2−2 マルスside
本文中に生死に関することで御気分を害されるかもしれない表現があります。
害されると思われる方は、3−1へとお進みください。
2−2 マルスside
カモメが飛び、風も気持ち良く吹いている、凪いで穏やかな海。
あと3日で王国には帰らなければならないが、船旅は至って順調。王国まであと1日で帰られる位置にいた。
風にあたりに船の先端へ来ていた俺は、碧く美しい海に妙な物体を見つけた。
(何だ?なにか浮いている?)
「マルス様ぁ〜!!大変ですぅ〜〜!」
見張り台にいたはずのティルが、ポニーテールにした砂色の髪をピョコピョコさせながら、血相を変えてドタバタと走り寄ってきた。
「ティル。どうした?」
「人がっ、人が浮いてるんです!!」
(あぁ。あの浮いてる物体は人か…。もう死んでいるかも知れないな。
帰国時間には余裕がある。まぁ、家族に伝えるために、遺体の身元くらいは確認できるようなものを回収しておくか。)
「ティル、今から救助に向かう。船長に目標物の位置を伝えてくれ。」
「了解です!」
ティルは船長のもとへと飛ぶように駆け出して行った。
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コンコンコン………
乗組員から海に浮かんでいた人物の「回収に成功した」という知らせを受けた
俺は、その人物の生死を確認しに、人物を運び込んだ船医室のドアを叩いた。
「はぁ〜い。あぁ、マルス様。」
「どうだった、リオウ。」
「“生きた”目標物を回収しましたよ。今、治療を終えました。大きな怪我もなかったですし、しばらくすれば目覚めますよ。」
ニッコリと微笑みながら医術の心得がある青銀の髪に紫の目を持つ青年・リオウは報告をしてきた。
「そうか。生きていたか、運が良かったな。」
「えぇ、ほんとに。もう少し遅かったら危なかったかも知れませんでしたから…。マルス様、気になることがあるのですが…」
キィ〜……
ノックもなしに船医室のドアが開いた。
「兄ちゃん、水差しとコップ持ってきたよ。」
「あぁ、ありがとうティル。あの子が起きたら飲ませるからそこの机に置いておいてくださいね。」
どうやらティルは患者用の飲み水を運んできたようだった。
「………………ねぇ、兄ちゃん。あの子、大丈夫かな?」
「大丈夫ですよ。」とリオウは弟に慈愛に満ちた穏やかな笑顔を向けていた。
「中断したが、どうしたリオウ?」
「えぇ、マルス様。この子、赤い髪を持っている上に、なんだってこんな外洋に浮かんでしょうか?この航路はこの船以外、使いませんよしねぇ〜。最近、「嵐が来た」、とか「難破した」とか「海難事故発生」とかは聞かなかったんですが………。服装や持ち物も不思議なものばかりでしたし…。それに何やらに覚えのあるブレスレットを着けていましたよ。」
「ブレスレットをどこで見たのかは、思い出せないんですけどね〜」っと言っているリオウを尻目に、俺は思考に沈んでしまっていた。
(確かに、赤い髪を持つのはおかしいが、それよりも海に関する自然災害や事故の報告は受けていないのに何故、海に浮かんでいた?服装や持ち物が不思議??不思議なのに、見覚えのあるブレスレットをしているとはどういうことだ………?)
するとティルの明るい声が上がり、現実に引き戻された。
「兄ちゃん!目ぇ開けたよ!!ねぇ、大丈夫?気持ち悪くない??」
ティルが飛びつくようにまだ焦点の定まらぬようなベットに横たわっている人物に声をかけていた。
(赤い目!!)
あまりの衝撃に一瞬、息が止まり、頭が真っ白になった。
まだベットに横たわったままの人物の開かれた目は“赤色”だった。
「こ〜ら、ティル。あまり大声を出しちゃダメですよ。
大丈夫ですか?どこか痛むところはありませんか?あなたは海に浮かんでいたんですよ。そこを救助されました。大丈夫ですよ、手荒なマネはしません。安心してくれていいですよ。」
ティルをリオウがたしなめる。これは、いつもの風景だ。
(リオウ?“赤い目”に気付いていないのか??)
リオウを観察すると表情は穏和なままだったが、顔色を失い、青ざめている。
(いや、リオウは目に気付いている。今は問いかけないつもりだな。)
リオウの様子を見て、完全に衝撃から自分を取り戻した。
「………あ……の…、こっ……こ…は…?」
元漂流人物は、ひどくかすれた声で尋ねてきた。喉が乾ききっているのだろうか?
「ここはスカーレット王国の船、バーミリオン号の中だ。」
俺は水差しからコップに水を移しながら答えた。
「座れるか?少し水でも飲んだほうがいい。」
横たわった人物の上半身を起こし、コップを口に当てて水を飲ませた。
(この者はまだ衰弱しているな。)
厚くダボダボとした患者服にくるまれている女か男か判断できかねるこの人物は、ひとくち、ふたくち水に口を飲み、再び口を開こうとした。
「もう少し、眠れ。質問は君が回復してからだ。
君も聞きたいことがたくさんあるだろうが、こちらも「何故、君があんなところに浮かんでいたのか」など、聞きたいことはたくさんある。だが、まずは体を休めろ。すべてはそれからだ。」
と言い、また横にした。
水を飲んで少し落ち着いたのか、人物はまたスーッと眠りに落ちて行った。
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