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オオカミノ国  作者: 十乃字
三章・衝突は必然
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33.ツザ会議

 前話のあらすじ

 オウガお兄ちゃんたちが、役立たずの自警団さんの前でイヌ族の人たちを倒しちゃった。


「さっきはすまなかった! 頼むから、トラヤさんたちに事情を説明するために付いてきてくれ――いや、付いてきてください! お願いします!」


 血の気の引いた青白い顔をした自警団団長シロウが、一転して謝罪を口にし、低頭に幾度となく頼み込むのに呆れたオウガが折れ、彼に連れられてツザの町の中心部へと戻ることとなった。


 彼らが案内されたのは、その場凌ぎのような粗末な建物が多いこの町にあって、古めかしい石造りの堅牢な建築物だった。自警団の詰所として使わせてもらっているというその建物は、まだ町になる前からあった半壊した遺跡を改築したものだ、とシロウが物珍し気に建物を眺めるオウガたちに説明した。


 オウガたちが通されたのは、自警団の牢屋ではなく、広間にいくつかの椅子と机を並べた会議室だった。


 三人分の飲み物を用意したシロウが歓待の意思を示したので、オウガたちも素直に席に座り一息吐いた。


 程なくして、他の自警団員に連れられてやってきたのは、壮年の人間の男、同じく壮年の犬獣人の男、そして壮年の猫獣人のトラヤであった。


「あれ? あんたたち――」


 オウガたちと目の合ったトラヤが疑問を挟む前に、「申し訳ない!」と深々と頭を下げたシロウの大音声で、ツザの町最期の会議が始まった。



   ◇



「いきなり頭を下げられても困るよ。何があったんだい?」


 と困惑しながらも穏やかに問い掛けたのは、ツザの町代表の一人である人間の男――マシューだった。トラヤと壮年の犬獣人――カクも同様に首肯する。


「実は――」


 青い顔に油汗を浮かべたシロウが語り始めた情勢に、代表の三人も徐々に顔色を変える。


 曰く、数日前にイヌ族の先兵が自警団と接触し、ツザの町を住人家財諸共イヌ族に接収させるように告げてきたのだという。そして今日、その返事を聞きに来たと思われるイヌ族一行を、オウガたちが殺めてしまったと。


 シロウは問題をより深刻にしたのは自分ではないと証言させるためにオウガたちを連れてきたようで、察したシュリが白けた目で彼を射抜き、


「小さい奴……」


 ポツリと呟かれた毒は室内全員に聞こえるように発せられ、オウガとミライによって窘められた。


「何故黙っていたの?」


 代表たちで最初に口を開いたのは、シュリの毒舌に驚き呆れていたトラヤだった。食堂の気さくなおばさんは鳴りを潜め、厳格な町の代表としての顔がそこにあった。


 萎縮して縮こまったシロウは、


「トラヤさんたちも町の皆も、俺たちのことを腰抜けってバカにして……俺たちだけでイヌ族を追い払って、俺たちだってやれるぞってとこを見せたかったんだ!」


「そんなことのために……」


 トラヤが呆れて頭を抱える。ツザの町代表の一人として数えられる自警団団長のシロウだったが、他の代表三人に対して歳が若い分立場が弱く、町内の自警団の扱いも低いため劣等感に苛まれていたようだ。


「いったいどうするつもりだったんだ?」


 トラヤの隣に座したのは犬獣人のカク。オウガたちが世話になったツザの町唯一の宿屋の主人で、寡黙ながらに宿泊客には気配りを行う彼も、この場では巌のように厳めしい。そんな彼からの質問に、


「いくら拡大したイヌ族の軍隊だって、戦力に限りはあるはずさ。徹底抗戦の意志を見せれば、王国との戦争を前にして、わざわざ敵を増やしたくはないはず。周りの平野は広いし、ここを無視して素通りしてもらえるはずだったのに、それがこいつらのせいで……ひっ!?」


 シロウがオウガたちを指さそうとして、シュリの汚物を見るような冷ややかな視線に身をすくませる。


「ふむ。では彼らには何か罰を――」


「マシュー!? そんなこと言ってる場合かい!? 今は町全体の命が懸かってる問題なんだよ!?」


「ふむ、トラヤ。それはそれ、これはこれだろう。彼らは君の知り合いのようだけど、それが理由で庇っていないかね?」


「だから今はそんな話をしてる場合じゃ――」


「マシューさん。一つ、いいですか」


 どこかとぼけた人間の代表、マシューとトラヤが口論を始めた所で、オウガがスッと手を挙げた。


「何かね?」


「戦うにしても降伏するにしても、彼らイヌ族は人間を皆殺しにするつもりみたいだから、王国の方へ避難させた方がいいと思いますよ?」 


「なんだって!? シロウ、本当なのか?」


「た、たしかにイヌ族の兵士はそう言っていました」


「ぬう。ならばすぐに避難指示を出さなければ……しかし本当にそんなことをイヌ族はするのか? 意味があるようには思えないが……」


「する」


「シュリ?」


 唸るマシューに、断言したのはシュリだった。


「お嬢さん、何故そう言い切れる?」


「多分彼らイヌ族は……」


 シュリは何かを言いよどみ考え込むと、僅かに首を横に振り、


「……いえ、彼らの上がどう考えているにしても、下っ端は殺る気みたいだから、降伏するなら人間は逃げた方がいい」


「その子の言う通りだわ」


 トラヤが肯定すると、隣でカクも首肯する。残されたマシューもしばらく唸った後、渋々頷いた。


「わかった。私はツザの町唯一の人間代表として、町民の人間全てに王国へ逃げるように告げよう。それでいいか?」


「命があってこそだものね。そうなると、残った人たちだけじゃとても抗戦なんてできないから、獣人たちも避難させるけれど、それでいいかしら?」


「ああ、はい。それでいいです、もう……」


「しっかりおし! あんたたちがこれから避難する人たちを守るんだよ!?」


 立場を無くし、すっかり肩を落としてしょぼくれたシロウをトラヤが一喝する。それでも気合いの入り切らないシロウに溜息を吐き、


「それで、あんたたちにも頼みがあるんだけど」


 とオウガたちに水を向けた。頼みの内容を察した三人は、顔を見合わせて小さく頷いた。


「報酬も用意できないお願いだけど、どうか皆が避難するのを手伝ってくれないかい?」


「俺からも頼む」


 トラヤに合わせて、カク、そしてマシューまでも頭を深く下げた。


 オウガたちはもう一度視線を合わせると、一様に頷いたのだった。



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