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オオカミノ国  作者: 十乃字
三章・衝突は必然
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31.誰かが求めた理想の在処

 前話のあらすじ

 マリアたちと別れて、レムリア王国国境を越えた。


 情勢の不安定な国境において、レムリア王国の勢力下にあると言えるのは要塞都市ブラードまでであり、それ以東は王国の庇護下ではないため、実質的な国境線は要塞都市であるといえる。

 では要塞都市を越えればすぐに獣人領かと言えば、そうではない。


「何だか不思議な光景……」


「みんな仲良しなのかな~?」


 獣人娘たちのそんな会話は、国境を跨いでからいくつもの小さな村を越えた先、ツザという小さな都市の一角、様々な種族で賑わう食堂で交わされていた。彼女たちの視界の中では、犬獣人の売り子から人間の町人が商品を買い、一方では猫獣人が人間の店主の手伝いで笑顔で接客している。


「セアスの町とは雰囲気が違うね」


 オウガが比較したのは、強制的に奴隷獣人たちが解放された結果、人間の住民が元奴隷の獣人から距離を置く、どこか歪な共生をするセアスの町の様子だった。この町では、人間と獣人が自然に溶け合うように混在しているように感じられた。


「お客さんたち見ない顔だが、余所から来たのかい?」


 忙しなく働いていた店の女将が一段落したのか、物珍し気に町を眺めるオウガたちに声をかけた。この恰幅の良い女将も猫獣人だが、客は人間も獣人も分け隔てなく訪れている。


「ええ、実は西の王国から来たばかりで」


「王国から。そうかい。それは大変だったねぇ……」


 人間と獣人の組み合わせに何か訳アリな空気を感じたのか、女将が憐憫の視線を送る。


「この町まで来れば、王国みたいに獣人を家畜か何かと勘違いしているような奴はいないから安心おし」


「この町の人は、皆さん獣人保護派なんですか?」


「獣人保護派? 何だいそりゃ?」


「えーっと、獣人が好きな人ばかりがいるんですか?」


「うーん。特別好きってわけじゃないと思うけどね。私たちが嫌いならわざわざこっちには来ないで王国にいるんじゃないかねぇ? 町にいる人は普通だよ、普通」


「普通……」


 快活に笑う女将の言葉に、オウガたちは顔を見合わせる。


「私はこの町の空気は嫌いじゃない」


「わたしも~。みんななんとなく楽しそう」


「俺も。賑やかだけど穏やかな町だね」


「嬉しいことを言ってくれるじゃないか。苦労してるかいがあるってもんさ」


「苦労ですか?」


 「あんたたちもっと食べなっ!」と空いた皿にお代わりを持ってきた女将に、オウガが問いかける。


「ああ、ここも元々は小さな村でね。人が集まってきて町になっちまったのさ。だから一番偉い人ってのがいなくてね。何人か代表を決めて何事も話し合ってるのさ。あんたたちの目の前にいるのは何を隠そう、その代表の一人、トラヤさんよ。崇めてもいいわよ」


「おばさんすご~いっ!」


 誇らし気に胸を張った女将トラヤだったが、ミライを筆頭にして素直な称賛の声を挙げられると、照れ臭そうに制止した。


「ま、まあそういうわけでね。変わった町だと思うけど、褒められると嬉しいのさ」


「確かに貴族の屋敷みたいなのが無かったかも。でも村長はいなかったの?」


「そんなものが必要ないくらい、本当に小さな村だったのさ」


 シュリの問いに、数瞬どこか遠くを見つめたトラヤが答えた。


「代表さんはどんな人がいるの~?」


「私みたいに店をやってるのが3人と、後は自警団の団長がそうさね。」


「自警団……」


「自警団って言っても、この町に来るような奴は王国から逃げてきた奴か獣人の領土争いから逃げてきた奴だからね。へっぴり腰ばかりで情けないったらないよ」


 「そのくせ偉そうったらないのさっ!」とトラヤが不機嫌そうに鼻を鳴らす。 


「いらないなら、なくしちゃえば~?」


「自警団があるってだけで悪い奴らが来なくなったりするからね。必要でもあるのさ」


 苦笑したトラヤが、過激な発言をしたミライの頭を撫でる。


「大変そうですけど、頑張ってくださいね。俺もいつか住むならこんな町がいいなって思います」


「ありゃ。あんたたちこの町に住むんじゃないのかい? あんまり東に行くと人間への風当たりが強いよ?」


 トラヤの忠告に、オウガはしまった忘れていたと内心焦りながら苦笑して頭を掻き、呆れた目でそれを眺めていたシュリが、肩をすくめて誤魔化す。


「私の故郷を目指してるの。多分もっと北東。トラヤさん、オオカミ族の村って知らない?」


「オオカミ族って云えば随分昔にイヌ族に滅ぼされちまったんじゃないのかい。そうかい。あんたはオオカミ族の生き残りなのかい」


「滅ぼされた……」


 覚悟をしていたことではあったが、突きつけられた事実にオウガとシュリ、さらにはミライまでも動揺を隠せないでいた。


「狼獣人の多くはイヌ族の配下になったって話だから、そこには知り合いもいるかもしれないよ?」


「生き残りがいるの!?」


 顔をくっ付けんばかりに近寄らせたシュリの見開かれた瞳に気圧されたトラヤが後退りながら、


「ああ、元々イヌ族の戦力拡大のための襲撃だったって話だからね。生き残ってる方が多かったんじゃないかい?」


 「その後、他の種族を襲うのに駆り出されてるだろうし、今どれだけ無事かはわからないけどね」とシュリの肩を抑えたトラヤが言い辛そうに付け加えた。


「それでも十分な情報。ありがとう」


 トラヤの手を取り、微笑んで深く頭を下げる。


 「またいつでもおいで!」とにこやかに見送るトラヤにミライが大きく手を振りながら、三人は店を後にした。


いつも応援ありがとうございます。


三章獣人領編突入でございます(厳密にはまだ獣人領ではなかったことに今気付いたのは秘密)。


定期投稿を目指して頑張りますので、お付き合いの程よろしくお願いします。


※ 二章までのあらすじを投稿予定でしたが、読み物として楽しめる物にしたいと思ってしまったので、後日改めて投稿することにしました。『登場人物紹介』の次ページに差し込む予定ですので、投稿後に最新話の後書きにてご報告いたします。

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