48.予想外で想定外
前話のあらすじ
イヌ族から捨て駒にされたハヤテたちを救助した。
「オウガ、シュリ……それに皆さんも、助けてくださりありがとうございました」
ハヤテを筆頭に、混合獣人部隊の者たちが頭を下げる。
「気にしなさんな。いつもの訓練を思えば走らされただけで楽なくらいだ」
代表して笑って答えたのは、ツザの町元自警団長の犬獣人シロウだ。他の者たちも思わず苦笑して頷くのを、シュリが冷めた目で睨み付ける。
「土産までもらってしまって」と恐縮するハヤテの視線の先では、王国軍の鉄装備が山となっていた。
オウガたちでは持ち帰られない戦利品を、時間稼ぎの証拠としてハヤテたちに持ち帰ることを勧めたのだ。
「長なんだから皆のために素直に受け取って」
シュリが微笑んで背中を押すが、
「しかし、俺たちはオウガが来なければ……」
「族長代理をやってきたのはハヤテでしょ? そもそもオウガに今更オオカミ族の長とか無理」
肩を落とすハヤテの肩を苦笑して叩く。視線の先には、話題にされて小首を傾げる恍けた表情の獣耳無し獣人オウガの姿があった。
◇
大量の戦利品を抱えた帰り道は、強行軍だった往路とは一転してのんびりとしたものだった。
幼馴染の狼獣人四人は長い空白の時を埋めるように言葉を交わしたが、お互いの無事以上の朗報を聞くことはできなかった。
そしてツザの町が近づき、別れの時もそろそろかと皆が思い始めた頃、異変を感じ取ったのはハヤテだった。
「何だかツザの方が騒がしいな」
「そう? 人が大勢いるならこんなものじゃないの?」
「いや、多種族を併合したイヌ族の規律は厳しいんだが……まさか宴でもやっているわけもないし」
先頭を行くハヤテとオウガが首を傾げるのを他所に、隊列の最後尾で周りを窺ったシュリがミライの耳元に囁きかける。
「ミライ、ハルと偵察に出てほしい」
「わかった。ハルお姉ちゃん、行こう?」
ミライが小さな手に握った手綱、その先の馬上に座る鳥獣人ハルがこくりと頷いた。混合獣人部隊と合流してしまった道中では、外套を羽織り、人見知りを理由にその特異な姿を誤魔化していたのだ。
隊を離れていく二人に訝しがる視線を適当に誤魔化すと、シュリはオウガたちの下へと戻っていった。
一人先行して偵察を行うと主張するハヤテを皆で押さえていると、程なくしてミライがハルと共に駆け戻ってきた。その偵察の早さに驚くハヤテたちだったが、伝えられたツザの様子には首を傾げるのだった。
「犬獣人がいない?」
「うん。あまり近づいてないけど、見た限り犬さんはいなさそうだった」
「それで、何であんなに賑やかなんだ?」
「うーん、武器を持ってない女の人とか小さい子とかがいたからじゃないかな?」
「なんだって!?」
「ハヤテ? どうしたんだ?」
ミライと共に上空から偵察してきたらしいミライからの報告に、ハヤテが詰め寄って顔を強張らせる。
怯えたミライとの間にさりげなく割り込んだオウガが、ハヤテに問うと、
「ツザには元の住民の数人以外、女子供なんていなかったはずなんだ。イヌ族が撤退した後にどこかから集められる種族なんて……」
顔を青くさせたハヤテが、ツザへと向かって駆け出す。混合獣人部隊の部下たちもそれに続く。
残されたオウガたちも、イヌ族がいないのならとツザの町を目指すのだった。
◇
ハヤテの予想通り、ツザの町にはイヌ族に併合された元ネコ族や元キツネ族の女子供老人などの非戦闘要員が呼び出されていた。
元々は王国領に侵攻した後、広げた獣人領を統治するために獣人の居住地域を増やそうと大移住をイヌ族が計画していたというのだが、今この王国領との緩衝地帯にイヌ族以外が残されているということの思惑は明らかだろう。
そして、呼び出されていた種族の中にはオオカミ族の姿は無く、他にも獣人領奥地の種族は呼び出されておらず、イヌ族の支配地域への帰還命令が出ていた。
「皆、すまん……。オウガ、シュリ。こいつらのことを頼む」
オオカミ族を人質に取られては拒否もできず、ハヤテとアヤリは無駄になった戦利品を置いて、急ぎイヌ族領へ向かってツザを後にした。
残されたネコ族やキツネ族は、土地勘が無い上に族長もイヌ族との争いで失い、見慣れぬ土地でどうしたものかと戸惑うばかりだった。
そんな中、率先して新族長として部隊を引っ張っていたハヤテは多種族からも一目置かれており、そのハヤテに後を託されたオウガとシュリにも注目が集まっている。
オウガが困り顔で戸惑う中、キッパリと拒絶の意思を示そうとしたシュリだったが――
「大変です!」
上空から飛び込んできたハルによって、出鼻を挫かれるのだった。
「どうしたの?」
身の危険を冒してまで、人前に飛び降りてきた報告を急いだハルに、オウガとシュリに嫌な予感が過る。
「――王国軍がこの町に向かっています!」
いつも応援ありがとうございます。
ブックマークや評価、ご意見ご感想など頂けますと作者が喜びます。