6−21 マルス side
6−21 マルス side
(先ほどからずっと、何かしらの悲痛な叫びが聞こえるが……)
リオウ、ティルを伴い、叫びをBGMにし、俺は先に食事室へと来たのだか……。
(…父上。なんですか、その落ち着きのなさは………)
俺が衝撃に固まっていると、「マルス様、私たちはソウ様のところに行ってきますね。」と父上を見るなりティルの手を引き、逃げるように部屋を出て行ったリオウ。
(リオウ、ティル…、逃げたな……)
「興奮した父上にかかわるのは御免だ!」ということだ。
普段は良き国王である父上も母上という最強ストッパーを失った今では、興奮すると誰も手がつけられなくなる。
他の者に比べれば俺の場合、多少は父上のストッパーになるようだが、あくまで「多少」である。
完全ではない。
「ソウゲツ様はまだいらっしゃらないのか……」とソワソワ、食事室の扉の前をウロウロ、グルグル……
従者たちに聞けば「朝から続いています」という。
そんな父上は…、いや、ここはハッキリ言おう。
うっとおしいのだ。
ここで父上を落ち着かせなければ、侍従や侍女、家臣たちに至るまで、精神的被害を与えかねない。
父上の落ち着きがない時 = 怒りやすい時 = 逆鱗に触れて失業の危機なのだから。
「父上。落ち着いて下さい。ソウは逃げませんから…」
「そう、言ってもだな!我はあの神々の娘たるソウゲツ様にお会いするのは初めてなのだ!!」
(完全に興奮している…)
「これでは皆、冷や汗もの」だったに違いない。
失業の危機に一触即発の状態が朝から続いていたのだから。
父上とくだらない言葉のやり取りをして父上の気をソウの話題から完全に俺へと逸らし、興奮を抑えようとしているうちに、ソウとプラムがやって来ると知らせが入る。
「たのしみだの♪」
(…鼻息が荒いぞ、父上………)
もう何も言うまい。
ソウの話題から俺へと気を逸らしていたことで多少は興奮が抑え気味になってきていた父上だったが、先ほどの知らせによって、まるで高速で飛んで行ったボールが跳ね返るような勢いで更に興奮していた。
そのような父上に、俺は諦めを感じ放置することにした。
追いすがるような侍従たちの目を感じなかったことにしようと決め込みながら…。
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