6−18 マルス side
6−18 マルス side
ティルより先に東の庭園についた俺たちは“ティルお気に入りの昼食場所”へと着いた。
席に着いてティルを待つ。
気持ち良い風が吹いているためか、ソウは穏やかな表情でボーっと座り、美しいことで有名な“東の庭園”を眺めている。
(和んでいるようだな。)
そんなソウの姿を見てホッコリと胸が温かくなるのを感じた。
「マルス様、先ほど言っていた“運ぶ手伝いをしてくれる奴が丁度いる”とはもしや…」
“弟思い”なリオウのことだ、先ほどソウが「ねぇ、ティルを一人で行かせていいの?お弁当重くない??」といったときのことをリオウは気にしているのだろう。
いつものように駆けだしたティルの手伝いをしてやろうと、きっと少し時間を空けてからティルを追って、厨房に向かうつもりだったはずだ。
「プラムだ。アイツも厨房に行く頃だ。」
プラムはちょうど今の時間に果樹林の多い“西の庭園”で昼を取ることが多い。
“部屋で豪華料理を食べる”という“王族・貴族”ならではの食事が、俺もプラムも好きではない。
では「どんな食事が好きなのか」と言われれば、「国民と同じ家庭料理を適量、晴れた日の庭で食べることが好きだ」と即答できる。
(庶民派っと言ったところだろうな……)
俺はぼんやりとそう思った。
それからしばらく雑談をリオウとし、のんびりとした時を過ごしていたが、それは「兄貴!!」という声で破られた。
(プラム!!)
嫌な予感がヒシヒシと感じられた俺は、こちらに向かって歩いてくるプラムの姿を見るため、急いでソウの隣へ行く。
(頼むからドレスくらい着ていてくれよっ!!)
プラムがこんな男言葉といわれるような言葉づかいをするのは“家族・親戚の前”、または俺の服を無断で借り、“男装して城下にお忍びに行く時”だけだ。
毎回毎回“男装は逆に目をひくからやめろ!!”といっても聞きやしない妹・プラム。
プラムは“姫の中の姫”、“姫らしい姫”と呼ばれ、それは国内・国外問わず有名である。
(“猫っかぶりプラム”。)
そんな言葉が頭を過る。
外交にもプラムの“姫らしい姫”という“お淑やか”で“ふんわりとした女性”という理想的な“お姫様像”は役に立つ。
よって、プラムの本性がバレることは非常に拙い。
だが、“正体がバレることが拙い”という自覚がプラムにはなく、注意しても全く無駄なのだ。
プラムの言い分は、「ワシは“ワシ”じゃろ?“理想的な姫様像”は徹底指導で出来たものじゃ。あれは“ワシ”ではなく、ワシという“役柄”!!」、「ワシは“女優”!!」、「バレても誰も信用しないじゃろっ!ワシは“姫らしい姫”で名が通っておるのじゃ、みんな冗談だと思うじゃろう。」だ。
これではプラムの“本性”を知っている周囲が、気を使ってバレないようにするしかないのだ。
俺の家族以外は滅多に来ない庭園だが、誰が見ているか分からない。
(油断は禁物だ。)
男装をし、言葉づかいも普段とは全く違うプラムの本性が、いつ侍女や家臣たちにバレやしないかと俺たち家族と親戚はいつもヒヤヒヤしている。
だが、俺の淡い期待はプラムの姿を見た途端に崩れた。
(…何故、俺の“お忍び用”服をきているのだ!!)
プラムが俺の服を拝借することが良くあるため、プラムが俺の服を持って行ったならば、それを知らせる警報が鳴るようリオウに仕掛けをつけてもらっている。
今のプラムは俺の自室にある隠し部屋に隠してあり、唯一リオウの仕掛けをつけていない服。俺が城下に下りて遊びに行く時の服を着ていた。
城の“緊急脱出用隠し通路”を使えば俺の“お忍び用服”のある部屋へは行けるが…
(そこまでするか…)
止まない妹の奇行に、俺は頭を抱えるのだった。
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