シュリの手記3
三章のあらすじです。読み飛ばして頂いても問題ありません。
要塞都市ブラードでマリアたちと別れた私たちは、レムリア王国の国境を越えた。
そこは人間の国ではないけれど獣人領とも違っている不思議な地域で、辿り着いたツザという町では獣人と人間が共存していた。
その町で出会った料理店の女将トラヤは顔が広いのか、ツザの町が元々小さな集落だったことや、オオカミ族の噂を教えてくれた。
翌日、ツザの町にイヌ族が向かっていることを知った私たちは、トラヤたちと協力して町の住人の避難を手伝うことにした。
ツザの町人間代表マシューは「様子見してはどうか」と言ったけれど、長らく小競り合い止まりで、ちゃんとした戦争なんてやって来なかった獣人領の一種族に、戦争のやり方を知ってる人がいるとは思えない。
人間の王国には積み重ねた歴史が確固として残されているけれど、獣人領にそれはなかったように思う。人間より優れているから故に、人間のようにはしないという傲慢さ。
百年前の戦争で得た知見など何一つ残っていないであろう獣人たちとの戦争など恐ろしいことこの上ない。
泥沼の市街戦になるか、虐殺か。オオカミ族を襲ったイヌ族が友好的な融和策をするとは思えない。特に人間は逃げるべきだと助言した。
◇
避難民を警護する旅が始まった。
マシュー率いる人間たちは西の王国へ、犬獣人カク率いる獣人たちは東の獣人領へ。
人間と獣人の家族など、どちらにも行けない人たちを連れたトラヤは、心当たりがあると南東へと向かった。
マリアの護衛の時とは守る相手の数が違ったけれど、ツザの町の自警団長シロウを含めた自警団員が護衛として付いてきたので、人手は足りた。
しかし元自警団員たちは偉そうな態度の割には練度がなっていない……。時間があればちょっと勉強してもらおうかな。
無事に辿り着いた隠れ里では、犬獣人のリナや希少種族と呼ばれる兎獣人のユキ、そして絶滅したと言われていた鳥獣人のハルと出会った。
またオウガが目を離した隙に女の子と仲良くなっていた。
でも大丈夫、ハルは仲間だった。キョウイは無い。
空を飛ぶ時にスカートは二度と穿かない。
◇
隠れ里にイヌ族の兵士たちがやってきた。
占領したツザの町から徴兵部隊をいくつも放った内の一つらしい。
隠れ里にやってきた徴兵部隊を率いていたのは、オオカミ族の生き残りのハヤテだった。その部隊の半数は狼獣人たちで、アヤリもいた。
隠れ里には人間もいるし、人を出せる程余裕はない。何とか隠れ里のことを見なかったことにしてもらおうと思ったら、オウガとハヤテが決闘することになってしまった。
森の中でひっそりと行われた決闘は、ハヤテが勝ったらしい。
ハヤテたちは「隠れ里は見つからなかったことにする」と言って、本隊に戻っていった。アヤリも隠れ里に残らないかなと誘ったのだけれど、ハヤテちゃんが心配だからと断られた。結局、再会の約束をして見送ることしかできなかった。
よほど悔しかったのか、オウガが修行をすると言い出した。剣無しの手加減をして負けただけだから気にしなければいいのにとは思ったけれど、私も自警団員の腑抜け共を何とかしたかったから丁度いい。
◇
隠れ里に居着いてから一月程。
ハルの父親で同じ鳥獣人のカズさんにツザの町やその周辺までの偵察をお願いした。
どうやら王国軍とイヌ族の第一戦はイヌ族が圧勝したらしい。でも犬獣人ばかりで武功を立てに行ったみたいで、ハヤテたちオオカミ族の生き残りや猫獣人などの他の種族は、ツザの町でお留守番。
心配をしなくていいのは助かるのだけれど、王国から逃げ帰って王国軍を引き連れてくるなんてことにはならないで欲しいと切に願う。
オウガの修行は順調そう。私の元自警団員たちへの訓練成果は……甘く見て及第点。もっと扱かなければ。自分への甘さは死を招くことを知ってもらわないと。
里の住人の増加による食糧不足は野生の野菜のおかげで何とかなりそう。しかしなんでこんなにも色々生えているんだろう。
◇
イヌ族は要塞都市ブラードを攻略しようとした。
しかし失敗に終わったようで、 戦争に負けたイヌ族が追撃する王国軍にハヤテたちを囮に使った。
私たちはトラヤの好意で、鍛えた自警団員を借りてハヤテたちの援護に向かった。
ハヤテたちを包囲していた王国軍を撃破して、彼らの救出に成功した。
王国軍の騎兵部隊を率いていたのはディメス。昔アマーストの町でオウガに尋問という名目で拷問していたいけ好かない町騎士。オウガの不意打ちで落馬しても死ななかった悪運の強い奴。次は逃がさない。
ハヤテたちと持てるだけの戦利品を持ち、ツザの町近くまで戻ったのだけれど、様子がおかしい。
◇
