01話 おはようございます、奥様方
昨夜の嵐の後、今朝はカラッと晴れて強い日射しが地上に降り注いでいる。
雲一つない真っ青な空の下、一人の男が歩いていた。
「フン♪フン♪フーンフン♪」
シルクハットに黒いタキシード──熱を反射するアスファルトの道の上に、コッコッと弾むような足取りで、黒いエナメル靴の音を響かせる。
夏の日射しには不似合いな格好で、暑さをまるで感じていないように、鼻歌まじりに陽気に歩いている。
道の脇でゴミ出しに来た奥様方が、ペチャクチャと井戸端会議をしていた。
その様子を見た男は、フラフラと奥様方に近づいた。
「おはようございます、奥様方。いいお天気ですね」
三件先のAさん宅の離婚の危機を、Aさんがいないのをいいことに、ゴシップ記事さながらに好き勝手に憶測していた奥様方はピタリと黙った。
突然現れた奇妙な男に驚きながらも、その目は男の全身を舐めるように観察する。
このクソ暑いのに真っ黒な変な格好をしているが、細身のイケメンだ。
日本人とは違う彫りの深い顔立ちで、片眼鏡をかけた目元は涼しげでかなりの美形である。
「あ、あの、何かご用ですか?」
結婚生活4年……そろそろダレの見える夫婦関係で、独身時代はブイブイ言わせた肉食系ハンターだった茶髪の奥様は食いついた。
清純派を装って、恥じらいを見せるのも忘れない。
「すみません。この辺に遊園地があると聞いていたんですが、何かご存知ありませんか?」
男の問いに奥様方は顔を見合わせた。
「 あ、そう言えば近くに遊園地があったとか聞いたことあるわ」
「あー、あの廃園になったとかいう?」
「あの変な噂のあるところね。『裏野遊園地』だっけ?」
一斉に奥様方はさえずり始めた。
「ほう、噂? ぜひその遊園地の噂をお聞かせいただきたいですね」
ニッコリと男は微笑んだ。顔の良さが際立つ笑顔である。奥様方はうっすらと頬を染めた。
どうやらこの男は外国人らしい。日本語ペラペラの外国人だ。
シルクハット――夏なら帽子をかぶっても、あたりまえだ。
黒い蝶ネクタイにタキシード――夏でも不幸があったりしたら、みんな似たような格好をする。
よその国の人なら、多少変わった格好をしていてもしかたない。そして、何より男は美形である。美形なら、少々の奇抜さも許される。
奥様方はみんな男に厚意的になった。