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オオカミノ国  作者: 十乃字
四章・始まりの終わり
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69.そこは岩か城か

 前話のあらすじ

 ドグマの城塞を見定めたシュリは、勝てると断言した。



「ドグマ様、正門に例の討伐軍が近づいています」


「奴らの正体はわかったのか!?」


 ドグマの城砦、ドグマ王の部屋と名付けられた最上階の一室、壮年の犬獣人ドグマは苛立ちを隠さずに伝令兵を怒鳴りつけた。


 イヌ族領地南部から、村落に残した衛兵や差し向けた警邏兵の多くが次々と行方不明となるようになって一月。


 生きて戻った僅かな兵も伝言を預けられて逃がされた者たちで、謎の侵略者たちは「イヌ族族長ドグマの首を寄越して降伏すること」を求めていた。


 ドグマは勿論、彼に阿るイヌ族の者たちにも到底その要求を呑むことは出来ず、しかし進撃を止めることも出来ず、被害を抑えるために散らばっていたイヌ族を城へと集めたのだ。


 ドグマを始めとしたイヌ族の中核は人間たちが報復に来たのではないか、と最大限の警戒をしていたのだが、


「そ、それが……、敵は人間ではなく、狼獣人など他種族の混成軍の模様です! その数およそ百!」


「何だと!? 敗残兵の虫けら共がたった百だと!? 舐めた真似を!」


 未知の勢力がイヌ族による獣人領覇権争いの敗者だと知ると、その百人の討伐軍に脅威を感じていた事を忘れ、ドグマは怒りに任せて握りしめた拳を机に叩き付けた。


「迎撃だ! 俺に逆らった愚か者共を皆殺しにしろ!」


「は、はい!」




「やはりお前たちが来たか……ハヤテ」


 正門上の見張り台。迫り来るイヌ族討伐軍を見据えるのは、イヌ族軍副長のシヴァだ。


 先の敗戦が響いてか、陣頭指揮を執らなくなったドグマに代わって守備隊を指揮する彼は、討伐軍の中に見覚えのあるかつての部下の顔を見つけていた。


 長らく苦楽を共にした戦友を目にして、シヴァの顔に浮かんだのは、怒りではなくどこか安堵しているようにも思える苦笑だった。


 イヌ族の優位を保つためにとはいえ、併合したはずの多種族から越冬に必要な備蓄を徴収したことは、シヴァにとっても本位ではなかった。


 その報復のためにイヌ族に逆襲を仕掛けるというのは、シヴァから見て道理の通ったものに思えるのだ。ハヤテたちの襲撃に得心したシヴァだったが、ふと気にかかることがあった。


「何故ハヤテはあの位置に……?」


 族長ドグマの考案した戦闘陣形はイヌ族に浸透し、目下迫りくる討伐軍の矢尻型の陣形にも隊長格であるシヴァには意味を見出すことができる。しかし、ハヤテを始めとした元部下たちは陣形の左右に散り、よくて副長といった立ち位置にいる様に見えた。


「一体誰が指揮を執っているんだ?」


 困惑するシヴァの一方、常と変わらず不気味な微笑みを張り付けている男がいた。もう一人のイヌ族軍副長、ミツルギだった。


「誰が率いているにしろ、敵が少数でも厄介なのは変わらないだろ?」


「それはそうだが……」


 飄々とするミツルギにに対して、腑に落ちないという様子のシヴァ。そんな二人の下に伝令兵が走り寄ってきた。


「お伝えします! ドグマ様より、敵を殲滅せよとのことです!」


「やれやれ、我らが大将は閉じ籠ったままか。考え事をしている暇は無さそうだな?」


「くっ……。弓矢準備しろ! 射程内に入り次第、一斉射だ!」


「俺は裏門を指揮してくる。こっちは任せたぞ」





 慌ただしく配置に付いた兵士たちを尻目に、立ち去るミツルギの笑みは最後まで変わらない。


「敵はたった百……。しかしこちらはここまで連敗続きか。一応備えだけはしておくかな。っくっくっく」


 聞く者のいない暗い嗤いは、石の通路に染み込んで消えていった。

 いつもご愛読ありがとうございます。


 久しぶりのイヌ族のシヴァ登場に当たり、彼の初登場シーンを書き直してきました。


 当時、「後々イヌ族の配下になったハヤテたちの上官として、実は身内には良い兄貴分」という設定を考えていながらも、何故か色々悩んだ末に「ヒャッハー」な世紀末チンピラのような言動をさせてしまい、いつか直したいな、と思っておりました。


 あ、該当部分はわざわざ探さなくていいです。


 もしも当時の彼を覚えていらっしゃる方は、「あれ、こいつこんなキャラだっけ?」と思われてしまったかもしれませんが、十年の時間の流れが彼を変えたということでどうか一つ。


 それは最初にヒャッハーなキャラ付けをした理由の一つではあるのですが、流石に十年で変わり過ぎているだろうというのと、ヒャッハーな人の下にハヤテたちが着いて「あいつは実は良いやつ」というのも無理があるだろう、と再会シーンを考えている頃に思ってしまったので、今更ではありますが修正を行いました。




 もしもヒャッハーなシヴァが好きだったという人がいらっしゃったら申し訳ございません(まずいないとは思うのですが)。復活の予定はないです。

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