03話 噂②ジェットコースターで謎の事故
「ジェットコースターで起こった事故のことなんですけど、『事故があった』とは聞くのに、どんな事故だったか誰に聞いても答えが違うとか……」
「ああ、それは全部違うことだからでしょうね」
話した黒髪ポニーテールの奥様に、男は頷いてみせた。
「みんなが知ってるような大きな事故ではない……報道されていないところをみると、ジェットコースター自体の事故とは考えにくいですよね」
男の目線が何かを考えるように、上を向く。
「人員整理がうまくなかったんでしょうかね。割り込みなどで揉め事、混んで頭をぶつけるとか、ころんでケガをするとか……メンテナンスをあまりしてなくて、時々動かなくなるとか? うーん、前の客が漏らした後にうっかり座ってしまうとか、聞かされても言って回ったり、記憶に残るようなたいしたことでもない、小さなトラブルがたくさんあったんでしょう。そういうのも事故という言い方で、話されることもありますからね」
「ハア……」
黒髪ポニーテールの奥様も気の抜けた返事をして、頷いた。
「お話しくださり、ありがとうございました」
男は微笑みを浮かべて、脇にしぼるように当てられていた黒髪ポニーテールの奥様の片手をとった。
奥様はパチパチと瞬きすると、頬をカアッと真っ赤に色づかせた。
「他にはございませんか?」
「はい、あります!」
茶髪のショートボブの奥様が、元気よく手を上げた。まだ、話していない他の奥様方を牽制して大きな声を上げた。
『次は自分だ!』と話す気満々である。
ショートボブの奥様は結婚して6年経つが、どこにも遊びに連れていってくれなくなり、サービスが悪くなった夫に不満を抱いている。
この中で一番胸があるのは自分だと、さりげなく腕を胸の下で組んで持ち上げるようにした。