の眼が本気だったから家に連れてきた、お前が本当に俺の弟子になりたいなら先ず知ることからだ。だが知ったら最後俺の弟子となるか俺に殺されるかだ、お前の覚悟を示してみろ。それが嫌なら今なら聞かなかったことにしてやる......さあ決めろ巴」
蒼馬は殺気を込めた力強い口調で言い放った。その蒼馬を見て巴は怯んだ様子を見せたがグッと堪え返答した。
「教えて欲しい蒼馬殿、私は蒼馬殿の様に強くなりたい。私に素質がなかったら殺してくれて構わない、潔く死を受け入れる」
巴の覚悟は相当の物のようだ、蒼馬は巴に背を向け歩き始めた。蒼馬は自分の家のドアノブに手を掛ける。
「お前の覚悟は分かった......なら入れ巴。鬼人無相流について教えよう、だが俺が素質がないと判断した時......お前を殺す」
巴は息を呑んだ、そうして蒼馬の家のドアは開かれ巴は蒼馬の家に入るのだった。巴は何が待ち受けているのか気になって、心臓の行動が早くなる一方だった......しかしそれも直ぐに安定した。
「お帰りなさいませ蒼馬様。今日はお早いですねまだ夕暮れ時になったばかりで夕食の時間には早く用意できていませんが......おや後ろにいらっしゃるのはどなたでしょうか?」
「犬井、こいつは小桜巴だ。俺の弟子になるかもしれない女だ」
「そうでしたか......巴さん。初めまして私はこの家で蒼馬様の執事をしています犬井と申します」
「......あ、わ、私は小桜巴と申します!宜しくお願いします犬井殿!」
巴は想像していたのと全く違っていたので返答していなかったのに気づき慌てて返答した。
「犬井俺は巴の力量をはかる、少し早いが夕食の準備をしていてくれ。こいつがどっちに転んでも夕食は食べさせてやるつもりだからな」
「はい、畏まりました蒼馬様。では巴さん頑張ってください」
そう言って犬井は蒼馬たちの前から姿を消した、少しすると炒める音や美味しそうな匂いが漂っていった。
蒼馬は巴をつれて家の敷地内にある道場に連れて行った。そこは学園より劣るがそれでも広く何十人と人が入るだろう道場だった。
「まずはお前がどの程度の実力だか確かめる、俺に向かって攻撃してこい。俺は一撃しか加えない」
「分かった蒼馬殿」
巴は構えの姿勢を取った。辺りは静寂に包まれ巴の息遣いと共に巴は蒼馬に攻撃を仕掛けた。巴の攻撃は単調ではなく効果的な攻撃だった、緩急があり動きが読みづらく避けるのは難しいだろう。だがそれでも蒼馬には攻撃が当たる様子はない。
蒼馬は攻撃をよけ続けていたが巴の実力をはかり終えたのかクロスカウンターをすんでの所で止めた。
「......よしここまでだ......合格だ。お前を俺の弟子に迎え入れよう中々いい動きだったぞ」
「本当か!?やった!ありがとう鬼貫殿!」
めでたく巴は合格した、だがこれから彼女は知ることになる。鬼人無相流が生半可な覚悟では扱うことが出来ないという事を、そして真に使いこなすことは出来ないという事も。




