76.それからとこれからの事
前話のあらすじ
オウガさんがイヌ族のドグマさんを倒し、シュリさんが獣人領の新たな国として、『オオカミノ国』を立ち上げることを宣言しました。
イヌ族との死闘から半年。寒さが暖かさに代わり、日中の日差しの強さに汗ばむ陽気になった頃。
オウガたちはツザの町に戻っていた。
建国を宣言した今、国主とされてしまったオウガが城壁も無い小さな町を拠点とするべきではないのだが、獣人領で唯一の城壁があるイヌ族ドグマの城はレムリア王国から離れ過ぎていて、王国との関係構築を重視したシュリの提案で当座の首都がツザとなったのだ。
もっとも、ツザではあまりにも王国に近すぎるので以東へと遷都の予定はあるのだが、王都の候補地にされたキツネ族の集落跡は荒廃が酷く、都市機能の移転には数年かかるだろう。
そんな未来を見据えているツザの目下の問題は――出産祭りだった。
例年、冬の農閑期を越えた後は出産が多くなる傾向があるのだが、今年はそれに輪をかけて討伐軍や自警団に新婚が増え、夏に掛けて人口が一割増えるのではないかと言われる程に妊婦が多いのだ。
そして妊婦の増加は、治療院やそれを手伝う薬師たちの激務は勿論の事、人手不足から農業や商業、自警団にも支障を来たし、町役場も戦場さながらに賑わせていた。
「オウガさん! 時間ですからシュリさん貰って行きます!」
「マリア。持って行ってもいいけど、そこの書類一山も一緒によろしく!」
「私は物じゃない……。待って、これ。自警団の当番表」
「それならシロウに――ってシロウは今ドグマの城か。アマネ、お願いしていい?」
「任されよ。時にオウガ殿、そ、その、今夜の予定なのだが――」
「っ! アマネさん!?」
「忙しいんだから急ぐ!」
「マ、マリア殿!? シュリ殿!? まだ話が! オ、オウガ殿ぉぉぉ……」
人間の治療師であるマリアと狼獣人のシュリに引きずられていく狐獣人アマネを苦笑いで見送ったオウガは、急に静まり返った執務室の中、山となった書類を前に、現実逃避的に呟いた。
「今夜も大変そうだ」
半年後、オオカミノ国首脳陣である女性たちが次々に妊娠して療養に入り、唯一人残ったオウガに全ての皺寄せが来る事になるのだった。
――終――
エピローグを書く、と宣言したのにとても短い一話となってしまいました。
何分物語を締める、という経験が無かったものでして。物語を始めた経験だけは無駄にあるんですが。
まだもう一度だけ、あらすじ「シュリの手記」最終話を投稿予定ですが、とりあえず本編はこれにて終了とさせていただきます。
三月くらいに新作を投稿予定ですので、よろしければそちらも読んでいただけると嬉しいです。
また、しばらくの間、活動報告にてオオカミノ国の裏話的な物をしていこうかと思っているので、そういうのも好きな人はご覧ください。大した話はないと思いますけれども。
最後までお付き合いくださいまして、誠にありがとうございます。またお会いしましょう。