シュリの手記1
一章のあらすじです。読み飛ばして頂いても問題ありません。
アランから字を教えてもらった。練習用にと何も書いてない本を渡された。何でもいいから書いてみろと言われたけど、困る。
色々と考えたけど、あの日からのことを書こうと決めた。忘れたくないから。
あの日は春の晴れた日だったと思う。
いつものように皆で遊んで、お母さんのお手伝いをして、お父さんがお肉を持ってかえってきて。
そんないつも通りが、真夜中に終わった。
お母さんに起こされたら、お父さんはもう家にはいなかった。手を引かれて外に出たら、オウガたちがいた。
皆が不安で、心細くて、集まって震えて。
村の入口の方の空がが赤々と滲み始めたのは今でも覚えている。突然胸がザワザワして、そこにいちゃいけない気がして、そうしたらオウガのお母さんのアイナさんが皆に逃げろって。
先にオオカミ族の他の人たちを逃がしたけど、お母さんたちは村でやることがあると言って、私たちだけを逃がした。
本当は村に残ってお母さんたちを待ちたかったけど、絶対にダメだって。
そこからはよく覚えていないけれど、オウガに手を引かれてずっと山の中を走っていた気がする。
森の広場で目が覚めたら、オウガしかいなかった。ハヤテは、どこかに行ってしまったアヤリを探しに行ったらしい。
そこに現れたのが、イヌ族のミツルギだった。
彼は、笑顔で私たちを助けると言って……人間の奴隷商に笑顔で売り払った。
それからのことは思い出したくもないけれど、忘れることは許されない。
奴隷商人のメストは、私たちを調教だと言って何度も殴った。
特にオウガは、商品価値が無いからって私の分まで殴られていた。それでもオウガは、私を励ましてくれていたのに……。
あいつらは、見せしめだって言ってオウガの耳と尻尾を、切り落とした。
その愚かな行為の代償として、奴隷商人たちは血の臭いに誘われたグリフォンに襲われたらしい。
でも、あいつらが死んだところで、オウガの自慢の尻尾もピンとした耳も、もう戻らない。
オウガはそんなヒドイ目にあっても、気絶した私を背負って歩き続けて、そしてアランに出会うことができた。
人間なのに私たちを助けてくれたアランはモチロン恩人だけれど、私の一番の恩人はオウガだ。
いつかこの恩を返すことはできるかな。
※あらすじ執筆に当たり、本編を一応読み返したのですが、ほとんどは記憶やメモを下に書き下ろした物ですので、もしも本編と齟齬などがありましたらご報告頂けると助かります。