犬獣人たちは元々の自分たちの領土へと逃げ込み、追い出されたネコ族やキツネ族などの人たちがツザの町へと集められていた。
オオカミ族や一部の種族は仲間としたいのか、イヌ族領への帰還命令が出ていた。ハヤテは悔しそうに部隊の仲間を頼むとオウガに頭を下げて東へと去って行った。
ハヤテの部下の人たちに隠れ里やハルのことが知られてしまっているので、全てを隠さずに上手いことご協力頂こうかとご近所付き合いの挨拶をしようと思ったのだけれど、ネコ族もキツネ族も族長だった人たちがほとんど戦死してしまったらしい。
ハヤテの部下だったアヅマという猫獣人の男性が最有力のようだけれど、如何にも武官といった感じの人で戦いで引っ張るのならともかく、町長とかは向いていなさそう。
縋るような目で私たちを見てきたけど、町長になるのは今は無理。後でトラヤを紹介しよう。
そんなことを思っていたら、ハルが町の真ん中へと降りてきた。隠そうと思ってた私の気遣いを察して欲しい。まあ、そんな無茶をしてハルが早急に伝えてくれた「王国軍が向かってきている」という情報は、とても有り難い物だったのだけれど。
◇
アヅマが素直に私の下に就く姿勢を示してくれたので、町の人は協力的だった。おかげで限られた時間の中で、王国軍の進軍経路に砦と罠を造ることができた。
木製の砦は実質ただの盾で、こちらの弓兵に敵の弓矢が当たらなければそれでよかった。肝心なのは罠の方で、道の途中に穴を堀って潜み、王国軍が近付いた所で飛び出して奇襲する。
その一番危険な役目を負ってくれたのはオウガやシロウたち元自警団員、そしてハヤテの部下の人たち。
彼らは敵の姿が見えないまま穴に隠れることになる。その恐ろしさはどれだけのものだろう。絶対に敵に気付かせない。私は強く誓った。
奇襲は成功し、ディメス・ディメリア率いる伯爵軍に大打撃を与えた。しかし、あわよくばディメスの首級も、と欲をかいたのがいけなかったのか――。
戦場にグリフォンが襲来した。
戦場は混乱し、伯爵軍後方で控えていた王国軍から停戦の使者が送られてきた。
驚いたことに、王国軍からの停戦条約の書状には、アランの名前が書かれていた。私たちと戦っているのはディメリア伯爵軍という、王国軍から離反した者たちで王国軍の意思では無いらしい。
養父は厭らしい嘘を吐く人ではないので、恐らく彼の筆跡で書かれたこの書状は信じてもいいと思う。
ただ、兵士を見逃して欲しいだなどと虫の良いことが書かれていたので、ツケにしておくと返事を書いた。何で返してもらおうか。
戦場では王国軍からの援軍であるラウル率いる騎兵部隊とオウガたちが共闘して、グリフォンの足止めをしていた。そこに王国軍の携帯工場兵器スコルピオを用い、グリフォンを討伐すること成功した。
私はその時、油断してしまったのだ。
瀕死のグリフォンの最後の突撃を避け切れず、私を庇ってオウガが大怪我を負ってしまった。
ラウルが王国軍から治療師としてマリアを呼んでくれたが、傷が深すぎて彼女でも治すことができないかもしれない、泣きそうな顔で彼女はそう言った。
私は一心不乱にオウガの無事を願った。
そして奇跡は起きた。
オウガの傷は癒え、更にはあの時失った耳と尻尾までも復活した。
◇
あれから一月。私たちは今もツザにいる。
王国軍は撤退していたけれど、マリアとレイアはオウガの治療のためにツザの町に残った。
マリアは私の治療の奇跡の師匠にもなってくれているけれど、治療と称してオウガや獣人の子たちをベタベタと触ったりと不審な行動が目立つ。要警戒。
ツザの町長にはトラヤになってもらったのだけれど、人手が足りな過ぎてオウガまで事務処理に駆り出している。
グリフォン討伐後、瞬く間に集まってきた商人の商魂の逞しさには頭が下がる。とりあえず何にでもグリフォンと付けとけばいいと思ってる節もあるけれど。
今日も商隊の護衛が問題を起こしたようだ。この忙しさはしばらく収まりそうにない。
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こうやって改めてあらすじを書いてみて、「やっぱり三章は長かったなあ」としみじみと感じます。
次からのツザの町復興話を幕間として書くか四章として書くかまだ決めていないのですが、もしかしたら三章のどこかからを四章にして次章を五章にするかもとか……もしかしたら万が一あるかもしれません。
また例によって例の如く本文の読み返すは最小限に、手元のメモと記憶を下に作成しておりますので、本編と違う部分があるかもしれません。正しいのは多分本編です。
それはそれとして予定では次章で最終章になります。長さは三章よりは短い、はずです。
最後までお付き合い頂ければ幸いです。