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11話 一緒に『裏野遊園地』に行きましょう

 



「おまえか、準備ができたようだな」


 男が声をかけると、奥様は頷いた。


「はい」


「おまえの役目はわかってるな?」


「はい」


 男の確認に、奥様はまた頷いた。


「では、行け。裏側から出ていけ」


「はい」


 奥様は三度目の頷きを見せた後、静かに立ち去った。その薄闇に消えていく後ろ姿を見送った後、ウサギ耳の少女は男の方を見た。


「いっぺんに同じ場所で、6人、いえ7人、入れ替えて大丈夫ですか」


 今日、もう一人いることを思い出し、数を言い直して、ウサギ耳の少女は男に向かって首を傾げた。


「問題ない。グループをまるっと替える方が良いくらいだ。人間など、自分の都合のいいように変わっていれば、騒ぎ立てたりしない。喜んで受け入れるだけさ。複製達はうまくやるだろう」


 ウサギ耳の少女に、男は口の端を持ち上げて皮肉げに笑ってみせた。


 ミラーハウスで作った複製達──使い魔として命を吹きこまれた者達だ。


 『中身だけが違う』?……いいや、全部取り替えている。外も中も丸ごと別物だ。でも人間どもは気づかない。いや、変化に気づいても、自分にとって良い変化なら歓迎するのだ。


 愚か者どもだ──男は皮肉げな笑みをさらに深くする。


「アスタ様、園の門に近づく者の気配がします。次の贄ではないですか?」


 ウサギ耳少女が何かを聞き取ったように、長い耳をピクピク動かすと、門の方に顔を向けて男に告げた。


「ああ、もうすぐ待ち合わせの時間だな。では行くか」


「色々な噂のある場所なのに、よく一人で来ますね」


 一歩踏み出そうとした男に、ウサギ耳少女が感心したように声をかけた。男はウサギ耳少女に顔を向ける。


「それは、わたしの話術で、この場所への恐怖や警戒心をぬぐってやったからだね。そして何より……」


 男は一旦、言葉を止めるとウサギ耳少女の赤い目を悪戯っぽく見つめた。


「このわたしが、それだけいい男なんだろう」


「ハア……」


「ハハハッ」


 ウサギ耳少女が気の抜けたような返事をすると、男は笑い声を上げ、少女を後に残して、軽い足取りで門に向かった。











「おかえりなさい、あなた。お風呂にする?  お食事にする? それとも、あ・た・し?」


 仕事から帰ると、妻が待ち構えていたかのように、男を玄関で出迎えた。


 薄いシースルーのネグリジェからは、黒い下着が透けて見えている。茶に染めた長い巻き毛を色っぽくかきあげて、笑顔で尋ねてくる妻は、つい先日までとは、まるで別人だ。


 先日、『あなたのために、あたし変わるわ!』と宣言した妻の変化は顕著だった。


 長い黒髪の毛先を切り揃え、大人しそうな雰囲気の妻は、日本人形のようだった。実際引っ込み思案で、地味で面白味のない女だと思っていた。


 今は髪を明るい茶に染め、パーマまでかけた巻き毛になっている。前までノーメイクかと思わせるような薄化粧だったのに、今はどういう化粧なのか、一重だった目蓋が二重になり、化粧が濃くなった。

 つけまつ毛でバサバサの目に濃いほほ紅、真っ赤な唇──派手で面白過ぎる女になった。


「お……」

「お食事よね、わかってるわ。こんな遅くまで仕事をしてたんだもの、お腹が空いてるわよね」


 『お風呂』と言おうとした男の言葉を先取りして、妻が早口で言う。ニッコリと笑顔で見つめられる。


「……あ、ああ」


 こんな強気そうな物言いは、以前はしなかった。妻が男の手から鞄を奪い、背後につく。


 前の、遅くなった男を暗い表情で出迎える妻も、どこの井戸から湧いて出たと思わせる不気味さだったが、今の男に貼り付く妻も『今、後ろにいるの』という感じで不気味だ。


 鞄を置き、男の着替えを妻が手伝う。

手を洗えば、サッとタオルが渡される。ダイニングのテーブルの椅子に腰かければ、手早くごちそうが並ぶ。料理の腕は格段に上がった。

 冷えた缶ビールに添えられた、ガラスのグラスも冷されて白く曇っている。グラスを持てば、隣に座った妻が、サッと酌をしてくれる。目が合えば、赤い唇が持ち上がる。いい笑顔を見せられた。


 グラスのようにひんやり冷されて、男の顔に汗が浮き出る


──俺が悪かった! 許してくれ!


 叫んでジャンピング土下座したくなる。これは浮気がバレているんだと男は思う。


 結婚して3年──ちょっとした、でき心で、派遣で来た若い女といい仲になってしまった。ムスコは『おれ、探検大好きー』と新しい洞窟に突入してしまった。ウキウキと冒険を繰り返していたが、今は気持ちがしぼんだ。


──怖い……妻が怖すぎる。


 下手に責められて、わめき散らされるより、ずっと怖い。


「お……」

「あ、あなた。今度の休みは空けといてね。ご近所のみなさんと肝試しをしようと言うことになったのよ」


 意を決して、『俺が悪かった』と許しを乞うつもりだったが、妻の言葉に遮られた。


「ご近所づきあいも大切よね? 仲よくしてるみなさんが参加するのに、うちだけ参加しないなんてできないし、一人で行くなんておかしいわ。参加してくれるでしょ」


 たたみかけるように続けられた言葉に、男はコクコクと頷いた。断って妻の機嫌を損ねるのが怖い。


「よかったわ」


 女は安心したように表情を緩ませると、男に輝くような笑顔を浮かべて言った。



「一緒に『裏野遊園地』に行きましょう」


と。



 


 この話は、『これ、ホラー!?』と『びっくり』だ感想を貰うことを目指して書きました。(後からちょっと、それらしく頑張ってみたけど)でも、調子にのってホラー企画に参加してしまったことを、後悔しています。ホント、すみません。

 ここ、……私が来てはいけない世界だった……。

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