05話 噂④ミラーハウスでの入れ替り
「ミラーハウスから出てきたあと「別人みたいに人が変わった」って人が何人かいるらしいですゥ。なんていうか、まるで中身だけが違うみたいだってェ……」
少し鼻にかかったように話す茶髪パーマの奥様の話に、男は面白そうに口の端を持ち上げた。
「ほほう、「人が変わった」と? それを判断したのはどなたなんでしょうね? 普通のつき合い程度では、少し言葉使いや趣味嗜好が変わっても『中身だけが違う』なんて判断できませんよね。やはり、ご家族か、恋人でしょうかね」
「わ、わかりませんけどォ、そうなんじゃないかなァ」
男の言葉に茶髪のパーマの奥様は、目を泳がせる。
「ふーん、ミラーハウスで色んな角度で自分の姿を見て、何か思うところがあったんですかね。「人が変わった」として、何も問題がなかったんでしょうね。人間なんて、「明日から変わる」とか「今までとは違う自分になる」とか、よく口にするじゃないですか。ちょっとくらい変わったとして、そんな事を問題にしたら、言った人が「中身が変」になったと言われそうですものね」
「ハア……」
茶髪パーマの奥様は、ペラペラと滑らかに話す男に軽く頷いてみせた。
「面白い話を、ありがとうございました」
男はパッと茶髪パーマの奥様の片方の手を取ると、ニコリと笑う。手の甲をスッと撫でられて、若奥様は耳までカアッと赤く染めた。他の人にはしなかった手の動きだ。
「他にはございま……」
「あります!」
茶髪パーマの奥様の手を離して、尋ねようとした男の言葉が終わる前に、バレッタで後ろに髪を纏めた奥様が、ズイッと前におどりでた。
結婚して8年──小学生の息子がいて、幼稚園では役員として頑張っていた。夫のことはもうどうでもよくなってる奥様は、小学校でも積極的に役をこなし、PTAママパワーを手にするつもりでいる。
おどりでた奥様は先を越された恨みをこめて、若奥様を一瞥した。
『この、ビッチが! 若いからって太腿だしてんじゃないわよ!』と視線に蔑みをこめる。
この間32歳になったバレッタ奥様は、『この中で人妻として一番脂がのってるのは、このわたし』とばかりに、色っぽく髪に手をやり、うなじをみせるように、首を少し捻った。
ハッ! 途中で前世の記憶がよみがえるパターンって……ヤバイじゃん。